14歳の性
<20歳編>
「福田って初彼氏はいくつ?」
「20歳っす!!」
「へーー。そう。」
「なんすか!!その反応!?興味ないなら聞かないでください!!」
「今から会う人達も…初彼氏ができた時の福田とぉー同い年の20歳だよぉー。」
「それ興味ないのに強引にこじつけてません?」
「そんな事ないよー。所長がさ。福田とぉー。一緒に頑張れって言うからさー。俺はー。こう雑談でコミュニケーションをねー。」
「先輩…完全に興味ないでしょう?あとダラダラ話すの辞めてください!!」
「…おせーーーー。」
【14歳の性】
<管律子の証言>
冬の初めの18時頃。あたりはすっかり暗くなっていた。相手の都合により18時ぐらいからなら時間が取れると連絡があり。ヤンキーだらけの田舎のファミレスにかれこれ2時間も相手を待っている。その異様さにヤンキーも警戒してこっちを見ている。こんな田舎でもクリスマスは祝うようで早めのイルミネーションが遠くに輝いて見えた。
さすがにフリードリンクでは辛くなってきて固形物を福田とモメながら注文していた。
「遅くなってすいません。」
息を切らして現れた長身の女性はこれまた長い髪を乱しながら頭を下げた。補習が長引いてしまってっと言う彼女は現在二十歳の短大生。将来は保育士になるべく勉学に励んでいる。
「こちらこそ、わざわざすいません。再度確認ですが…まずはおかけくださいませんか?」
福田が仕事モードになった俺をじとっとした目で見て来た。視線が刺さる。
彼女名前は菅律子被害者の母親が上げた交友があった友人の履歴中で一番に連絡を返してくれた人だ。
「はじめまして。管律子です。」
管律子は当時の事を覚えている限り話してくれた。最初はボイスレコーダーが気になったようだが、何かの義務に駆られたようにまっすぐ俺らを見ながらこう語った。
「説明するのが難しいんですが…そのいじめとも言い切れないからかい方って言ったらいいんですかね?決定的に悪意のある感じじゃないんです。何と言うか…あの当時はその…何て言ったらいいんだろう。」
「管さん…ゆっくりでいいですよ。都合の悪い事は話さなくても大丈夫です。」
「…例えば…。」
管律子は女性である福田を見つめた。
「?」
「例えば…。今から言うのは一例ですよ…気にしないでくださいね。福田さんってとっても可愛いー!!でも髪をもっと巻いたりしたらもっと可愛いと思うの。…って言って巻いてきたらとっても似合うと言ってクラスで騒ぐ。周りもその空気を読んで可愛い可愛いと騒ぐ。分かります?大がかりでバカにされてるというか…気付かなければ幸せなんですが…気付くじゃないですか…はっきり悪口言われた方が…まだマシって言うか…告げ口の仕様がないんですよ。悪いことは言ってないと言うのが味噌なんです。」
そう言うと管律子は悲しげに下を向いた。
「全て…隙がない手口って言うか…事実を並べても…悪い事は何一つないんです。だから警察も学校も…いじめじゃないとなったんだと思います。いじめの定義って…何ですかね?」
顔を上げた管律子の目には涙が浮いていた。
「私当時何度も刑事さんに説明したんですけど…本当まだ子供でうまく説明できなくて…」
難航しそうな調査と思ったが、管律子の説明は何となく伝わった。当時の証言と繋がる。
「いじめではない…と言うより…いじめと思わしき言動がないだけで…その中身は酷いものだと思います。毎日毎日…。あの日が来るまでは…。あ……。」
ふと管律子は目線を外した。
「雪…。」
一言漏らすと、荒れの目立つ手で涙を拭った。その右手の薬指には華奢なリングが嵌められていた。
「葬儀の日…結局行けなくて…ひたすら雪が降ってて…雪が降る度に思い出すんですよ…あの子の事…。」
「恋人は…?」
質問の意味が分かったらしく、すぐに右手の甲を左手に覆った。軽くうなづくと管律子はこう言った。
