音速の騎士と音速の姫
どこぞのメーカー作成をネタに書いてみました。
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数秒、音の速さで動く術を得意とすることから「音速の騎士」の名で呼ばれています。
濃い緑色の目をした十代の騎士、二丁拳銃で戦います。
パートナーは音速の姫です
私は、自分の力が好きではなかった。
他の誰でもない、姫様に出会うまでは。
「ソリオン、我が剣となり、盾となり。万難を排したまえ」
「祝福のままに」
片膝をつき、首裏を見せるように大きく頭を下げる。
これから仕える主への忠誠の証。
満月の光を浴びて魔力を得た水晶の短剣が冷たく私の首に乗る。
ヒヤリとした感触に体が強張らないかだけが心配だった。
そうして、冷たいだけだった短剣越しに感じる力。
目の前に立つ女性、いや……少女としか言いようのないウィンディ王女の力だった。
その力は私の全身に行きわたり、いつしか2人を同じ色の光が包む。
契約の、成功の証だ。
「新たなる騎士と姫の誕生に祝福を!」
それを見守っていた王様からの祝福の合図。
教会の中に広がる歓声に、私は自然と姫様を見上げていた。
「これからもよろしく頼みますよ、ソリオン」
「勿論でございます」
世界でただ1人、私と同じ世界を見ることのできる姫様。
出会いは偶然、そう、偶然そのものだ。
この国には騎士姫制度という物がある。
王家の女性が、成人するまでに側仕えとして
一人の騎士を選ぶという物だ。
当然、女性に対して男性の騎士となればその選定には多くの試験がある。
その上で、条件を満たした者の中から姫たちが相手を選ぶのだ。
私、ソリオンはその下位も下位の立場に甘んじていた。
自分の事であるが、頭は悪くない。
それは試験の中でも筆記、記述等の知識を問う試験での
主席突破が証明している。
研究も好きで、様々な魔法の解析にもいくつかの論文を出しているほどだ。
体力も普通以上にあるはずだ。
そんな自分が何故と言えば、目覚めた能力が問題だった。
騎士が1人1つもつことが出来る術。
成人の儀式の際に得られるそれは人生を大きく左右すると言っていい。
火を起こす術を身に着け、戦場で敵を燃やし尽くす猛将もいれば、
癒しの術に目覚め、救護に回る者もいる。
そんな中にあって、私の術は非常に珍しく、
建国以来1人しかいないという術だった。
それは、数秒間音速で動けるという物。
瞬きの間に、離れていた場所から飛びかかり、
さらに元の場所に戻るという芸当すら可能にする。
これだけ聞けば平地や走れる場所に置いて最強とも言えたが……。
「よう、音速の騎士」
「ジュリアか。何の用だ?」
一人、練兵場の隅で木剣を振るう私に声をかけてきたのは同僚騎士のジュリア。
騎士とは思えない細い体に、
名前も合わせて女のようだ、というと怒るところはあるが気さくな男だ。
私にも、話しかけてくるほどには。
「おいおい、名誉の負傷から戻ってきたと思ったら随分と卑屈じゃないか」
「剣の一振りで二か月も物が握れなくなるのだ。騎士としては失格だろう」
そう、私の能力は音速。
その状態で物を握って殴り掛かればどうなるかわかろうという物だ。
二か月ほど前、試験の1つである郊外の見回り中、
豪華な馬車の一団が魔物に襲われるところに出くわした。
護衛の騎士も良く戦ったが、
相手の方が若干上手だったのだ。
貴人の乗っているであろう馬車が襲われ、
あわやというところで私たちが間に合い、私は相手の頭目らしき魔物に突撃。
仕留めることには成功したが……結論から言えば、腕を折った。
