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47. 4月29日:ディム・ヌーン(その1)

『キャンサー』制圧作戦当日の朝、宿の玄関フロアにアイリス一行は集合した。

皆落ち着いた様子であるが、アイリスのみ緊張で落ち着かず、そわそわした動きを隠せなかった。実戦経験豊富なクラッド達に比べ、アイリスは圧倒的に経験不足であり、当然の反応と言える。


「ようやく作戦本番か、長かったな。もっと早く終わると思ってたんだがな」

「まあ俺達も王都追われてから突貫で活動してたし、休めたから良いんじゃね?」

「……そうね」


リゲルとアンタレスが雑談するのを聞きながら、プロキオンは鞄をまさぐっている。


「念のため確認しておくか。俺とリムはプロキオンと一緒に第3放雷針側の拠点、アイリスはリゲル達と一緒に中心部の拠点を目標に制圧だな。最大の目標はレヴィンとルディウムの討伐。プロキオン、アイリス、これでいいな?」

「……問題ない」

「ええ……それで大丈夫よ」


プロキオンとアイリスは無気力に答えた。ただ、プロキオンはいつもの事だがアイリスは緊張で上の空、と言った雰囲気である。気が付いたクラッドは軽く溜息を吐いて言った。


「不安なのかアイリス? 大丈夫だ、練習じゃ相当上手く動けてたじゃないか?」

「そうだな、正直あそこまで上手いとは思わなかったぜ? 偶にクラッド負かしちまうんだから」

「本当にな。俺も油断し過ぎた。……まあ、だから心配しなくていいさ」


クラッドとリムが何とか緊張を解そうとするも、アイリスの雰囲気は変わらず、全く緊張が解れた様子はない。


「それは……練習だったから上手くいったかもしれないけど、実際に上手く動けるかどうか分からないわ。……練習と違って、今度こそ本当に命が懸かってるのよ?」

「誰だって最初はそうさ、もちろん俺もな。アイリスはかなり上手い方だから本当に大丈夫だ、心配し過ぎだよ」

「いざとなれば、リゲルとアンタレスに任せて退いてもいいんだぜ? そうでなくても今日は山ほど味方がいるしな、無理する必要ねーよ」

「……そうね。そうならないように、なるべく頑張るけど……。」

「んー……まあ、程々にな」


アイリスは強張った表情のまま受け答えしている。クラッドとリムはどうしたものかと苦笑いするのみである。

様子を見ていたリゲルとアンタレスは話が途切れた所でアイリスに話しかけた。


「クラッドも言っていたが、基本的には私達に任せていいぞ。適当な奴の相手だけしてくれればいい」

「言っちゃ悪いが、さすがに戦果を挙げる事まで期待しちゃいねーよ。どんな結果でも文句言わねーから、気楽にな。……じゃ、そろそろ行くか?」

「……じゃあこれ」


出発しようとした矢先、プロキオンが鞄から数枚の紙を取り出し、各々に手渡した。

アイリスは受け取った紙を検めたが、見た所ただの白紙に見える。大きさは普通のノート程度である。リゲルとアンタレスはこれが何なのか理解しているようで、受け取った紙を迷わず折りたたんで仕舞った。クラッドとリムは受け取った紙を見て一言発した。


「【遠隔複写(リモートコピー)】か。助かる」

「連絡用に一応、ってか?」

「……そういう事。使い方は同じ。……使い方が分からないのはアイリスだけね。アイリス、その紙を見てて」

「……【遠隔複写(リモートコピー)】?」


アイリスは数日前に同じ言葉を聞いたのを思い出した。クラッドがプロキオンと話している際に出てきた言葉である。

プロキオンはペンを取り出し、持っている紙に適当にペンを走らせて落書きした。すると同時にアイリスが持っている紙にも同じ落書きが現れた。


「……! これって……!」


アイリスはそれを見て驚き、クラッドやリムが持つ紙に目を向けた。その紙にもアイリスが持っているものと同様、同じ落書きが現れていた。


「……もう説明しなくても分かると思うけど、今渡した紙には【遠隔複写(リモートコピー)】という魔法がかけてある。効果は見ての通り。何かあったらその紙に書いて連絡して」