「私は当時部活ばっかりしていて…恋愛にも詳しくなかったのですが、当時の恋愛事情に詳しかったのは……マリリンじゃないんでしょうか?マリリンは、その…早熟だったので色んな子から恋愛相談も受けてたみたいだし…何より既に当時経験済みというか…私も良い歳して付き合い方が分からなくて卒業後にマリリンに連絡したぐらいですから…大人っぽくて…同い年なのにどこか落ち着いてて…頼れるお姉さんって感じなんですよ。あの事があってから特に女子の相談には積極的に乗ってくれてて…」
「マリリン?マリリンさんて?詳しく聞いて良いですか?」
「あぁ!!和泉真理です。皆マリリンって呼んでたんですよ。マリリンの当時の彼氏が高校生で、私服で歩いている姿なんか高校生カップルにしか見えなかったです。彼氏さんが何回か学校にバイクで迎えに来ているのを見かけた事があって…憧れでしたねー。部活で日焼けばっかりする私にはない色気がマリリンにはあったので…マリリンの当時の彼氏の名前は…確か……とおる…何トオルだったけ?」
<和泉真理の証言>
「林田です。林田徹。」
そう言って林田真理は煙草に火を付けた。林田真理。旧姓、和泉。三年前に林田徹と結婚し三歳の娘と三人で暮らしている。赤いネイルは家事なんかしないであろうかの如く指先をきらめきたてていた。左手の薬指には指輪はなかった。
「あぁ…今、離婚協議中なんです。アイツが働かなくて…で…今日は…?」
「あ。分かる範囲でいいので…当時の恋人の事なんかを聞かせてもらえれば…恋愛事情的な…」
ふんっと鼻で笑うと彼女はワインを飲みほした。リクエストがあったのだ。話をするなら最近できたイタリアンのお店がいいから予約を取れと。福田が横でイライラしている。
「探偵ってそんな仕事もするんだー。収入はいいの?」
大きめの胸を机に乗せるような形で俺に聞いて来た。福田が更にイライラしている。
「はは…収入なんてクソみたいなものですよ。な!!福田!!」
「……」
福田なんか話せよ!!
「福田ちゃんは…今彼氏は?」
「居ませんけど…何か?」
口紅のべっとりついたワイングラスを俺に傾けた。注げと言う事か…。
「何て言うかさー。14歳って性に芽生える時期じゃん。その時に彼氏がいたり…経験済みだったりしたら…こう…一気に尊敬されるのね…大人だーって。それってさー。逆を言えば冴えない女の子も経験さえすれば立場逆転できるチャンスじゃん。当時なんかそういう彼氏居る子が尊敬される旋風ってのがあってさー。グループ内でも一人だけ居なかったりしたらハブられたりしたの。だからみんな地味な子でも、とりあえずハブられないように必死に誰かと付き合いたくて…みんな男の子にカマかけまくってたなー。」
アヒージョのエビを軽く摘みあげると…
「でもさ。14歳の女の子って既に女だけど…男って14歳そこらじゃぁ全然子供じゃん。20歳過ぎてもガキなヤツなんてザラじゃん。女の子のせいちょうと…」
と言って上目使いでエビを口に運んだ。
「男の子のせいちょうは…別物なのよ。あ。せいちょうってのは成人の成に長い方じゃなくて…性別の性ね。てか…お兄さんいくつなの?」
「あ…いや…私の事はまた今度で…当時の…恋愛をもっと詳しく聞かせてもらえませんか?当事者に関係なく誰と誰が付き合ってたとか…想いを寄せてたとか…。」
テーブルの下でマリリン事…林田真理はヒールの先で俺の脚をするっと撫でた。
「今度?ちゃんと誘ってくれなきゃ話さない。」
擦りガラスのテーブルだ…今のはしっかり福田にも見えた…福田が爆発しそうだ…。
「ふふふ…あはははは!!」
急に林田真理は笑いだした。
「ごめんなさいね。福田ちゃんの反応が面白くて!!ホントごめんなさい。冗談はここまで、ちゃんと話すわ。」
