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私は関西出身です……。
隆士が五年生になったある日の出来事である。
その日、朝のホームルームであるクラスメイトが先生に言った。
「たまには好きなもん同士で給食食べたいです」
他の学校もそうだとは思うが、隆士の通う小学校も基本的に給食はくじ引きで決められた班毎に机をくっつけて食べるというのが常であった。
先生は、
「それはあかんわ」
と言ってその要望を一蹴しようとしたが、別の生徒も初めの生徒に続いた。
「私も好きなもん同士がいいです」
さらに何人もの生徒がそれに続き、ついに先生は押し切られてしまった。
そのとき先生が出した条件は一つ。
「しゃあないな。でももし一人で食べてる人がいたら、その時点で好きなもん同士で食べるのは終了やからな」
……隆士にとっては最悪の事態となった。
どう考えても隆士をさそってくれそうなクラスメイトはいなかった。
頼みの直紀は隣のクラスである。
これは言い方を変えると、隆士には直紀以外助けてくれそうな人間がいないということを意味していた。
隆士にとって給食までの時間は憂鬱以外の何物でもなかった。
給食の時間が近づくにつれ、隆士の憂鬱度も上がっていったが、それでもやはりそのときは来てしまうのである。
四時間目終了のチャイムが鳴り、クラスメイトが次々に好きな者同士で机を並べ始めた。
だが、やはり隆士をさそってくれる者などいなかった。
隆士に為す術はなかった。
隆士は惨めな気持ちでいっぱいになった。
だがそのとき、一人のクラスメイトが隆士に話しかけた。
「俺達と一緒に食おうぜ」
以前の隆士なら、天の助けとばかりにその言葉に飛びついていたのかもしれない。
だが今は違う。
なぜなら、その言葉が真に自分を思ってかけられた言葉でないことを理解できてしまうようになったから。
しかし隆士はその言葉にNoで返すことはできなかった。
できる訳なかった。
自分のせいで好きな者同士で給食を食べられる状況が終わってしまうのが怖かったから。
もっと言うなら、この状況を終わらせてしまった後のクラスメイトの冷たい視線を見るのが恐かったから……。
こうして隆士はそのグループの一番端に自分の机をくっつけ、無言で給食をむさぼるのだった。
それは隆士にとって苦痛以外の何物でもなかった。