「分かったわ。これがあれば、通信機がなくてもあなた達と連絡が取れるのね?」

「……【遠隔複写(リモートコピー)】の範囲内ならね。まあ、ディム・ヌーン全域くらいは範囲内だから問題ない。……もう大丈夫、出発しましょう」

「そうするか。まずは『タウルス』支部で参加登録する必要があるんだったな?」

「ああ、『タウルス』と『サジタリウス』のギルドメンバー以外はな。一応、万が一の際の同意が必要だからな」

「分かった。じゃあ行くか」


リゲルの発言に合わせ、一行は各々の荷物を持って宿を出た。外は晴れており、雲は多いが天気が崩れそうな程ではない。


(いよいよ実戦ね。……大丈夫よ、練習は重ねたし、問題ないわ。大丈夫……。)


他の皆が落ち着いて雑談しながら歩く中、アイリスは一人不安を拭うべく、自分に言い聞かせていた。



************************************************



到着した『タウルス』支部は普段と変わらぬ様相であり、人は多いが思っていた程ではない。正直な所、大規模作戦の前にしては少ないと思える程である。これにはアイリスだけでなく、リゲル達も少々拍子抜けという表情を見せた。


「何だ、普段と変わらないな? まさか参加者はこれだけなのか?」

「おいおい、これだけで大丈夫なのか? 逆の意味で予想以上だぞ」


リゲルとアンタレスは率直に思った事を口にした。


「別にここに集合して一斉に出発する訳じゃないからな。もう参加登録を済ませて現地に行ってる奴もいるだろう」

「ああ、そういう事か」

「何だ、驚かせやがって。問題ねーのか」


クラッドは回答しながらリゲル達に受付で受け取った書面を手渡した。参加登録書と万が一の際の同意書のようである。


「もう参加登録を済ませた奴は皆行ったんじゃないか? 一応、参加者の名簿はあるぞ。今リムが見に行ってる。見ておくか?」

「いや、いい」


書面を記入しながらリゲルは答えた。アイリス達も書面を記入し、書き終えて提出した所でリムも戻ってきたようである。戻ってきたリムはどこか呆れにも近い、渋い表情を見せている。


「いやー……えらい事になってるねぇ……。」

「……何があったの?」

「そんな渋い顔して……何か問題が?」


プロキオンとアイリスが何気なく聞いた。


「今日の参加者名簿を見てみたんだが、とんでもない事になってやがる」

「……良い意味で? それとも、悪い意味で?」

「良い意味でだ。久々の大規模制圧作戦だからか、有名どころ……Aランク傭兵がわんさか集まってやがる。これじゃあ今回の作戦、あっさり終わっちまうぜ」

「でも、今回は『キャンサー』にもAランク指名手配犯がいるのよ? 大丈夫なの?」

「それを加味しても、だな。いくらAランク指名手配犯と言えど、入念に準備されたうえで多数に攻められたら堪らねーよ。あいつらは実力もそうだが、一番厄介なのは不意に現れるからであって今回はその利点もない。それに何より……」


リムはここで軽く溜息を吐いた。


「……名簿に、ギデオンって書いてあった。思わず吹いちまったよ」

「ギデオン!? マスター・ギデオンまで参加してるのか!?」

「おい、ギデオンって誰だ?」


リムが言ったギデオンという名にクラッドは驚いているようだが、何の事か分かっていないアンタレスは聞き返した。アイリス、プロキオンも分かっていないようで、同時にクラッドの方を向いた。リゲルは分かっているらしく、聞いた時にはっとしたような表情を浮かべた後、無言でうなずいた。


「『タウルス』のギルドマスターだよ。元はサンクティア王国の騎士団長で、数少ないSランク傭兵の一人だ。もちろん、それに見合った相当な実力・人格を持ち合わせるから畏敬と尊敬の念を込めて、俺達はマスター・ギデオンって呼んでる。……まさか、マスター・ギデオンまで参加してるとはな。これは本格的に負ける要素がないな」

