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2. 3月23日:エル・シーダ

先日の仕事を終えてからしばらくの間、アイリスもクラッドもギルドの仕事はなかった。

アイリスは特にする事がない場合はクラッドの所で過ごしており、そのまま泊まって行く場合も多かった。ここ数日も例外ではない。

昼過ぎ、アイリスは窓際の椅子に座って陽光を浴びながら読書をしている。この様子はクラッドにとって日常的な光景になりつつある。クラッドは財布や手提げを持って外出の準備をしている。


「アイリス、ちょっと出かけてくる。ここにいるんだったら留守番頼めるかな?」

「どこに行くの?」

「ただの買い物だ。いろいろ雑貨が足りなくてな」

「じゃあ私も行くわ」


アイリスは栞を挟んで本を閉じ、立ち上がって本を机の上に片付けた。


「いや、大した量じゃないから一人で大丈夫だ」

「ううん、ただ一緒に行きたいの。最近は仕事以外で一緒に外出できなかったし」

「ああ、そういう事か。じゃあ一緒に行くか」


アイリスとクラッドは家を出て商店街へ向かった。



************************************************



買い物は小一時間ほどで済み、二人は帰路についていた。特に何という事もない買い物であったが、アイリスは終始楽しそうにしていた。彼女にとってはクラッドと一緒に外出できるだけで充分だったのである。

帰る途中、通りに面した書店が二人の目に入った。


「アイリス、本屋寄ってくか? そろそろ新しい本が欲しいとか言ってたよな?」

「そうね……あ、でも荷物もあるし、どうしようかしら?」

「先に荷物持って戻ってようか? 後でまたうちに来るんだろ?」

「ありがとう。じゃあ先に行っててもらえる?」

「ああ、分かった。また後でな」


クラッドと別れると、アイリスは書店で新刊の物色を始めた。

アイリスは色々な知識を得るのが好きであり、読書はその一環で始めたものだが今では趣味の一つとなっている。また色々な物事を知っていくことで失くしてしまった記憶を思い出せるのでは、という思いもあったのだが、残念ながら今の所何一つ思い出せていない。

一通り見て回って物色してみたが、今回は特に気になる本はなかった。気が付くと随分時間も経っている。日も傾き始めている。


(いけない、遅くなったわ。早く行かないと)


アイリスは店を出てクラッドの家へ向かった。日没が近付いているが、まだまだ通りは賑わっている。

暗くならないうちに帰るべく、アイリスは通りを外れて近道となる路地裏へ入って行った。普段は通らないのだが、遅くなってしまった焦りもあったため今回は特別である。

そして、もう少しで路地裏を抜ける時だった。


(……ん? 何の音?)


路地の一角から何かが倒れるような音が聞こえた。


(…………。)


気になったアイリスは迂闊にも音のあった方向に歩いて行った。近年は市街地の警備が進んでいて路地裏でも比較的安全であったため、アイリスも警戒心が薄れていたのだった。


(この辺で……ん?)


塀で囲まれた路地の突き当りに誰かいる。

後姿しか見えないが、恐らく女性だ。体格と、三つ編みで紫色の長髪からして間違いないだろう。屈んで何かをしている。そして女性の足元を見た時、アイリスの表情が凍りついた。

人が倒れている。


(え!? 何これ……!)


ただならぬ雰囲気にアイリスは思わず塀の角に身を隠した。

塀に囲まれた路地は薄暗くて見にくいが、覗き込んでみると女性はどう見ても倒れた人を介抱しているようには見えない。助けを呼んでいる様子もない。

女性は手に小型で板状の何かを持っていて、先程までそれを弄っていたようだった。女性はもう片方の手を倒れた人に当てた。

――その瞬間、倒れていた人の体が淡く輝き、青白い光の粒子となって散ってしまった。

後に残ったのは女性のみである。


(えっ……え!? 何あれ!?)


突然人が消えた。目の前で起こった事態に気が動転したアイリスは、無意識にうちに後ずさりしていた。

見てはいけないものを見てしまった。何が起きているのか分からないが、危険だ。

直観でそう感じたアイリスは背を向けて逃げ出した。

しかし、逃げだしたことで女性に気配を感じとられてしまった。


「……誰!?」

(気付かれた……!)


