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隆士は大学4年になろうとしていた。
となれば必要になってくるのが就職活動である。
それとは別に隆士の場合、もう一つしなければならないことがあった。
それは3歳のときから患っている肝炎の治療である。
なぜ今の今まで治療を行わなかったのかというと、それは隆士の保有するウイルスタイプが従来のインターフェロン治療ではほとんど治る見込みがなかったためである。
しかしこのほど、ペグインターフェロンにリバビリンという薬を併用することで、隆士のような治りにくいウイルスタイプに感染している人でも5割弱の確率で完治するという治療法が認可されたのだ。
ちなみに、ペグインターフェロンは注射で体内に取り込む抗がん剤の一種であり、リバビリンは飲み薬である。
この治療、副作用の出方を見るため、始めに1週間程度の入院が推奨されている。
さらにその後、インターフェロンを打つために週に1回の通院が必要になる。
となると社会人になる前、時間の自由がある今のうちにやっておいたほうがいいと考えるのは至極当然なことであろう。
隆士は本格的な就職活動に入る前に治療に入ることにした。
入院初日、採血などの検査を行った後、夕方にインターフェロンを投与された。
数時間は特に目立った副作用は現れなかった。
……なんや、こんなもんか。
これやったら、普通にいけそうやな。
などと思っていたが、隆士はその考えをすぐに改めることになる。
そしてその夜。
熱が急激に上がり始め、39度台になった。
それと共に節々の痛みが隆士を襲った。
インフルエンザとほぼ同じ症状が出たといえばわかりやすいだろうか。
結局、熱と痛みにより隆士はほとんど寝ることができなかった。
そして朝になって思うのである。
こんなんが毎週、繰り返されるんか……。
いや、これは、きびしくないか……。
しかし、このときには節々の痛みと倦怠感こそ残ってはいたが、熱はほぼ平熱に下がっていた。
熱が下がればだいぶ楽になるもので、朝食も普通に食べることができた。
その後も重大な副作用が出ることはなく、体調も徐々に戻ったため、隆士は入院5日目に退院することになった。
そして2回目のインターフェロン投与日、前回の経験もあり隆士の気分は憂鬱だった。
またあの副作用にさらされるのか……。
注射が終わると隆士はそのまま下宿に直行、横になって副作用が現れるのを待ち構えた。
しかし結果からいうと、1回目のときと比べ、副作用は思いのほか軽く治まった。
倦怠感と節々の痛みは相変わらずあったが、熱は微熱にとどまり、症状はインフルエンザからただの風邪程度になったといえばちょうどいいだろうか。
これなら、なんとか就活もできるか。
以降、隆士は約9か月間、インターフェロン治療を続けることになる。