これ以上ないぐらい完璧に。
むしろもげなかったのが奇跡的なぐらいだ。
そこから癒しの術の力を借りながら復帰までに二か月。
元々細身だった体もジュリアといい勝負。
さすがの私も成績は落ちる一方だ。
しかも、互いに怪我があってはいけないと模擬戦も中止された。
これまでの試験も能力を使ったのではないか?などと影で言われる始末だ。
そんな状況で、私に絡んでくる騎士はそうそういないわけだ。
自然とため息も出るという物である。
「そう腐るなよ。良い話を持ってきた」
「良い話? またどこぞの湯あみ場の覗き場所ではあるまいな」
この男、騎士の癖に街に出ては女性を引っかけることが多いのだ。
いつだったかも、城の外にある塔から湯あみ場が覗ける、
等と連れ出して危うく巻き込まれるところだった。
「ちげえよ。お前さんの術を使っても戦えそうな武器のことだ」
「なんだと?」
半信半疑で聞き出した話は最近話題の魔銃のことであった。
──魔銃
仕組みは聞く限りは単純で、交換式の魔石を力として弾丸を打ち出す。
引き金を引くだけで打ち出され、
自分自身の力は全く使わないというシロモノ。
平民でも使えるので騎士が頼るべきではない平民の武器と見下されてるはずだ。
それを、騎士となるために生きている私に使えと。
「そう睨むなよ。弓矢と違って邪魔にならない上に、
手にするまで武器を持ってるとはわかりにくい。
直接ぶつかる武器が使えないお前さんにはぴったりだろう?」
悔しいが、ジュリアのいうことは事実だった。
こん棒だろうが剣だろうが、振るうような武器では音速時に自分が被害を受ける。
これは刺突武器でも同じだ。
音速で回り込んでから体術を使うぐらいしかないか、
そう考えていたのだから。
「ダメ元だな、試してみるとしよう」
そうして次の休養日に私は街の鍛冶屋へと足を運び、運命の2丁と出会う。
少なくない金額を払い、一番高い物を購入した。
安物を買ってもすぐ壊れると思ったし、
仮に持っていることを見とがめられても
装飾品代わりにと言い訳が効きそうだったのだ。
いや、嘘はやめておこう。
私は、その2丁にほれ込んだのだ。
その後、アンとスミスと名付けることになる2丁。
その力を発揮する機会は予想外にもすぐにやってきた。
隣国のパーティーへと出席する王様たちの護衛の中に
自分達も参加するのだという。
こうして重要な任務に慣れていくののも訓練だということだ。
順調に進むはずだったその旅路は、謎の軍勢に襲われるという不幸に出会う。
賊の人数は多く、近衛や私達も奮闘したが数を減らしきれず、
ついに馬車に取りつかれた。
「動くな! 馬車の中身がどうなってもいいのか? んん?」
賊の頭目であろう男の粘つくような笑みに私達だけでなく、
近衛達の怒りが膨らむが動けない。
下手に動けば中にいる王様らがどうなるか、言うまでもないことだ。
しかし、こうしていても仕方がない。
現に、実力のある近衛達は利き腕を切られ、その力をほとんど失っている。
その上、騎士たちの術は封じされていた。
火も起こせず、風も生み出せない。
賊はその間に馬車の中の王様と何やら交渉をしているようだった。
「どうしようもないのか……」
先輩である近衛騎士たちが完封された状態で、
私達に何ができるというのか。
幸いにも、私たちは縛られていないが
目に見える武器は取り上げられている。
鎧などの防具は身に着けたまま。
ただそれだけだ。
アンとスミスはマントに隠れて身に着けたままだが、
術が封じられ、飛びかかるのも難しいこの状況では……ん?
