表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/10

交配

<14歳編>

5月の連休に倉敷さんと二人で木下さんの自宅を訪れた。会いたくないって言われるのを覚悟して行ったのに木下さんは驚き泣きながら嬉しそうに私達を招き入れてくれた。

木下さんは来てくれてありがとうと何度も言った。そんな感謝しないでほしい。私は我慢できずに泣きながら助けられなくてごめんねと正直に伝えた。木下さんのママはあまり日本語が得意じゃないようで泣きまくる私達にただオロオロとしていた。不便な日本語で『泣カナイ…女の子ハ、スマーーーイル』っと言ってお菓子をたくさん出してくれた。「かわいいママだね」って言うと木下さんはにっこり笑ってくれた。


【交配】


修学旅行での告白コールで大騒ぎしたせいで学年全体に彼氏彼女を作ろうムードが増した。そのコールは残酷にも木下さんを学校に行けなくしたものなのに。誰も反省はせず…。先生も元から休みがちだった生徒と言うのもあり気には止めて居なかった。不登校の子の一人ぐらいにしか思ってないのだろう。何があったかなんて興味もないようだ。

あの騒ぎのせいで何故か、たなやんと北里くんの距離が近づいた。あの騒ぎの後たなやんはどうも北里君にフォローを入れていたようだ。この展開は誰もマークしていなかったようだ。人懐っこく男女共に気楽にコミュニケーションを取るたなやんの性格とお得意の癒し系の見かけもあり転校生の北里君はコロッと騙されたようだ。北里君はよくたなやんと二人で何か話していた。そして私は修学旅行から倉敷さんと一緒に居るようになった。朋美ちゃんグループに居る時よりも安心感があったし帰りは必ず二人で木下さん家によって今日の授業を説明した。

しかし、このタイミングで朋美ちゃんはやたらと私に話しかけるようになってきた。どうもハブっていた私を戻して今度は、たなやんを外したいようだ。はっきりは言わないけど雰囲気で分かった。

それを見て倉敷さんがまた気を使って離れるようになった。私はそれだけは避けたかった。

「最近カナちゃん部活来ないけど何で?」

「勉強が忙しくて。」

嘘は付いていなかった。倉敷さんと木下さんの三人で放課後は今日の授業の復習をするので私の成績はメキメキと上がった。特に弱かった理数を倉敷さんが補強してくれるので分かりやすく結果に出ていた。

「夏前にさ。部のみんなでで浴衣作るって言ってたじゃん。」

「…そうだったね。倉敷さん誘ってもいい?」

「何で?倉敷さんうちの部員じゃないじゃん。」

「マリリンも部員じゃないけど、前に一緒にバック作ったじゃん。」

「…うーん。」

「マリリンも誘ったら?」

この時、私は朋美ちゃんのバカさに嫌気がさしていた。バカなのにバカ扱いされるとキレる。プライドが知能に反比例して高いのだ。その姿は滑稽で陽子ちゃんが相手にしないのも良く分かった。

そしてこの頃から朋美ちゃんはマリリンを真似て香水を付けるようになった。すれ違うと朋美ちゃんのおばちゃんと同じ安っぽい化粧品の匂いがした。


6月に入る前のことだった。掃除時間に、たなやんとマリリンと朋美ちゃんの三人で廊下で夏休みの予定を話していた。結局の所まだ、たなやんは外せないようだ。マリリンは、そもそもそう言ったやり取りにあまり参加しないようだった。我関せずの姿勢でお得意の大人っぽさで回避していたように思う。その時だったすごい怒鳴り声が響き一気に廊下に視線が集まった。私は丁度、倉敷さんとゴミ捨てから帰って来たばかりでざわついた雰囲気に追いつけずに居た。視線の先には北里君とたなやんと…たなやんの視線の先には陽子ちゃんが居た。

「あんた本当にばっかじゃないの!!!」

「…」

「何か言いなさいよ!!」

「…言う事は特にない。私掃除の途中だから他に言う事ないならもういいかな?」

このやりとりの間に北里君が居た。彼は落ち着かない様子で陽子ちゃんとたなやんを交互に見ていた。

「マジ…死ねよ!!」

そう言って、たなやんは廊下を走って去り階段を駆け下りて行った。

「ちょっと…やだ…何があったの?」

っと…ここで朋美ちゃん登場…甘えるような仕草でたなやんを追っかけもせず北里君にもたれかかった。

マリリンはすぐにたなやんを探しに行った。困った北里君は何故か陽子ちゃんを見た。

「勘弁してよ…。」

とため息交じりに一言残すとゴミ箱を持って教室に戻っていった。

「何よ!!陽子あの態度!?北里君…見た?今の…?」

北里君は丁寧に腕に絡む朋美ちゃんを外した。

「ごめん。戻るね。また、たなやんには話に行くって伝えておいて。」

「ねぇ…北里君何かあったの?朋美にだけ教えて…助けられるかもしれないからね。ね?ね?」

朋美ちゃんはまた腕を絡めようとした。

「大丈夫だよ…ごめんね。」

拒否するようにそれを交わし北里君は教室に戻った。


この事があってから程なくしてたなやんと北里君は付き合いだしたようで、一緒に帰る姿をよく見かけるようになった。噂だが北里君は陽子ちゃんの事を運悪くたなやんに相談していたらしい。昔にあった喧嘩も知らずに…あの時、たなやんは果敢にも陽子ちゃんに一緒に夏祭りの花火大会に行こうと話しかけたらしい。

