宣教
<14歳編>
悪い噂は光の速さで広まる。一度放たれた噂は色々装飾品をつけて当人の元に帰ってくる。もうその頃には真実があっても訂正なんかできない程の大きな怪物になっている。
【宣教】
「ねぇ聞いた?朋美ちゃん北里君とやっちゃたらしいよ?」
「朋美ちゃんって、ホント男好きよね」
「ウッチーとは別れたけどヤリ友だって!!」
「夏祭りの日に茂みの奥で北里君と一緒だったの見たって!!」
「朋美ちゃんって良く見たらブスくない!?」
「何であんなブスなのに彼氏居るんだろう?」
朋美ちゃんは秋頃から学校を休みがちになった。それは夏休み終わりから朋美ちゃんの悪い噂がひっきりなしに囁かれたせいだった。その頃から仲の良かったたなやんとも一切口を聞かない状況になった。必要な時は何故か二人とも私を挟んで伝言をしてくる。
たなやんは訳あって北里君とはお別れしたようだ。今はマリリンにべったりで何かとマリリン…マリリン…と騒いでは付いて回っている。その様子は母親を求める幼児の様だった。
当のマリリンは疎ましいながらも持ち前の姉ご肌の性格のせいでたなやんの面倒をみざる得ない状況だった。
学校中で回ってる朋美ちゃんの噂には少なくとも北里君と付き合っていたたなやんの事も含まれているので、話のメインは朋美ちゃんでも残念な事にたなやんにも飛び火してしまう。
あんなに元気で人の噂ばかり立ててた人が、今は沈黙を守りマリリンの後ろにすぐ隠れる。
またこの時期から管ちゃんは部活が忙しく部活仲間に駆り出される事が多くなった。昼もトレーニングを兼ねて居なくなる事があり、授業中以外は常にバスケ部の呼び出しを受けていた。
よって、朋美ちゃんは一人で居る事が多くなった。
一人では耐えられない時…例えばお昼やグループで何かしなきゃ行けない時には渋々私と倉敷さんの所へ来る。
ところが倉敷さんは朋美ちゃんを敵視していた。木下さんが来れない事を完全に恨みに思っているようだ。私がハブられていたこともどうも許せないみたいで、倉敷さんから朋美ちゃんへ口を聞く事はなかった。優しい倉敷さんが朋美ちゃんにみせた鬼の顔だった。
それに対して私からは特にフォローもアクションもしなかった。
重苦しい空気を察してか、ある日朋美ちゃんが倉敷さんに言った。
「何か、勘違いしてるみたいだけどアレ私のせいじゃないからね。修学旅行のアレは木下さんが好きだって言うから手伝っただけだし。元の発端は、あっちなんだけど!!」
っと、顎でしゃくり向こうのたなやんを指した。言うとは思っていたが…ここで言うか…。
倉敷さんのお弁当を持つ手が震えていた。
「……木下さんは…好きな人なんて…居ないって…言ってた。」
まさかの倉敷さんの反撃だった。
「はぁ!?」
非常に感じの悪い朋美ちゃんの威圧的な返事。
しかし威圧に負けなかったようで、ガタンと音を立てて倉敷さんが立ち上がった。椅子は勢いで床に倒れる。
「あなたのせいで…木下さんは未だに学校に来れないの。それを反省もせず人のせいにして。都合のいい事ばっかり言って…全部ウソじゃない。嘘つき!!」
「何よ?全部私が悪いみたいに言わないでよ…カナぁ…もう、どうにかしてよ…。」
そう言って朋美ちゃんはついに泣きだしてしまった。
「私ちょっとお手洗いに行って来る!!」
倉敷さんは毅然とした態度で教室を後にした。仕方がないので私は朋美ちゃんを保健室に連れて行った。置いて戻ろうとする私に『行かないで』と何度も懇願していたが、朋美ちゃんのせいで昼ごはんを食べ損ねるなんてアホだなと思ったので、むちゃくちゃな理由をつけて戻った。
去り際に「私達ずっと友達だからね」っと泣きながら言われたが、同情よりも虫酸が走った。
教室に帰って来たら、たなやんがにやつきながら私に話しかけて来た。
