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隆士は2つ目のプロジェクトに参画した。
今回も新規開発案件、使用言語は前回に引き続きJavaである。
「前回は初めてのプロジェクトということで簡単な機能を担当してもらったけど、今回はそんなことないから」
上司がそう言って隆士に割り当てた機能は2機能。
予定工数は1機能目が製造・単体テストで60時間、2機能目はなんと115時間だった。
前回のプロジェクトでは大きくても予定工数30時間程度の小さなものばかり担当していたので、隆士は戦々恐々とした。
こんなクソでかい機能、俺に作れるのだろうか……。
仕様書を見ると、Excelファイルに文字がびっしりと詰まっていた。
1機能目で1000行以上、2機能目に至っては2000行以上もある。
隆士の懸念は確信に変わった。
こんなの与えられた工数で出来るわけない……。
1機能目、予定の60時間はあっという間に過ぎ去った。
「まだできないの?」
「すいません。 まだできそうにありません」
これが予定時間超過後、初めての上司と隆士のやり取りであった。
それが翌日は、
「いったい。 いつになったらできるの?」
「すいません。 ちょっとまだわかりません……」
「いや。 わかりませんじゃ、こっちも手の打ちようがないんだよ」
になった。
「そんなこと言われたって、見積もりがおかしいんですから仕方ないじゃないですか!」
隆士はとうとう反論してしまった。
それに対する上司の返答は、
「そんなこと言ったって、なんにもならないだろうが」
であった。
隆士よりも忙しい上司は、いちいち一個人の不平・不満を聞いている時間などないのである。
そんなこともあり、隆士の心は日に日に荒んでいった。
そんなときにタイミングを合わせるようにやって来たのが成果発表会である。
簡単に説明すると、新人がどういった業務を行っているのか、上司の期待値に対してどれくらいの成果が出せたのかを発表する場であり、役員も見に来るという非常に面倒くさい発表の場である。
Power Pointで資料を作って発表するのが基本的なスタイルである。
しかし、このPower Point資料が全く作れない。
実作業ではまだ1機能目が完成せず、当初の予定工数の2倍を超えようとしている。
成果なんてない……。
俺、全然できませんでしたってことしか書けない……。
隆士は実作業の遅れと資料作成に板挟みになり、どちらの作業も手につかなくなってしまった。
上司は2重の意味でまだできないのかとしつこく聞いてくる。
くそ。
成果発表会さえなければ……。
まあ、仮に成果発表会が無かったとしても、進捗の大幅遅れという事実は変わらないのだが。
遂に成果発表会2日前になっても資料は全くできていない状況となってしまった。
この日も上司が資料を早く提出するようにと隆士に迫った。
もうダメだ……。
俺の人生、終わった……。
結局、隆士は次の日と成果発表会当日、会社をズル休みするのだった。