「ああ、ぶっちゃけ戦力過多だろ、これ。『キャンサー』の奴らが本気で可哀想なレベルだ」

「そんなに凄い人が参加してるの? ……なら、とりあえず作戦失敗はないわね?」

「そう思って間違いねーな」


どうやら『タウルス』のギルドマスターまで参加しているらしく、クラッド達は少々恐縮しているようである。

しかし、それは制圧作戦としてはこの上なく頼もしい一方で、『ステラハート』としては問題もあった。リゲルはその問題について言及した。


「それなら制圧作戦は大成功だろうが、私達としては厄介だぞ? ただでさえ有名どころの傭兵が集まってる中で注目されなきゃならないのに、余計目立たなくなるぞ?」

「そうだな……正直マスター・ギデオンの参加は想定外だしな。……不安になってきたな」

「んー、まあ、大丈夫だろ。……多分。レヴィンでもルディウムでもいいから、倒せれば何とか……。」


流石にクラッドとリムも不安気な表情を見せている。

今回の作戦で戦果を挙げ、注目される事で有力者の信頼を得て協力を仰ぐ算段なのだが、『タウルス』のギルドマスター・ギデオンがいるとなるとどうしても有力者の注目はそちらに向いてしまう。

しかし、一方でそれはチャンスにもなり得る。ギデオンに接触出来れば、彼を通して有力者に接触する事も可能であろう。アークトゥルス達も似た事を狙っているはずである。


「そのギデオンって人……『タウルス』のギルドマスターに取り入る事は出来ないの? 今、アーク達もトラニオン・リッジで似た事を狙ってる訳だし、考えてみても良いんじゃない?」

「そう言えばアーク達の方は作戦成功したのかねぇ? 連絡ないから分からねーけど」

「…………。」


アイリスの問いかけを受け、アンタレスはふと思った疑問を口にした。その瞬間、プロキオンは僅かに目線を逸らした。


「この作戦が終わったら聞いてみたらどうかしら? 今はこっちの作戦に集中しましょう」

「ああ、分かってるよ」

「……で、どうなのクラッド?」


アイリスとプロキオンはアンタレスの疑問を適当にあしらい、平然とクラッド達に訪ねた。アンタレス達もアイリス達も今は自分たちの作戦に集中しており、アークトゥルスとカノープスが消息を絶った事を知る由はない。


「俺に言われてもな……。接点もなければ面識もない。無理だろう」

「俺はマスター・ギデオンとは面識あるから出会えれば話くらいは出来るけどよ、いきなり言われて聞いてくれるかどうか……。」

「え? リム、お前マスター・ギデオンと知り合いなのか?」


クラッドはリムの思わぬ発言を聞き、思わず聞き返した。


「これでも『タウルス』イルミナイト本部の講師を任されてるんだぜ? 定期的にマスター・ギデオンに連絡取って本部の現況報告しなきゃならねーんだ。イルミナイト国内にいる時は直接会って報告する事もある」


