雑音
【雑音】
「じゃぁ、カナちゃんとは班が別れるね。」
ほら来た。こうやって仲間外れに、されるのはもう何度目だろうか?
中学二年生にあがる時に何の因果が朋美ちゃん達と同じクラスになった。
クラスも一緒で家も近所で部活も一緒というのが何となく私の不安要素だった。
小学生2年の時に転校してきた私は、この近所の女の子のグループに混ぜられた。そのグループのリーダー格が朋美ちゃんだった。所謂幼馴染というやつ。
朋美ちゃんは目がとっても大きく可愛らしいし細くて色白で全体的に可憐な印象だ。しかし口元がおばちゃんに似て出っ歯気味で鼻も丸い。
可愛いともてはやされる事はあってもブスと言われる事はなかった。
むしろ可憐な朋美ちゃんに対してブスなんて言おうものなら制裁を食らう。小学6年の時に朋美ちゃん「出っ歯ブス」と言った男子が登校が出来なくなるぐらい陰湿に追い込まれているのを見ていた。
その時私は隣のクラスだったから詳しくは知らないけど、卒業式にやっと出てきた彼は酷くやつれていた。
子供なりに酷くやられたなと思ってしまった。
朋美ちゃんの成績は中の下。案外頭が悪いという感想だったがそれを口にする人は居ない。
何故なら彼女はもうすでに、この中学全体の女子の格なのだから。
他のクラスの女子も一目置くし、先生も、他校の生徒もだ。
世界は軸を中心に回っているが、彼女の回りだけは彼女中心に回りだす。
運がいいのか悪いのか…私はこの朋美ちゃんの居るグループにずっと所属させられていた。
メンバーは私以外に同じクラスに3人。
まずは、バスケ部の菅律子。通称、管ちゃん。ひょろっとしてて全て細い。
性格が素直で人気があった。彼女に関しては悪口を言う人が居ないくらいちょっと空気感の違う子だった。
天然というか…彼女が居るだけで無駄に空気がなごむ。緊張感のない顔も手伝って真剣な場面にはそぐわないがどこかずれてるマイペースな感じがバスケ部でも人気があった。
管ちゃんは私と一年の時に同じクラスで仲良くしていた。二年に上がる時に同じクラスになって嬉しい半面…朋美ちゃんとも一緒なのが癒しの時間を取られそうで嫌だった。
二人目は和泉真理。通称マリリン。
お姉ちゃんがヤンキーで美人と言う事で有名だったが妹のマリリンはやや劣る。中学生にも関わらず既にメイクバッチリでいつも香水のきつい香りを振りまいていた。またセーラー服からチラリと見えるネックレスは彼氏に買ってもらった物だと言うのがチラチラ見える度に無言の圧を感じる。‘‘私はあなた達より大人なの‘‘という上からの妙な優しさが苦手な人もいたが、大人っぽい雰囲気と落ち着いた話し方をするので憧れている女子もいた。笑う時にちょっと疲れた感じに鼻から息を抜く癖が大人の女性のマネをしているようでちょっと浮いていた。一年の時にマリリンは朋美ちゃんと同じクラスでまさかの二年でマリリンとも同じクラスになってしまった。私とマリリンはあまりにタイプが違いすぎてお互いどう接していいか分からず朋美ちゃんを挟まないと会話すら前に進めなかった。
三人目はやたらエロ知識だけ豊富な田中美紀。通称、たなやん。このメンバーの中では唯一ぽっちゃりしていて身長も低かった。朋美ちゃんと張るくらい色白で、見た目がかなり癒し系だが口が悪い所があって、人の事をよく観察してはあれこれ噂を立てていた。口が巧いのか人から聞き出すのがかなり巧妙で、たなやんにうっかり話してしまって噂が広まり後悔した人が後を絶たなかった。正直彼女の事を良く思う人はあまりいなかった。ただ反論できない程彼女は口が達ので食ってかかる人はいなかった。一人を除いて…。話は変わるが、たなやんはかなり男子にモテていた。非常に危険人物だが朋美ちゃんが自分のグループに迎え入れたのは男子のおまけが付くからだと思う。
この5人が主要メンバーでつるんでいた。
この中でやはり一番朋美ちゃんと付き合いが長いのが私だ。
小二からずっと一緒だ。最初は三人だった。隣のクラスに朋美ちゃんの幼なじみの陽子ちゃんが居る。その子と私の三人で小六まで一緒だった。陽子ちゃんは朋美ちゃんと幼稚園からの顔馴染みだから、私より付き合いが長い。家も朋美ちゃんと隣。しかし、中学に上がると同時に陽子ちゃんはさっさと朋美ちゃんとは縁を切ってしまった。顔は会わすが絡みは絶対にしなかった。何かと用事を付けては誘いを断り彼女は彼女のコミュニティーをいつの間にか作っていた。
