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〇これチケット事件と時を合わせるように、隆士に新たな懸案事項が浮上してきた。


3歳のときから隆士の体に巣食ってきた肝炎が、本格的に牙をむき始めたのだ。

それまでは高くても2桁台に収まっていたGOT、GPT、γ-GTPの値がいずれも100を超えた。

何回血液検査をしてもGOT、GPTは200~300の高値を叩き出し、γ-GTPは400を超えることもあった。

医学のことは良くわからなかったが、これまで検出されていた値が突然5~10倍になったことは隆士を怯えさせるのに十分であると共に、人生で初めて自分の死を身近に感じ始めた。


「前回の治療の結果から推測すると、おそらく今認可されてる最新の治療を行っても効果はあまり期待できないんですよね」


と肝炎の主治医が言った。

さらに主治医がなぜ効果が期待できないかを説明してくれた。


「宮坂さんが前回治療を行ったときはウイルスタイプでしか治療の効きやすさを判断できなかったんですね。 で、宮坂さんの場合は薬が効きにくいウイルスタイプだった訳ですが、それでも当時は約4割の人が治ると言われてたんですよ。 でもその後、治療を受ける患者さんの持つ特定の遺伝子によっても多きく効果が変わってくることがわかってきました。 それで当時治療をされて、治った方を対象に遺伝子の検査をさせて頂いたところ、やっぱり多くの人が治りやすい遺伝子タイプを持っていらっしゃったんですね。 当時治らなかった方の調査は絶対数が少なくて確かなことは言えないんですけど。 まあ、私の個人的見解ですがおそらく当時の治療では治癒率20%もいってなかったんじゃないかと思います。 それで、今の治療はそういった治りにくいウイルスタイプで且つ治りにくい遺伝子を持っている人でも約4割の方が治ると言われているんですが、それはあくまでも初めて治療を行う場合なんですよね。 一度何らかの治療を行った場合はウイルスが耐性を獲得してしまっている可能性が非常に高くて、治癒率はその分低くなります」


 まさか、前回の治療が足かせになってしまうとは……。


隆士はそう思う他なかった。

主治医はさらに続ける。


「でも、宮坂さんの場合、値がかなり高くなってしまったので、遺伝子の検査とウイルスに耐性が付いてしまっているかの検査をしてみましょう。 ウイルスの耐性検査については、本来宮坂さんのケースでは保険適用にならないんですが、そこは僕が持ってる研究費でなんとかしますので。 それと遺伝子検査には本人の同意が必要になりますのでこちらの書類にサインをお願いできますか」


同意書にサインを行い、その日の診察はそれで終了。

検査のための採血を行った後、隆士は家路に着いた。

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