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隆士はソフトウェア開発本部1課というところに配属された。
やっぱり協力会社に任せっきりじゃなくて社内でもプログラム作れる人、必要だよね。
という社長の方針により一昨年新設されたらしく、1課だけで新人が7名配属されるという勢いのある部署だった。
その7人の中に白川という男がいた。
隆士と同じく情報系学部卒ではないということで、2人は始め、直接プログラミングとは関係ない雑務をペアでさせられることが多かった。
白川はとても物腰柔らかで、同期でも敬語を使うほどだった。
しかし実際に仕事をしてみると、これがとんでもない人物だったのである。
あるとき、上司から社長巡回用で見てもらうようのポスターを作るようにとの指示が2人に下された。
ポスターのある一カ所について意見が対立する二人。
「白川さん。 ここは、こういうかんじでまとめようと思うんやけど」
「私はこっちの方がいいと思いますけど」
「それなら別にそんなに内容変わる訳でもないから僕のでもいいと思うけど」
「じゃあ、ちょっと聞いてきますね」
そう言って、白川は上司に伺いを立てに行った。
「聞いてみましたが、やっぱり私のやり方でいいそうです」
隆士はやられたと思った。
どうせ自分の方法しか上司に伝えていないに違いない。
上司もよっぽどの内容でない限りはダメとは言わない。
お前、そのやり方、卑怯やわ。
そんな風に思いながらも隆士は渋々答えた。
「わかった。 じゃあ、白川さんの方法でいこう」
そして社長巡回当日を迎えた。
議事録を2人で取って、後で突き合わせて正式版を作ろうという手はずになっていた。
しかし、いざ社長が巡回に来たそのタイミングで白川は何処にもいないのである。
くそ、あいつ何処行きやがった!
結局、白川は社長巡回が終わるまでの約10分間、戻ってこなかった。
議事録は隆士1人で取った。
社長巡回終了数分後にタイミング良く戻ってきた白川を隆士は問い詰めた。
「なあ。 何処いってたん?」
「ちょっと休憩に出ていまして」
「ちょっと休憩に出ていまして、じゃないって。 もうすぐ社長来るってわかってたよね」
「すいません。 ちょっと疲れてしまいまして」
……。
なんだ、こいつは。
絶対わざとやってる。
絶対にわざとやってる。
隆士の心中は全く穏やかではなかったが、新人風情がここで声を荒げて問題事を起こすのもはばかられた。
隆士はこれ以上白川を問い詰めるのを止めた。
「白川。 あいつはやばい」
課内の他の同期にそう訴えてもなかなか理解はしてもらえなかった。
白川は、パッと見の物腰は非常に柔らかく、どちらかというと好感が持てるタイプであるためだ。
その事実がますます隆士を苛立たせた。
くそ!
あいつ、まじで許せねえ!
猫かぶってるのがますます許せねえ。
どうにかして、あいつの化けの皮を剥がす方法はないものか。
このときの隆士は白石に対してこのような憎悪を思い連ねるばかりなのであった。