林田真理は組んで居た脚ほどきしっかり向き直した。福田の方に。
「私達5人グループだったの…当時二年生の時に彼氏が居なかったのは…管ちゃんとカナちゃんぐらいかしら?管ちゃんは部活が忙しかったし…部活仲間との絡みがあったから…ちょっと除外というか…管ちゃんだけは暗黙の了解で居なくても管ちゃんなのよね。問題は管ちゃん意外。カナちゃんがあーなる前…ぐらいよね。」
林田真理は下を向いたそして目を閉じた。ゆっくり息を吐くと…前を向き直した。
「最初の人って女にとって大事じゃない?尊敬されたいからって無理に誰かと付き合う必要なんてないのよ…何年かかってもいいの…一番好きな人を探しなさいって…当時私がもっと大人だったら言えたはずなのにね。彼氏が居ないとバカにされるとか悪習よね。こんなことがないように…私の娘には年頃になったら言ってあげようと思って。」
そうゆうと財布から折り紙を取りだした。
「娘が作ってくれたの。」
愛おしそうに見つめると財布に戻した。
「当時の私も相当バカでガキだった。…ごめんなさいね…脱線しちゃった。私は当時…今の旦那と付き合ってて…グループにたなやんって子が居てね。名前は田中美紀ちゃん。名字が田中だから、たなやんね。彼女は…当時学校一のイケメンの北里君と良い感じだったのよ。でも北里君…隣のクラスの名前なんだったけなー?なんとか陽子…橋本…そう!!橋本陽子ちゃんの事が本当は好きだったみたいでもめてわ。」
「もめるとは?」
「詳しくは知らないんだけど…たなやんと橋本陽子ちゃんって犬猿の仲みたいで…修学旅行から帰って来てすぐぐらいだった…かな…言い合ってるのを見かけてね。言い合ってるというか…一方的にたなやんが吠えてる感じにしか見えなかったけどね。またたなやんが吠えれば吠えるほど無様というか…結果、北里君はたなやんと付き合わざる得なかったというか…。北里君モテてたからなー。実は後から知ったんだけど…朋美ちゃんも好きだったみたいね。はっきりは言わなかったけどね。朋美ちゃんは内野君と付き合ってなー。」
「それは…いつ頃の?」
「夏頃の話よ。夏休み前に恋人を作るのが当時のステータスだったの。夏って、親公認で夜遊びできるでしょ?」
「え?」
「花火大会とかね。」
っと言って林田真理は微笑んだ。まるで昔を懐かしむように。そしてバックに目を移すと携帯を取り出したずっと光っている。
「ごめんなさいね。出てもいいかしら?」
「あ。どうぞ。」
にこっと笑うと手帳を開きペン片手に林田真理は電話に出た。会社の人間の様だ。やたら高圧的な話し方が気になった。一通り事務的な話が終わると林田真理は荷物をまとめだした。
「ごめんなさい。お店でトラブルがあって。すぐに戻らないと行けないの…良かったらお店の方にでもいらしてください。時間があれば対応します。」
そう言い名刺を俺に渡し、福田には別の名刺を渡した。
「福田ちゃんのは私のプライベート番号が載ってるのあげるね。探偵に飽きたら、うちに来ない?私あなたみたいな顔に出る子好きなのよ。」
「うちにって…」
「小さいけどネイルサロンを経営しててね。肩書だけはこう見えても社長なのよ。若いってバカにされるけどね。顔に出る子って努力したら、した分だけ顔に出るから分かりやすいし褒めやすいのよ。そういう人と事業を大きくしたいの。」
そう言うと、ここの会計を全て支払ってマッハの早さで居なくなってしまった。
残された福田が名刺を握りしめ…
「かっこいい…」
っと言いだしたが…お前…しっかりしろや!!
「福田…明日は橋本陽子に話聞きに行くからな。お前しっかりしろ!!」
「探偵に飽きたら…」
「真に受けるな…あれは社交辞令だ。踊らされんなよ。お前いくつだよ。」
「…25っす!!」
相手は20歳の若造だぞ。しっかりしろ…福田。
【14歳の性】→【交配】へ続く。
続きます。