14歳のプロパガンダ
<20歳編>
夜の華やかな街を福田の運転ですり抜けていく。福田は運転だけは上手い。
「福田にとってさ…友達って何?」
「その質問は、次に会う方にもしてください。」
「何て言うんだろうな。」
正直想像も付かない。
【14歳のプロパガンダ】
<松本要の証言>
時刻は22時を回っていた。俺と福田は都心のバーへ車を走らせていた。スケジュール上仕方がないのだが、松本要は時間が中々取れずバイト先のバーに押し掛ける事になってしまった。
しかし、思った以上にお店が忙しかったらしく福田と賑わう店内の隅で待つはめになった。
「来てもらったのに…ほんとにごめんなさい。」と詫びとおつまみをテーブルに置いて松本要はホール内を動き回っていた。
皆がカナちゃんと呼ぶからカナか、カナコあたりかと思ってたらまさかの…
「松本要ね。かなめちゃんなのね。」
手元の資料をもう一度確認した。中学卒業後は地元でも有名な進学校に進み、相当努力したのだろう大学も有名所だ。就職には困らんだろう。高校、大学…共に奨学金。
「本試験は受けてない見たいです。推薦と小論文。高校も大学もどちらも学校側の強力なプッシュがあったみたいですね。将来は大手出版社を希望しているらしいです。」
「橋本陽子の父親の影響をこっちが受けたのか。行く末はジャーナリストってやつかな?」
「恐ろしいですね」
福田がおつまみの生ハムとチーズを一気に口に頬張った。
お前の方が恐ろしいわ。
暫くして落ち着いたのだろう。バーの制服の白いシャツから名札を外してからこちらへやって来た。
「お待たせして申し訳ございません。改めまして松本要と申します。この度はご足労頂きありがとうございます。」
松本要は硬い挨拶のあと深々と頭をさげた。当時この松本要が最後に川西朋美と接触があったとされている。
「最後の日ですか?当時何度もお話ししたのですが…また何年も経ってお話しするとは…」
端の席とはいえ少しだけ松本要は声のボリュームを落とした。
「すいません。覚えてる範囲内で大丈夫ですから。お願いいたします。」
「あ。いえ。変な事言ってごめんなさい。今でも鮮明に覚えてるので…ちゃんとお話しできます。あの日は期末テストの最終日で珍しく朋美ちゃんから誘われたんです。ちょっと話がしたいから放課後いい?って。秋に入る頃から朋美ちゃん…ちょっと周りから浮いてたのでその事について相談かな?っと思って付いて行ったんです。公園に行くと言い出したので…途中スーパーに寄って二人ぶんジュースを買っていったんです。正直…家が互いに近いのにわざわざ公園?と思ってたんですが…彼女のお母さんが心配性なので聞かれたくないから外なのかな?と当時は納得してました。そしたら、公園に行く前からどんどんと…何か…こう…不穏な空気になって…私…彼女からたまに嫌な目にあわされてたので…何となく嫌な予感がして疲れたから帰るって言って帰ったんです。あの時彼女が本当は何が目的だったのか分からなかったんですが…話し方からして誰かと合流しそうな話し方だったのが気になって。」
「それで…松本さんは自宅へ戻られたと。」
「はい。私は…きっと朋美ちゃんは他のお友達と公園で待合せしてて、また私を……その……」
松本要は言葉に詰まった。下を向き落ち着かない様子で手の甲を擦っていた。
「松本さん…無理しなくていいですよ。話せる範囲で大丈夫です。」
松本要はゆっくり頷いた。
「また…また、からかわれるんじゃないかな?って思ったんです。ほら私…外されていたりしてたんで。でも結果行かなくて良かったみたいです。朋美ちゃんには本当に申し訳ない事をしたと思ったんですが…あれって…私が行ってたら被害者は私だったのかな?って思うですよ。私がレイプされてそして飛び降りて。そう考えるととゾッとします。朋美ちゃんは私の事どう思ってたんでしょうね?時々、今でも考えてしまうんです。もう本人は居ないから聞くことなんか出来ないんですがね。」
そこまで語るとこっちも言葉を失った。被害者は川西朋美だが下手したら松本要であってもおかしくない。
っと…今のところは思うだろう。昨日の田中美紀の証言がなければ…隣でハムを食べるのを辞めた福田と目が合う。これは福田への合図だ。福田がバックを漁りだした。
「大変な思いをされたと思います。松本さんにお話を聞く前に既に何名かお話を窺ってまして…周りの証言からあなたと川西さんの関係性は把握しているつもりです。多分それでも我々が今回聞いたのはごく一部だと思います。今回は貴重なお話をしてくれてありがとうございました。」
