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隆士が会社に入社して4年が経った。
先に休職した3名の同期は皆、休職期間を使い果たして会社を去っていった。
隆士はズル休みをしたプロジェクトが終わった後、とあるシステムの保守要員として参画し、気づけばそこで3年が経過しようとしていた。
部署自体はソフトフェア開発本部1課に在籍したままだった。
故に本来の上司とは月一の部会で顔を合わせる程度にしか接点がない。
始めは、
「ちょっとシステムの品質が悪くて、Javaできる要員を2カ月くらい貸してください」
と言う話であったのが、その後ズルズルと期間が延長され続けられた結果、仕事にも慣れていき、隆士の側からしてみれば奇跡の3年間が訪れていた。
今から考えても隆士が仕事を楽しいと感じ、また自分の仕事に対してそれなりの自負を持てたのはこのときだけであった。
まあ、しかし隆士のやる仕事と言えば上から与えられた仕様書を元にコーディングから単体テストを行って結果を提出するだけであった。
慣れてしまえば簡単なお仕事である。
そう。
今から思えば、こんな簡単な仕事を3年間もやらせてもらえたこと自体が奇跡だったのだ。
それなのに隆士は、
やっと俺も一人前に仕事できるようになってきたな。
と勘違いしていたのである。
あるとき、同じ仕事を担当する協力会社のK氏から、隆士が修正した部分が一部デグレを起こしてバグが仕込まれているとの指摘を受けた。
どうやら現場の社員にも報告されていて、チーム内では既に、
宮坂さん、やっちゃったね。
リリース前にTさんが気づいてくれて本当に良かった。
という雰囲気になっているようだった。
この仕事、もう3年もやってるんだ。
そんなミス、この俺がそうそう簡単にするはずない!
隆士はそんな思いに駆られて、ミスを指摘された箇所のソースコードを徹底的に調べた。
……これだ。
やっぱり、これは俺が修正したものじゃない!
隆士の判断は、
自分がとある改定のために修正したソースコードにK氏がさらに修正をかけたときにデグレが起こった。
であった。
とにかくデグレが自分のせいでない証拠をつかんだ隆士は、一目散にK氏の元へ向かった。
「Tさん! これ、僕のせいじゃないですよ! これ、Tさんの修正でデグレ起こしたんですよ!」
隆士の只ならぬ剣幕にK氏も平静を装いきれない様子だったが、少なくとも隆士よりは冷静に応対した。
「ちょ、ちょっと待って」
そう言いながらsvnに登録されているソースコードを確認するK氏。
「あぁ、ここか……。 でもさ、なんでこんな修正したの。 これじゃわかりにくいよね!」
遂にK氏のボルテージも上がり始めた。
それに対して隆士も反論する。
「いや。 これ、そんなにわかりにくいですか! だいたい間違えたのTさんですよね!」
「はいはい。 わかりました。 俺が悪い。 これでいいんでしょ」
「なんなんですか、それ。 もういいですよ」
隆士はそんな捨て台詞を吐いてK氏の元を後にするのだった。




