14歳のカリスマ
<20歳編>
当時彼女はカリスマと騒がれていたらしい。
「14歳でカリスマ…じゃぁ20歳の今は何なんだと思う?」
「…今でも優秀な学生ではあるみたいですよ。」
「輝きは未だ健在ってか…。」
【14歳のカリスマ】
<橋本陽子の証言>
「こんな所で申し訳ございません。コーヒーしかないんですが…」
橋本陽子は大学の研究室の一室に我々を通した。聞いた話だと院まで行く予定でらしい。教授がとても橋本陽子を気に入っており何かと学会やら発表会で海外まで連れ出す為、時間が取れず大学での聴取となった。
明日にはまた海外に発つ予定らしい。橋本陽子は全体的に洗練された雰囲気があり、また黒縁の眼鏡が知的な雰囲気を醸し出していた。福田がさっきから観察するようにじっと見ている。
「児童心理学ですか…」
「はい。元は学校の先生になる為に勉強していたのですが、教授からもっと大きな視野で頑張ってほしいと応援され贅沢にも海外の講演にもお供させて頂いてます。」
さすが、才女。いや…カリスマ。受け答えに隙がないというのは感覚で分かった。
無駄な話は避けた方が無難と判断した。
「…夏頃ですか?日付までは覚えてないのですが、夏休みの中頃だった思います。地元のお祭りの前だったので…昼間…図書館からの帰りに道の端っこでうずくまっているカナを発見して…今でも思いだしただけでもぞっとするというか…。下世話な話になるのですが…良いですか?」
「大丈夫です。続けてください。」
「セックスする為に見張りと称して友達を炎天下、外に立たせてたんですよ。話を聞いた時に私はビックリして…それを承諾したカナもカナと言いますか…あの日カナを強引に家に連れ帰って寝かせている間に朋美に電話したんですよ。そしたら約束を守ってくれなかったカナなんか嫌いって伝えといてって言われて…頭にきて…朋美のせいでカナは熱射病で倒れかけてたんだよ!!って電話口で強めに言ったんですが…熱射病って何?カナちゃん病気なの?って…ホント…救いようのないバカというか…。」
橋本陽子は眉間にしわを寄せた。
「あの日を境にカナも懲りてくれたと思ったんですが…カナは優しすぎるんですよね。」
「その日…他何かお話とかはされましたか?」
「あの日は…夕方頃かな…ようやくカナが回復して…夕方だからもうちょっとここに居てくれれば私の母が帰って来るので送ってもらうから待っててって…回復したとは言えあの日のカナはかなり酷い状態で…何度か救急車呼ぼうか悩んだくらいでした。カナは迷惑はかけたくないし家は近所だから大丈夫だよって言って自力で帰って行きました。その時に珍しく何冊か私の本棚から本を借りて行って…そうだ!!あの日を境に図書館でカナと良く会うようになりましたね。朝から夕方まで色んな本を読み漁ってました。そんなに本を読む子じゃなかったので…もしかしたら朋美から逃げる為来てたのかもしれませんね。」
「ほーー。覚えていればで構いません…借りて行った本って何か分かりますか…。」
「…うーん。ちょっと待ってくださいね。チョイスがカナにしては珍しいなって思ったんですよ。あーーーここまで来てるのに思いだせない!!」
「あ。無理にとは言いません。思いだせる範囲での質問なので…質問変えましょう…。その後って環境はどう変わりましたか?」
「その…私は隣のクラスだったのであまり詳しくは把握していないというか…当時あまり人間関係に興味がなかったというか…今も付き合いはなるべくタイトにしているので…。」
「そうなんですね。」
「あ!!でも夏休みが終わった頃からですね。朋美の感じがおかしくなったのは…本当かどうかは分かりかねますが…朋美の当時の彼氏内野君と、夏祭りにお友達のカップルとダブルデートをしたって聞いたんですよ。」
「お友達のカップル」
「確か…あ。うちのクラスの北里君とその彼女ですね。」
「田中美紀さんですか?」
橋本陽子はふいにふっと笑った。
「ご存知なんですね…。」
「すいません。既に聴取を何名か頂いて居るうちに…その色々聞きまして…」
「そうなんですね…コーヒーおかわりは?」
「大丈夫です。」
「…北里君に夏休み前に一緒に夏祭りに行かないかって誘われたんです。もちろん二人っきりとかは気使うから他にもお友達を誘ってどうかな?って。それを断ったら何故か田中さんが怒りだして…田中さんってすぐ噂をたてる人だったから…当時変な噂を立てられたくなくて…北里君のアプローチは全部無視してたんです。北里君の影にはいつも田中さんと朋美が居たんで。あの時、思春期の真っただ中だったし…変な噂はあの年頃は命取りになりかねないでしょ?」
「そうだったんですか…。」
「私事ですが…北里くん卒業後もわざわざ家にまで来て熱心にアプローチしてましたね。」
「一途ですね…。」
「それはどうでしょう?」
そう言うと橋本陽子はノート型パソコンをそっと開いた。
「お断りしたんですか?」
「えぇ…だって彼…田中さんが居ながら夏祭りの日に朋美とも関係を持ったって噂されてましたからね。一途と言うより…過剰な自信家なんですよ。自分程の男がお前ごときの女に振られるわけがないと言う自信が言葉の端に出てて嫌いでしたね。」
「彼は二股だったと言う事ですか?」
「さぁ…真相は分かりませんが、あのスピーカーさんが珍しくこの件についてはおしゃべりしなかったんですよ。逆に怪しいというか…。もし二股なら田中さんは恐ろしく高いプライドを傷つけられるわけですから。自分のプライドを守るためにはスピーカーさんは突然電源を落とすんでね。」
「それって一年の時のもですか?」
「あら?そんな所まで調査済みなんですか?探偵業って面白そうですね。」
「まぁでも、給料安いですよ」
「一年の時も…ちょっと彼女の矛盾点を突いただけなんですがね。著しく彼女のプライドが傷ついたみたいで…だからあえてこの話は彼女の為にご内密にって軽く触れたんですが…それが逆に彼女を傷つけたみたいです。中途半端な優しさを見せるより思いきって傷つけた方が良かったかもしれませんね。まぁ今となっては彼女がどうしているかなんて計りしれませんが…脱線しましたね。すいません。夏祭りの後そんな噂が立って…田中さんと朋美はギスギスしてたみたいですよ。私は隣のクラスだったので詳細は分かりませんが周りが早熟でプライドの高い二人のスキャンダラスな戦いを面白がって見てましたね。煽るってやつですか?まだ長い人生なのに彼女たちはなんであんなに必死だったんでしょうか?」
橋本陽子は自身のカップにコーヒーを継ぎ足した。パソコンで何かを調べている。
「あ。あった。」
そう言うと画面をこっちに回した。
「タイトルが断片的にしか思い出せなくて…でも検索したら出てきました。」
画面には本のネット購入の画面が表示された居た。
「戦争とプロパガンダ…」
「カナに貸した本のうちの一冊です。懐かしいです。父がジャーナリストだったのでこう言う本があちこちに散乱してたんですよ。当然私にも読むようにと渡されて…この本は中学生にも読みやすいようになってるからといつも言われては小難しい本を渡されて感想を言わされてましたね。だからこういう本がいつも本棚にびっちりで…カナがこの本を手に取った時に、女の子の読む本にしてはかなり詰まらないよ?って思わず言っちゃったんですよ。」
【14歳のカリスマ】→【宣教】へ続く。
続きます。