「アイツ何て?何があったの?」
私は、この瞬間を待ってたのかもしれない。
「後で相談に乗ってもらってもいい?」
私の声はたなやんに聞こえるかどうかギリギリな程小さく、周りに気付かれない様に上手く囁いた。
その日の放課後に私は、たなやんと家庭科準備室で待ち合わせた。内緒の話をする時はこの部屋を使う。
相談と称して色々情報を与えた。夏の炎天下見張りをさせられた事、なのに未だに友達だよねと甘えてくる事。
先ほどのやりとりで全く反省してない事を述べた。
ネタとしては充分だろう。夏祭りの話はたなやん自身も痛い思い出だから噂は立てられなかったが今回の炎天下の見張りの話は自分に害がないと判断したのだろう、スピーカーのスイッチが本格的に入る。
引き換えに夏祭りの事を聞いた。たなやんと朋美ちゃんは互いの彼氏と一緒に夏祭りに出かけたが途中ではぐれてしまい4人バラバラになったそうだ。途中でたなやんは内田君とは合流できたようだが人混みもすごいし合流する前に携帯で連絡を取り合い各自で家に帰ろうという話になった。たなやんは途中まで内田に送られ後は一人で家に帰ったと言う。そして、内田君はもう一度彼女を探しに戻ったそうだ。
しかし朋美ちゃんのおばちゃんからたなやんの家に電話があり、まだ娘が帰って来てないという。焦ったたなやんはお祭り会場まで戻り朋美ちゃんを捜したそうだ。そしたら使われていない公民館の裏の物置で絡み合う二人を見たそうだ。
驚いてたなやんは懐中電灯をそこに落として逃げるように家に帰ったそうだ。
一日経って、朋美ちゃんに事の真相を聞いたら高校生の男の子に絡まれて北里君が助けてくれたそうだ。その時に朋美ちゃんが足をひねってしまい負傷の具合をチェックしてらたなやんが来たと言ったそうだ。
ところが北里君は違う証言をした。
朋美ちゃんが高校生くらいの男の子と何やら話しこんでるのを遠くから見つけたそうだ。目が合い朋美ちゃんから手招きをされた。合流するのかと朋美ちゃんに付いて行ったら公民館の裏に連れてかれた。その時に先程の高校生くらいの男の子が見張るように立っていてヤバイなと思ったそうだ。そして朋美ちゃんは北里君にこう言った。
「私と付き合ってくれるならあなたの大好きな陽子ちゃんは今夜レイプされずに済むよ?どうする?」
っと…振り返ると微妙な位置からさっきの高校生風の男子三人組がにやにやと笑っていたと言う。その日会場に陽子ちゃんが来ていると勘違いした彼は、仕方なく承諾し以下の流れになったようだ。
そこまで素直に言った北里君はたなやんに「俺、たなやんの事彼女としては好きじゃない。ごめんな。」と…とどめを刺した。
たなやんは涙目で言った。
「多分、朋美ちゃんは嘘をついている。でもそんなのどうでもいい。ただ…それが陽子ちゃんだったというのが悔しくてたまらなかった。」
この言葉を聞いて軌道修正が必要だと思った。このままでは恨みがいつまでも陽子ちゃんに行ってしまう。
「たなやん…陽子ちゃんは何も悪くないよ?人の弱みに付け込んで、貴女から北里君を奪おうとしたのは誰?」
「え?」
「私もだけど…あなた利用されたのよ?」
「利用された?」
「そう…彼女は北里君が本当は陽子ちゃんが好きって知っててあなたとの交際を押したのよ。何でか分かる?」
「何で…?」
「笑い者にするためよ。いつもそうやって人を見下して笑い者にしてからかう。」
「そんな。」
「酷いよね。このような目に会う人を減らす為に私達に出来る事って何かな?」
たなやんの使命感に軽く火を点けた。後はほっとけば勝手に走り出す。
本当…バカなスピーカー女。
「カナちゃん…なんで…?」
「何?」
「何で笑ってるの?」
【宣教】→【14歳の脅威】へ続く。
続きます。