陽子ちゃんが何て返したか分からないが、結果北里君はたなやんを選んだ。

「夏祭り北里君と一緒に行くんだ。だから浴衣作り私も一緒に混ぜてー」っと笑顔で話すたなやん。

夏休み前くらいからだった。そんなたなやんを北里君も一緒に朋美ちゃんは外しだした。しかし私の時と違って彼氏の居ない朋美ちゃんのハブり行為は妬んでいるようで誰から見てもみっともなく見えた。朋美ちゃんにしてはみっともない。と珍しく噂が回った。恐らくたなやんが手回した事だろう。

それは彼女の高すぎるプライドが許さない事だった。

バカな彼女はすぐに彼氏を作った。内野君だ。顔はいまいちだったがバスケ部で身長が高かった。朋美ちゃんは、内野君の試合に顔を出したり、差し入れをしたり。体育の時間に内野君のジャージを忘れたからと借りに行ったりしていた。

すると周りはこそっと騒ぎ出す「あの二人って付き合ってるのかな?」そしてついに当人に聞き出す。「朋美ちゃんはウッチーと付き合ってるの?」「あ。バレちゃった?」バレるよ。分かって欲しくて見せつけていた行為に程度の低さを感じた。

しかし相手も内野君で程度の低いヤツと分かっていたので特に何も思わなかった。内野君と私は小学生の頃ほとんど同じクラスだったので良く知っている。内野君は左効きでヤツの左側の席だと授業中に肘が当たったりする、そのせいで文字が寄れたりすると内野君は相手のせいにして怒鳴った。

また小学生のくせに昔からがたいが良くて、威圧感があった為私は内野君が苦手だった。そんな彼を選んだ朋美ちゃん。彼のどこが良かったのだろうか?と言うよりも…彼氏(・・)なら誰でも良かったのかもしれない。

私はこの時、彼氏騒動に決着がついた事に安堵した。陽子ちゃんの忠告通り…離れておくべきだった。後々後悔した。それはまだ夏休み前の出来事。


夏休みに入ると朋美ちゃんグループと関わる事はないと思っていた。

しかし、お盆前から私は頻繁に朋美ちゃんに呼びだされていた。とあるお願い事の為。たった3日間だったけど私の人格を変えるのには丁度いい時間だったと思う。

「じゃ!!おばちゃんがここを通ったら電話してね!!終わったら私からそれに電話するから!!」

「……1時間だけだからね。」

最初に協力を要請された時、何故断らなかったのか…。私はバカだ。っと激しく後悔した。

とあるお願い事とは、内野君と内野宅でイチャ付きたい為、突然帰ってくるお母さんを警戒してここで私に見張れとの事だった。私は携帯を持っていないので朋美ちゃんの携帯を持たされ住宅地の角に立たされてた。内野君のお母さんは帰る時に必ずここを通るそうだ。しかし、たった一時間だけとは言え…真夏の真昼間…日差しが上からも下からも私から水分を奪っていく。

内野君の家は一軒家だがエアコンはリビングにしかついておらずリビングでしかイチャイチャできないと言う。一日目はお母さんが急にパートから帰ってきて、とても焦ったと。で…私の戦力が駆り出された。今日で3日目。3日連続で昼間に一時間。それが終わったら内野宅のポストに朋美ちゃんの携帯を入れて帰る。

単純だが結構な重労働。その報酬は【もう木下さんの変な噂を立てないでほしい】という取引だった。

私はどうしても木下さんに学校に来てほしかった。文化祭を一緒に倉敷さんと三人で回りたかった。

未だに、ネタのように京都での事を蒸し返すのだから…忘れていた人もまた思いだしてくすくすと笑う。本当にそれをやめてほしかった。

さすがに3日目となると疲労が溜まってきたせいか、ついに頭が痛くなってきた。

立っていたはずなのに、気付いたら地面が近い。どうもしゃがんでしまったようだ。蝉の声がやたら頭に響く。気持ち悪いし吐きそうだ。

携帯の時計をみたらもう30分過ぎている。帰りたくて電話した。

「ちょっと!!おばちゃんきたの!?今良いトコなんだけど!!」

「ごめん。気分悪い。帰りたい。」

「え?それ困る。どうしよう…。」

後ろで内野君が何か言ってるような声が聞こえた。何か二人が相談しているうちに電話が切れた。その瞬間体の力が抜け地面に座り込んでしまった。地面がふとももやお尻の肉を焼いて行く。立ち上がらなくては…地面を眺めながら一回深く呼吸をした。


「カナ?…何してるの?大丈夫?」

ぼんやりする視界を上に上げると自転車に乗った陽子ちゃんが居た。

「…気分悪いの。助けて。」

陽子ちゃんにこの日会えたのはバカな私に対する神様の救済処置だと感謝した。



【交配】→【14歳のカリスマ】

続きます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