すぐに後ろから追いかける足音が聞こえてきた。アイリスは追いつかれぬよう、全力で路地を駆け抜けた。

しかし、足音の接近が異常に速い。アイリスも足が遅いわけではないのだが、それでも相当な速さである。数秒で追いつかれてしまい、腕を乱暴に掴まれた。


「痛っ……放して!」


振りほどこうとするも、びくともしない。とても女性の握力とは思えない。


「……え、カノープスじゃない? どうしてここに? ……いえ、似ているけど違う?」


女性は訳の分からない事を喋っているが、今はそれどころではない。

助けを呼ばなければ。


「誰か、助け……むぐ!?」


助けを呼ぼうとするも、後ろから拘束されて口を塞がれた。

全く動けないほどの力で抑え込まれている。振り切ろうとしても抜け出せない。


「誰かは分からないけど、仕方ないわね。あなたも一緒に……」

「おい待て、アーク」


突然の声にアークと呼ばれた女性は口を止めた。

拘束したアイリスごと声がする方を向くと、その方向から少女が歩いてきた。銀髪碧眼の少女だ。どうやらこちらの様子を窺っていたらしい。


(リゲル……?)


アイリスは少女に見覚えがあった。間違いなく、数日前に会った少女、リゲルだ。


「リゲル、あなたここにいたのね? 最近顔を見せないから心配したわ」

「すまん、『ジェミニ』の仕事が忙しかったんだ。それより、そいつを離してやってくれ」

「……汚染者を転送しているところを見られたわ」

「大丈夫だ、そいつは私が監視しておけばいいだろ? 何も問題はない」

「本当に大丈夫? ずっと付きっきりって訳にもいかないでしょう?」

「ああ、他の協力者にも言っておけば大丈夫だろう」

「分かったわ。……放すから、騒がないで」


アークと呼ばれた女性は一言注意喚起すると、アイリスの拘束を解いた。

拘束を解かれたアイリスはその場に崩れ落ちた。訳が分からず気が動転したままのアイリスは肩で荒い呼吸をし、二人を見上げるのみである。

その間も、リゲルとアークと呼ばれた女性の訳の分からない会話は続いている。


「彼女、もしかしてアイリス?」

「ああ、そうだ。私も驚いたよ。まさか出会うとは思わなかったし、最初は見間違えた。気になったから今様子見しているところだ」

「彼女が……まあいいわ。様子見は別にいいけど、『私達』の仕事も忘れないで」

「それは分かっているが、仕事と言っても最近は後手に回っているだろう? 汚染者も少しずつ増えてるし現状維持ではどうしようもないから、今新しい作戦も考えているところだ」

「新しい作戦? ……あなた、まさかアイリスを協力者に引き入れる気?」

「……まあ、そうだな。折角出会ったんだし、協力してもらおうかと思っている」

「やっぱりそうなのね。まあそれはいいけど、アイリスに何をしてもらうつもり?」

「それもこれから考える。もう少し様子見するつもりだったから、まだ何も考えてないんだ」

「はあ……適当ね、全く」


アークと呼ばれた女性は溜息をついて首を振った。リゲルの返事に呆れている様子だ。


(何? 本当に何を言っているの? この二人、知り合いなの? あのアーク?って言う人も私の事を知ってる……?)


落ち着いてきたアイリスであるが、それでも話の内容は全く理解できない。

分かるのは、この二人が知り合いらしいという事、アークと言う女性がアイリスの事を知っているらしい、という事だけだ。


「さて……私はもう帰るわ。リゲル、ついでだから何か伝言はある?」

「そうだな……ああ、まだ『ジェミニ』の仕事が片付いてないんだ。すまないが、しばらくは一人で作戦を考えておくようにベテルに伝えてくれ」

「分かったわ」


伝言を聞きながら、アークという女性は腰のポーチから板状の何かを取り出した。先ほど、手に持っていたものだ。手で丁度掴めるほどの大きさのそれを握り、アークという女性はその上に指を走らせている。


