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制裁

<14歳編>

嫌な事を思い出した。小学生の頃誕生日パーティーをしようと近所の友達を誘ったのに一人も来てくれなかった。

何でだろうと思ったら朋美ちゃんの計らいで見事に情報が遮断されていた。

「カナちゃん、ごめんね。私風邪引いてて寝込んでたじゃない?それで皆に言うの忘れてて…」

誕生日が来る度にこれからも思い出すんだろうか?


【制裁】


11月の期末試験近くから朋美ちゃんはマスクをしだした。風邪予防と言っていたが…恐らく汚いと言われる口元を気にしてだった。ただ時期が良かったようで風邪を伝染されたくない受験生はほとんどマスクをしていたのでそんなには目立たなかった。

マスクの効果も手伝って朋美ちゃんはあまり話さなくなった。それは絶対的だった朋美ちゃんの存在が消え始めるサインのように思えた。

そして更に驚いたのは…

「朋美ちゃん…髪切ったんだ…」

朝廊下で見かけた時に別人のようにみえて驚いた。

「乾かすの面倒になったの」

長かった髪は肩上まで切られ内側に軽くカールしていた。反対に前髪は長め整えられご自慢の大きな瞳を隠すように下げられていた。

「それにマスクだと…もう誰だか分からないね。」

「その方が今は都合がいい。」

だろうね。と思いながら彼女の後姿を眺めていた。その時だった…私の中で悪戯心が疼いた。暫くして私も髪を切った。

朋美ちゃんと同じくらいの長さに。

「え?カナちゃん…!?」

すれ違う人皆驚いていた。

「切っちゃた。」

予測通りだった。私と朋美ちゃんは背格好が似てるので後ろから見れば高確率で見間違われる。私の狙いはそこにあった。

この時期になると試験前と試験中は部活がない。よって放課後は時間がある。もちろん試験勉強に備えてだが、私も試験期間の間は早く帰るふりして近所のスーパーのトイレに寄っていた。それは、トイレに行くのが目的ではない。

トイレの大きな鏡を前に私のぼやけた目にメイク用の糊を塗り大きめの二重に形成する。軽くまつげにカールをかけ薄くマスカラを上下に塗った。後はマスクをし、赤のチェックのマフラーを首にかけ直した。最後にピンで留めていた前髪を雑に下に降ろすと…

「あ。出っ歯ブスだ」

スーパーですれ違った同級生がそう囁いた。どの程度嫌われているか調査もしたかったが、この姿だと何をしても朋美ちゃんの悪評へ繋がる事が楽しくて仕方なかった。

雑誌1つ手に取ってもそうだ。パラパラとものの数分立ち読みしてたとしよう。翌日には「頭悪いくせに立ち読みなんかしてた」と出回る。

当の本人は一生懸命勉強をしている間、私はせっせと彼女の悪評ポイントを稼いでいた。

それを始めて3日目だった、公園で男子高校生に声を掛けられた。

「朋美ちゃん?夏祭り以来じゃん!!元気してた?」

そうやって親しげに話しかけて来た少年三人組は皆背が高くがたいが良かった。しかし、どこかバカっぽく間延びしたしゃべりがイライラした。これはヤバイなバレるとも思ったが適当な返しで彼らはあっさり私に騙された。元々私は声が掠れているので風邪だと言ったら彼らは疑う事なく納得した。

聞き出した所どうも彼らはマリリンの彼氏のご友人のようで、何度か朋美ちゃんとも会っていたようだ。

他愛もない話に適当に併せていたが、ある程度話した辺りで…三人は目をそれぞれ見合わせた。そしてこう切り出した。

「朋美ちゃん彼氏と別れたんだって?」

ふと見たら…あたりは暗くなり始めていた。公園の人気の少なさに身の危険を感じた。

「あ。うん…。」

「えー。今からの季節フリーって寂しくなーい?クリスマスもーお正月もあるしーバレンタインもあるよー。」

「ホント…寂しくなっちゃうね。」

「俺らみんな超フリーなんだけどなー。」

大体の意味は分かった。ここで分かったふりをするか…分からないふりをするか…。暫し悩んだ。

「フリーなら私と遊んでくれるの?」

「うん。俺らとみんなで仲良く遊ぼうよー。」

仲良くね…。そう言って緩く腕を掴んで来た。

「ごめん。朋美は今試験中なの…明日でもいい?明日なら一区切り付くからめいっぱい遊びたいな!!ね?ね?」

三人はまたそれぞれ顔を見合わせた。

「分かった約束だよ。明日またここで待ってるからね。」

「うん!!」

バカが…。マスクの下で自分が笑っているのが分かった。マスクをしてて良かったと本当に思った。


翌日の試験最終日。帰り際に道で朋美ちゃんを呼びとめた。他には誰も見られていない。

「朋美ちゃん!!今から暇?」

「え?」

「ちょっと付き合ってくれないかな?」

「何で?」

「大事な話があるの…」

「…分かった。」

暫く歩いた所で私はスーパーに寄った。

「ジュース買って来るから待ってて」

と言って…ジュースを購入。後は計画通り近くの公園に行こうと更に歩かせた。公園は昨日少年達と会う約束をした場所だ。途中まで来てこう言いだす。

「ごめん!!私さっきのスーパーにお財布置いて来たかも!?」

「!!」

「これ持って先に行ってて!!」

ス―パーの袋を渡し、私はスーパーへと引き返す。彼女のは昨日の私と同じルートでコンビニの前を通り公園へ向かう。

私は、スーパーに着いた辺りで時間を確認した。時間通り。さぁ…朋美ちゃんはどうなったのかしらね?


家に帰ったら何事もなかったかのように借りていた本を読みだした。もうこの本を陽子ちゃんから三回も借りている。最初は意味が分からなかったけど…敵国を朋美ちゃんに見たてた時に噂と言う名のプロパガンダが浮かんだ。

それは誰も疑いもせずすんなり受け入れる宣伝方法だった。この本を読むたびに新しい手法が思いつく。

その日の夜9時前だった。母親が電話口で何か困っていた。

「どうしたの?」

「朋美ちゃんがまだおうち帰ってきてないって…最近はまっすぐ帰るようになったのにね。」

「朋美ちゃんならまだ遊んでるんじゃない?」

「そーなの?」

「うん。今日は試験最終日だから朋美ちゃんから帰りに遊びに誘われたけど私疲れてて途中から帰らせてもらったもん。」

「…なんだー。向こうのママがすっごい口調で言うから探すの手伝わなきゃいけないかと焦ったわー。朋美ちゃんあんた帰して一人で遊びに行ったの?」

「さぁ?知れない?他に誰かと待合せしてそうだったけど、聞かずに帰っちゃったから。」

「そう?とりあえず…その事だけ伝えとこうかな。私朋美ちゃんのママ苦手なのよねー。」

そう言って母は再度受話器を手にした。



【制裁】→【14歳のプロパガンダ】へ続く。

続きます。次で最後です。

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