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母親からは、
「大学はサークル入らんと友達できひんよ」
と言われたが、結局入らなかった。
2つほど見学に行きはしたが、どちらもその雰囲気に馴染めそうにないと感じたからだ。
それから約1年が経った。
始めは不安だらけだった隆士の一人暮らしも、今はそんなに悪くないと感じるようになっていた。
それは実家にいるときよりも色々と自由にできるようになったこともあるだろうし、少ないながらも同じ学科内に会話する相手ができたことも大きいだろう。
しかし何より大きかったのは、これまでの学校生活にくらべて密な人間関係が求められなくなったことだろう。
大げさに言うならば、高校までの学校生活は、隆士のような人間にとっては監獄のようなもの。
毎日、同じクラスメイトと顔を合わせ、自分が他者と比べてうまく立ち回れないことに失望する。
そして、そのことにより他者からよく思われていないのではないだろうか、嫌われているのではないだろうかと考え幻滅する。
その虚しさから本人の力だけで逃れてみせよというのはなかなか酷ではないだろうか。
実際、隆士は逃れることができなかったし、少なくとも宮坂家の両親はその監獄から隆士を救い出そうとはしてくれなかった。
それに比べれば、今の生活は気楽なものだ。
自分のやりたいことをし、自分のやりたくないことはしなければいいのだから。
だから、ほら。
今日もこうして、そして自分の意志で学食に来て、一人で晩飯を食うことも大したことじゃあない。
そこに自分の意志が存在しているのだから。
そんな風に考えながらさびしく飯を食っていると、これまた見知らぬ何者かに声を掛けられるのである。
「あの、私たち、ゼミをやっていてですね~~」
……全く。
学食での出来事の続きについては、宗教上の都合により割愛させていただきます。