リムは手振りを交えて得意気に答えた。


「そう言えば、講師を任されてるって事は相当の実力がないと務まらないわよね? ……気にした事なかったけど、実はリムって相当強い?」

「ああ、こいつ養成所で同期だった頃から優秀だったよ。悔しいくらいにな」


アイリスの疑問にクラッドが笑いながら答えた。リムはそれを聞いて再び得意気な表情を浮かべた。


「んー、まあ、そう言われて悪い気はしねーが……お前も相当優秀だったじゃねーか?」

「いや、明らかにお前の方が優秀だっただろ。じゃなきゃ講師の依頼なんて来ないしな」

「……言ったら悪いかもしれないけど、優秀で講師も務めてる割に有名じゃないのね?」


言いにくそうに聞くアイリスにリムは気にせず笑って答えた。


「自分で言うのも何だけどよ、実力があっても活躍しなきゃ有名にならねーよ。それも目立った場面で、だ。そんな機会、早々ないからねぇ」


リムの発言を聞いて、リゲル達は小声で呟くように話した。


「今回の作戦はその早々ない『目立った場面』に相当するな。成程、腕自慢が集まる訳だ」

「無名の奴等が活躍して名を挙げよう、って訳で大挙して押し寄せてるのか。手段と目的の違いはあるけど、俺達と同じだな」

「……加えてAランク傭兵やギデオンもいる。そんな中で注目されなきゃならないなんて、死に物狂いで活躍しないといけないわね」


3人とも渋い顔を見せている。加えて、プロキオンは普段の気怠い口調に輪をかけて面倒臭そうである。


「さて、そろそろ行くか。今から行けば丁度良い時間になるだろ」


クラッドはそう言いながら、皆に赤い布製の帯を手渡した。どうやら受付で受け取った物のようである。

リムは特に何の疑いもなく受け取ったが、アイリス達は何に使う物なのか良く分かっていないようである。


「これは?」

「敵味方判別用の印だ。それを着けている奴は味方だ……ああ、作戦開始直前に着けるようにしてくれ。『キャンサー』の奴らにばれてしまうからな」

「成程、そういう事か。分かった」


リゲルは受け取った帯をポケットに仕舞うと、軽く皆を見回して支部の外へ向かった。それに続きアイリス達も外へ向かった。

支部の外に出た一行は入り口前に集まった。向かう方向が異なるので、ここで二手に別れる事になる。次に会うのは作戦終了時である。


「さて、行くとするか。プロキオン、リム、クラッド、無事でな。気を付けて行けよ?」

「……うん」

「そっちこそ気を付けろよ? 無理すんじゃねーぞ」

「大丈夫だ、分かってるよ。……アイリス、無事でな」


分かれ際、リゲルの挨拶に3人は特に緊張した様子なく答えた。クラッドは続けてアイリスを心配し、声を掛けた。アイリスは相変わらず緊張しているようであり、表情は固まっており余裕がないのが見て取れる。


「ええ、クラッドもね。……私も頑張るわ」

「本当に無理するなよ? ……リゲル、アンタレス、アイリスを頼む」

「ああ、分かってる。心配するな」

「任されたぜ。しっかり守ってやるよ」


リゲルとアンタレスは軽く笑って答えた。それを見て安心したクラッドは最後にアイリスに目配せして微笑み、背を向けて目標の拠点に向けて歩き始めた。リムもそれに続き、最後にプロキオンがリゲル達を一瞥して去って行った。

クラッド達を見送ったアイリス達はディム・ヌーンの中心部を目指して歩き出した。



************************************************



クラッド達が第3放雷針の前に到着した時、時刻は作戦決行30分程前だった。軽く休憩して準備するくらいの時間は取れそうである。

この地域はそれほど人の多い地域ではないが、今日に限っては人が多く出歩いていた。普段着を身に着けて一般市民を装って入るが、大部分は間違いなく『サジタリウス』の巡回班及び作戦参加者であろう。

かなりの人数が集まっている事を確信したクラッドは軽く笑って呟いた。


「これだけ味方がいれば安心だな。……あそこがそうか?」


放雷針の下に金網と有刺鉄線で囲まれた一角が見えた。金網の中には複数の建物があり、パイプや配線が複雑に伸びている。放雷針に刻まれた魔法制御用ルーン文字と併せて考えると、目標の管理施設で間違いないだろう。


