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4. 3月29日:エル・シーダ

(……暇ね)


4日後に久々の仕事が入ったアイリスだが、それまでする事がなく、家で読書の日々が続いていた。いくら趣味に没頭できるとは言え、長過ぎると流石に飽きる。

クラッドは3日前に王都までの行商護衛の仕事が入り、しばらく不在である。

リゲルも原稿製作や取材、汚染者の回収が忙しいようだ。


(あれだけの事があったからには生活も変化があるかと思ったけど、何も変わってないわね……。記憶水晶(メモリクリスタル)も見つからないし)


アイリスは本に栞を挟んで机に置くとおもむろに外に出た。何か用があるわけではない。ただの目的ない散歩である。

街中は何も変わらず賑わっており、リゲルに言っていた侵略の影など到底感じられない。


(今更だけど、異世界からの侵略とか言われても、こう変わらない日常だと到底信じられないわね)


水面下では事態が進んでいるのだろうが、それでも実感がない。


(あ、そうだ。今のうちに次の仕事の護衛を済ませておこう。……クラッドは間に合うかしら)


護衛依頼をしていなかったアイリスは『タウルス』の支部に向けて歩き出した。

アイリスの次の仕事先は南方の工業都市サン・ダーティである。アイリスは訪問先がエル・シーダ外の場合、毎回『タウルス』を通じてクラッドに護衛依頼を出している。『リブラ』の仕事で町の外に出る場合は費用も『リブラ』が負担するので気兼ねなく護衛を依頼できるのである。

『タウルス』の支部に到着したアイリスは、普段通り窓口でクラッドを指名して護衛依頼を出そうとした。


「クラッドは……もう1週間、現行の仕事が続きますね」

「そうですか……すみません、でしたら結構です」

「かしこましました」


今回は間に合わないようだ。残念ではあるが、当然都合が合わなければ仕方ないし、今までもそういう事は多々あったのでアイリスもあまり気にしてはいない。サン・ダーティも何度か行った事があり、治安も良いので実際護衛はいなくても大丈夫である。


「おいアイリス、ちょっと待て」

「え? ああ、リゲルじゃない、びっくりした……って、大丈夫?」


仕方ないので支部を出て帰ろうとした時、不意に後ろからに声を掛けられた。

後ろにはいつの間にかリゲルがいた。しかし、何か調子が悪そうに見える。元々白い肌は青白く見えるし、目の下に隈もある。


「何がだ?」

「何がって……隈があるし、顔も青白いし、調子悪そうに見えるけど?」

「大丈夫だ、問題ない。2日連続で徹夜しただけだ」

「それを大丈夫じゃない、って言うのよ。ちゃんと寝なさい」

「ふふ、そうもいかないんだな、これが。原稿提出締切が近い上に編集長から多数のダメ出しを受けてな……。この苦労は同業者にしか分からない……。」

「ああ、そう……それで、今日はどうしたの?」


アイリスは若干虚ろな目をしながらも答えるリゲルに呆れつつ、本題を聞いた。


「いや別に何かあるわけじゃないんだが、見かけたから声を掛けただけだ。……護衛依頼をしていたようだな、仕事が入ったのか?」

「ええ、サン・ダーティで取引があるの」

「サン・ダーティ? サン・ダーティか……いつだ?」

「4日後……4月2日ね」

「4日後か、丁度良いな。私も近々行く予定だったんだ、一緒に行っていいか?」

「それは良いけど、原稿は大丈夫なの?」

「大丈夫だ、4日後なら提出も済んでる」

「なら良いけど。また取材? それとも……『ステラハート』関連?」

「両方だ。……ところで、記憶水晶は見つかったか?」

「いいえ、それらしい物は見つかっていないわ。本当にあるのか疑わしいくらいよ」

「そうか、やはり『エクソダス』も簡単に尻尾を掴ませてはくれないか」


眠そうにしながらも真剣な表情でリゲルは呟いた。


「汚染者の方はどうなの?」

「エル・シーダは少ないな。3日に1人くらいで済んでる。少し前にアークから聞いたが、王都はひどいらしいぞ。1日に2~3人はざらのようだからな、正直もう私達だけでは抑えきれないレベルだ」

「そんなにひどいの? クラッドは大丈夫かしら?」

「汚染者は一般人は襲わないから大丈夫だ。記憶水晶の見分け方も教えたから汚染もされないだろう……さて、そろそろ帰って原稿の続きを書かないとな。じゃあな、4日後にまた」

「ええ、気を付けて。あと、ちゃんと寝なさい」

「出来ればな」


リゲルは眠そうに目をこすりながら『ジェミニ』の支部がある方へ歩いて行った。

今日はもう用事がない。リゲルを見送ったアイリスは早々に家へ帰って行った。

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