陽子ちゃんはいつも私に「あんな面倒な性格の女、絡むと不幸になるよ」っと言っていた。
陽子ちゃんはこの田舎の中学校で学年一位を常にキープ出来るほどの才女だった。才女だが、どこか冷たくて警告はするが手助けはしないという所は何に対しても徹底していた。
ちなみに、たなやんを打ち負かしたのは陽子ちゃんだけだった。私は現場に居なかったが一年の時一緒だったクラスの人からは伝説とあがめられている。噂を立てて楽しんでるたなやんにガツンと言ったようだがその内容はその時にクラスに居た人しか知らないし、何故かクラス一丸となって秘密にしていた。後になって分かったが陽子ちゃんが秘密にしましょうとクラス全体を落としたようだ。そのカリスマ性を先生達や親達は高く買っていた。
そのせいで陽子ちゃんの話は、たなやんの前では取り扱い注意ではあった。
案の定、朋美ちゃんとたなやんは何かと陽子ちゃんの陰口を叩くようになった。しかし馬鹿は全く相手にしないオーラを読み取ってだろうか?ここ最近は滅多に陽子ちゃんの事は言わなくなった。と言うか…聞かなくなったのは今私がハブられ中だからだろうか?
5人グループだと絶対誰か一人はハブられる。一回は、その時期が来るのだが最近は私止まりが多い。
しかもソフトに外してくるので意外と周りからも分かりづらいようだ。
今だって、外されている。四人一グループになれなんて言われたら結局こうなる。
私以外はみんな一緒。
私はさして仲の良いわけじゃない暗そうな女子の、グループに回される。人数の関係上このグループだけは三人だ。
「よろしくね」
とは言ったものの二人とも反応はなかった。
倉敷さんと木下さん。そして私…。三人で原始人の進化の絵を描かなくてはいけなかった。社会の勉強で人間の進化の何かだったが…とても興味が持てなかった。
ふと見上げたら向こうで、4人は楽しそうに原始人の絵を模造紙に描いている。たなやんが原始人の股間部に陰部を書き足した為グループ内でどっと笑いが起こっている。
管ちゃんだけが気にするようにこっちをちらっとだけ見た。
今はぶられ中だから無理に一緒に居ない方がいい気がして「私。他のグループに行くからいいよ」と言った。
寂しいし詰まらないけど、ちょっとだけホッとした。それは気を使わなくていい安堵感。無反応の二人と一緒だが、この二人から悪意は感じなかった。
倉敷さん…よく【暗敷】とやじられては居るが怒る事も騒ぐ事もなく静かに会釈する物静かな女子。
木下さん…フィリピン人とのハーフの子。相当見ためでいじめられたようで人と目を合わす事がない。学校も行事ごとによく休む。
倉敷さんが黙って黙々と原始人を書き出し…その鉛筆画をマジックで木下さんがなぞりだした。
私は焦って二人に聞いた。
「私…色とか塗って行った方がいい?」
倉敷さんだけ私をゆっくり見あげた。
「あの…発表の時の文章をお願いしてもいいでしょうか?」
「え…あ。はい。私が文章でいいの?」
倉敷さんの後に木下さんも頷いた。各グループで盛り上がり楽しそうな声が上がる中、担任が教室に戻ってきた。
そして、とんでもない事を言った。
「……修学旅行のグループは…今のグループでいいかな?自由時間はバラけるからグループならこのままでもいい?」
全体から歓声がどっと上がったが、私のグループは無言だった。4月の後半にある修学旅行の面子があっさり決まった。管ちゃんがしきりにこっちを見ていたけど私は気付かないふりをした。
このままはぶられるんなら、一掃の事陽子ちゃんみたいに私も朋美ちゃん所から離れたい。
「改めてよろしくお願いします」
小さな声で二人の目を見ずに言った。
そしたら、小さな声で
「こちらこそ。」と「…ぁ。よろしくお願いし…。」と返って来た。小さすぎて木下さんの声は耳に届く前に周りの雑音に消えた。
向こうで朋美ちゃんがマリリンに何か耳打ちしてこちらをチラッと見た。二人は顔を見合わせにやにやと笑った。
ふと窓の外の中庭をみると、植えてある桜が風が吹く度に花弁を散らかしていた。修学旅行で京都に行く頃にはもう散ってそうだと思った。
【雑音】→【14歳の死】へ続く
全10話で完結予定です。
暫く続きますのでお付き合いください。