「見た感じ、外観部に『キャンサー』の奴らはいねーみたいだな。奥に引っ込んでんのか」

「……見張りなんか置いたらばれるからじゃない? 作戦開始まで何処か適当な場所で休みましょう」


リムとプロキオンは管理施設の様子を見て呟き、放雷針から離れるように歩いた。クラッドも後に続いて歩いた。


「さて、いよいよ『これ』を使う時か。……バッチリ目立てるよな?」


リムは歩きながら記憶水晶(メモリクリスタル)を手に取り、プロキオンの方を向いて呟いた。クラッドも同様に記憶水晶(メモリクリスタル)を取り出した。


「……大丈夫でしょ。私含めて『3人』もいるんだから」

「あー、そりゃそうだよな。1人でも珍しいのに、3人も固まっていたら目立たない訳ないか」


クラッドは笑って答え、記憶水晶(メモリクリスタル)を仕舞った。



************************************************



アイリス達が中心部に到着したのは、作戦決行まで20分を切った頃であった。

中心部はその名の通りディム・ヌーンの経済活動の中心であり、非常に多くの人が集まる地域である。今は大通りを通っているというのもあるが、極めて多くの人が出歩いている。この中には『サジタリウス』の巡回班や他の作戦参加者も多数紛れていると思われる。


「……あそこか?」


リゲルは地図を見ながら、遠くに見える塀で囲まれた一角を指差した。


「多分そうね。……結構立派なのね? 『キャンサー』の拠点なのに」


アイリスは驚きと少々の皮肉を込めて呟いた。

そこは遠くからでも分かるくらいに立派な一軒家が立っていた。かなり裕福な人物の土地であろう。それを見たアンタレスは怪訝そうに言った。


「『キャンサー(あいつら)』には勿体ねーくらいの場所じゃねーか。何であんな場所拠点にできてんだよ?」

「恐らく、あの土地の所有者が『キャンサー』と繋がってるんだろう。あの様子から察するに随分金持ちなようだが、どうせ汚れた金なんだろうな。今回の作戦で悪事が露呈でもするんじゃないか?」


アンタレスの疑問に、リゲルはアイリスの分を補うよう十分に皮肉を込めて答えた。


「さて、少し休むくらいの時間はあるな。アンタレス、アイリス、今のうちに準備を済ませとけよ」

「もう準備する事ねーけどな」

「……そうね」


アンタレスは余裕の笑みを浮かべて答えたが、アイリスは無表情のまま答えるに留まった。

装備等の物理的な準備は出発前に十分に済ませている。残るは精神的なもの――心の準備だけである。アンタレスは心の準備ができていないと察すると、すぐに声を掛けた。


「緊張し過ぎだって。大丈夫だよ、今回の作戦、暴動鎮圧よりむしろ安全なんだぜ?」

「……そんな気はしないけど?」

「考えても見ろ。『キャンサー(あいつら)』にしてみりゃ、突然何の前触れもなく拠点を襲撃されるんだぜ? 応戦する準備もしてねーし、慌てちまって何も出来ないままの奴も多い。そんな奴らを抑えるなんて余裕だろ?」

「……まあ、そうね。そうかもしれないわね」


それを聞いてアイリスも多少は緊張は解れたようである。傍から聞いていたリゲルはくすりと笑って呟いた。


「……私達(ステラハート)も同じ目に会ったからな。説得力あるな」


アンタレスとアイリスはリゲルの呟きに気付かなかった。



************************************************



作戦決行まで5分を切った頃、アイリス達とクラッド達は拠点の近辺に潜んで開始を待った。ディム・ヌーンでは正午になると合図として街中に設置された鐘が鳴らされる。それが作戦決行の合図である。

周囲には同様に開始待ちの傭兵や参加者が見受けられ、皆アイリス達やクラッド達と同様、体の一部に赤い帯を巻きつけている。


(……大丈夫。落ち着いて……。)


アイリスは光子鋼剣を握り、自分に言い聞かせた。リゲルとアンタレスは無言で飛び出る準備を整えている。

クラッド達は場慣れしてる事もあり、落ち着いたものである。武器の柄に手を掛け、応戦準備万端である。


(……あと1分……!)


アイリスの緊張は極限まで高まり、心臓の鼓動が早くなっているのが自分ではっきりと理解できた。

周囲の参加者たちも緊張の表情を浮かべ、武器に手を掛けて作戦開始を待った。



あと10秒。



9。



8。



7。



6。



5。



4。



3。



2。



1。



――ディム・ヌーンの街に、鐘の音が鳴った。

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