私は不思議な感覚を感じていた。
正しくは、いつもと変わらないように感じたことに違和感があった。
(もしかして……)
顔に出さないようにしながら、
私は賊に見えないような位置で手を動かした。
─音速で
「! ソリオン」
「黙っていろ。そのほうが生き残れる」
隣にいたジュリアが小さくささやくが私はそう言って黙らせた。
一見すると、私が単にジュリアを注意しているようにしか見えなかっただろう。
意を決して私は近くの賊に声をかけることにした。
「なあ」
「なんだ。雑魚は黙ってろ」
私は返事があったことに安心していた。
こうして返事があるということは、交渉の余地がありそうだということだ。
「話がある。中の人質を私達と交換しないか? 全員とは言わない。
王族の方々は体がそう丈夫ではない。長い交渉では倒れる方もいるだろう。
その点、私たちは鍛えている。人質になる王自身は残し、他は解放してはどうか」
そう、馬車には王様を始め、お妃や王子、姫君たち合わせて6人もいるのだ。
集まっていた方が管理しやすいというのもあるだろうが、
逆に扱いに苦労するのも確かだろう。
その上で見捨てられない相手と言えば王様本人ぐらいの物だ。
「……ちっ。おい、代わりに見張ってろ」
近くにいた別の賊に見張りが交代となり、
話しかけた相手は馬車へと向かっていく。
その間に私は賊の人数と状況を改めて確認する。
5……7、13か。
十分足りるな。
奇襲と封具の力が無ければ襲撃は成功しなかった人数だ。
後は……どこで動くかだ。
「お前の言うとおりに何人かは解放してやる」
解放される予定がお妃と王子3人と聞いて、内心怒りに燃えていた。
こいつらは、王を害するのみならず、
残した姫君をも毒牙に収めようとしているに違いない。
お妃は後の楽しみにとでも思っているのだろう。
代わりに選ばれたのは私とジュリアだった。
騎士の中でも線の細い私とジュリアということで納得の人選だ。
腰に剣を下げていない私は暗器を帯びていないかを
確認されることも無かった。
詰めの甘いことだ。
馬車へと連れていかれる私の前で、その扉が開かれる。
中に見えたのは、顔を青くしたお妃、王子たち、
そして私をじっと見る姫君だった。
王はその前に立つ男のせいで見えないが、生きているのはかろうじてわかる。
「お優しい騎士様が代わりに死んでくれるとよ!」
王様たちに少しでも恐怖を味わせようというのか、
人質の交換であるにも関わらず、私たちが目の前で処刑でもされるかのように賊は言う。
まだだ、まだここではない。
頭目らしき男が立ち上がり、私達を睨みつけて笑いながら手にした刃物を突き付ける。
「うわああああああ!!!」
私の作戦を理解しているジュリアが奇声を上げる。
賊も人間。
思わず彼の方を向いた瞬間が、勝負だった。
術を全力で発動。
色の無い、私だけが動く世界で、まずは王様のそばにいる頭目に向けてアンを抜き放ち一発。
成果を確かめる時間も惜しみ、馬車の外へ。
止まった時間の中、目に入った賊1人1人にアンとスミスから連続で発砲。
訓練の結果、速さを落とさずに私は曲がることが出来るようになった。
全力で動くとまた足を痛めるが、今はそれどころではない。
他の人間の時間にして大よそ8秒。
私の中では何分も経過したような感覚の後、周囲の光景に色が戻ってくる。
あえぐようにして息を荒くし、座り込む私。
久しぶりに全力で、かつ失敗の許されない動きだった。
でもその代わりに賊は全て倒し……っ!
1人、急所を外してしまったようで生き残っていた。
彼はわけもわからないまま、
近くに座り込んでいる私にその手に持った鉈のような物を振り降ろそうとしていた。
銃を持つ手も術の反動でうまく動かない。
(ここまでか……)
この男1人ぐらいであれば残った近衛達でも取り押さえることは可能だろう。
私は王族を守れた。
満足して覚悟を決めた私の前に、倒れる物があった。
直前に何か大きな音がしたが……。
「え?」
地面に倒れていたのは私に刃物を振り降ろそうとしていた賊であった。
「騎士ソリオン。私を守ってくださるのではなかったのですか?」
凛とした、それでいて少女らしい可愛らしい声色の持ち主は
馬車にいたはずのウィンディ王女。
「王女、今の動きは……。はっ! 申し訳ありません。
処分はいかようにでも」
訳がわからないが、ウィンディ王女が馬車からここまで
まさに一瞬で動いていることは事実。
そうなると……まさか、まさか!
「では戻り次第、私のそばに来なさい。音速の騎士ソリオンよ」
「ははっ!」
それが音速の騎士と呼ばれながら2丁の銃で戦う私と、
同じ音速の名を冠する姫様との……物語の始まりだった。
おてんばに走る王女とか思いつきますが書くには時間が足りません!