「…いえ…何の力にもなれず…この話も何度も話しているので…変わり映えなくてごめんなさい。」
そこまで聞いてボイスレコーダーのスイッチを彼女の目の前で切った。
それと同時に福田がバックからノートパソコンを出す。
「っと言うわけで…表向きはここまでです。ここからは…私個人の興味でご質問させて頂きます。もちろん答えたくなければ黙秘で結構です。録音も一切しませんし、報告書にも一切書きません。」
「はい?」
松本要は初めて不愉快な顔を見せた。それはさっきまでの悲しみにくれるかつての友人の顔よりも本性を垣間見るリアクションだった。
「福田。」
福田はパソコンの画面を松本要に向けた。
「こちらをご覧頂けますか?」
再生される一日目と二日目の動画。
「これは…」
「当時の川西さんが最後に写った映像です。もうあなたはご存知かもしれませんね、前日も川西さんはこの映像の通りコンビニの前を通っています。あなたの証言と合わせると…さも前日にこの先の公園で誰かと待ち合わせてて、当日に本当はあなたを陥れる予定だったかのような流れになっています。もちろんあなたの証言は全てに合致しています。スーパーでジュースを買った事も…当時の従業員もお二人を確認しています。先ほども言われていましたがお二人の関係性も含めて考えると違和感はないんです。でももっと違和感がなくなる仮説が昨日立ちまして…」
松本要は黙ってこちらを見つめた。
「今から話す事は私の戯言と思ってください。当時もいじめられていたと母親は大騒ぎしたんですが…実際はいじめていた方で、ましてやあなたはとても嫌な思いばかりしていたと…そんなあなたがまた川西さんについて行きますか?明らかに怪しいじゃないですか?いくら浮いていたとはいえ彼女の性格を勘がいいあなたが考慮しないとはちょっと考えにくいと思いまして…これ…前日にこの道を通ったのはあなたなんじゃないんでしょうか?あなたが前日に川西さんのフリをして誰かと会う約束を翌日にして、そして翌日川西さんを誘い出し公園まで向かわせる。実際公園で待ち合わせたのかは分かりません。前日に誰とどんな約束をしたかは分かりませんが、結果川西さんは集団で性的暴行に遭い、失意の中マンションから飛び降りた。当日声をかけたのは…川西さんじゃなく…松本さんじゃないんでしょうか?」
「…」
松本要は黙った。
「証拠なんかありませんがね。」
「ふふふ…私…当時ベージュのマフラーをしていたので…これ私じゃありませんよ。見て分かる事じゃないですか?私は当時マスクもしてませんし。」
「じゃあ…何であの時急に髪を切ったんですか?…いや…何で川西さんに似せて切ったんですか?そしてわざわざスーパーを利用して、近くのコンビニを使わなかったのは何故ですか?コンビニの店内の防犯カメラにばっちり写ると何かバレてしまうからじゃないんですか?」
自分でも随分ぶっこんだ質問をしたと思った。目の前の松本要は一瞬だけ驚いた顔をしたがすぐに笑顔を取り繕った。
「そんなの決まってるじゃないですか…ゲームを面白くする為ですよ。」
その時の笑顔はだいぶ悪意に満ちていたと思う。
これが松本要の本性か…。
「最後に一個だけ質問させてください。松本さんにとって友達って何ですか?」
「…大事な存在です。」
帰りの車で福田がようやく言葉を発した。
「あの人…最後の質問だけ嘘付きました。」
福田は何故か人の嘘がすぐ分かる。だから女性への聴取の時は同席してもらう事が多い。今回は嘘発見器としてあまり出番はなかったが最後だけ福田が反応した。
「そっか…。」
あと10分で日付が変わる。一日ってのは案外短いものだと思った。言ってしまった手前どうする事もできないが、ポケットの中のICレコーダーの中身をまだ消去できずにいた。
イヤフォンに繋いで再生する。
「「そんなの決まってるじゃないですか…ゲームを面白くする為ですよ。」」
松本要の妙に掠れた声が耳の中へ低く残る。
【14歳のプロパガンダ】完
最後までお付き合い頂きありがとうございます。14歳の設定にしたのでさすがに15指定の内容のものは書けないなと思いながら余分なシーンは削りながら書いたつもりです。14歳と20歳の時間差を出しながら書きたくて初めてカレンダーの裏に時系列を書きこみながら進めました。
しかし…何か間違ってたら…そっと生ぬるい目で見逃してください。
誤字脱字とか…変な表現とか…お許しください。
見つけ次第しれーと直していく予定です。