「あ、おい」


リゲルがアークという女性を呼び止めたが遅かったようで、先ほどと同じようにアークという女性の体が淡く輝き、青白い光の粒子となって散ってしまった。

路地に残されたのはアイリスとリゲルだけだ。


「あいつ、怒られるぞ……。」

「また、消えた……。何なの、本当に……。」

「さて……説明が必要だな。間違いなく長くなるから、とりあえずどこか落ち着ける場所に行くか」


リゲルが伸びをしながらアイリスに話しかけた。しかし、アイリスは答えない。


「…………。」

「アイリス? 大丈夫か?」

「え? ああ、そうね……。ごめんなさい、驚き疲れちゃって……。」

「まあ無理もない……しかし迂闊だったな? まだこういう所は一人で歩くべきじゃないぞ」


気が付けば日は沈みかけており、誰もいない路地はすでに暗闇に覆われて1本だけある街灯が明るい光を放っている。クラッドと別れてからかなり時間が経ってしまった。きっと心配しているに違いない。

立ち上がったアイリスはリゲルと共に重い足取りでクラッドの家に向かった。



************************************************



クラッドの家では、アイリス・クラッド・リゲルの3人がテーブルを囲んでいた。

既にリゲルとアイリスによる遅れた理由の説明は済んでおり、クラッドは怪訝そうな表情を浮かべている。


「なるほど、それで遅くなったのか……。にわかには信じられないな」

「まあ、信じられないだろうな」

「でも、本当にあった話なの。私だって、まだ信じられないわ」


突飛な内容にクラッドはそれを信じられずにいた。何の脈絡なく突然訪れたリゲルにも驚いたが、加えてこんな話をされては流石に疑わざるを得ない。一方で、アイリスがこのような変な嘘を吐くとは思えないし、リゲルに合わせて嘘を吐く理由もない。


「とりあえずあんたに聞きたい事は山ほどあるんだが」

「ああ、分かってる。答えられる限りの事は答えよう」

「とは言え、まずはアイリスから質問した方がいいか。先に始めててくれ」


そういうとクラッドはティーポットの茶葉を替えに席を立った。


「分かったわ。じゃあまずは……あの時、路地にいたアーク?っていう女性は誰? リゲルの知り合いだったようだけど?」

「あいつはアークトゥルス。『私達』のリーダーだ、一応な。長いからアークと略してるだけだ」

「『私達』……? 後で聞くわ。アークトゥルス……アークが倒れてた人を消したり、自分が消えたりしていたのは何? まさか魔法?」

「まあ半分当たり、といった所か。そうだな、転移魔法みたいなものだ」

「やっぱりそうなのね……魔法なんて珍しいもの、初めて見たわ」


この世界にも魔法を扱うもの――魔法使いは存在するが、その数は少なく全世界で1000人程度と言われている。しかもほぼ全員が国家やギルドに召し抱えられており、一般人の前に姿を現すこともほとんどない。

なろうと思ってなれるものでもなく、魔法を扱うには生まれつきの才能が必要であると言われており、努力によって魔法使いとなった者はいまだ存在しないらしい。

そのような人物が目の前に現われていた事にアイリスは驚いた。しかし、それならば色々と納得がいく。異常な足の速さも、拘束された時の強い力も、魔法によるものだ。

しかし、そのような魔法を扱える貴重な人物――アークトゥルスと知り合いのリゲルは何者なのか?


「リゲル、あなた達はいったい何者? 」

「俺もそれが一番気になるな。ただの記者じゃないだろう?」


クラッドも丁度戻ってきて席に着いた。


「『ジェミニ』の記者と言うのは表向きの仕事だ。『私達』……『ステラハート』がこちらの世界に紛れるためのな」

「『ステラハート』? それがあなた達の正体? それは何なの?」

「そうだな……極秘裏に活動している非合法ギルドみたいなものだ」

「非合法ギルド……『キャンサー』みたいなものか。何の目的でそんな事をしてるんだ?」

「私達と同じように極秘裏に活動している敵対組織がいてな、そいつらの対処だ」

「敵がいるのか。……極秘裏に活動、ってことは裏社会関係か?」

「裏社会……まあ、そう言えるか。裏社会……ふふ、なるほど、まさにその通りだな。言われてみれば、これほど似合う言葉もない」


リゲルは不思議と納得した様子で含み笑いをしている。

リゲルが語った『ステラハート』という組織は裏社会関係の活動をしていて、敵対組織もいるらしい。目的は語られなかったが、アイリスは活動の一端と思われる場面に遭遇している。


「今日アークが行っていたのが『ステラハート』の活動なの?」

「そうだ。今の仕事は記憶水晶(メモリクリスタル)の回収、及び汚染者の回収だ。アークが行っていたのは汚染者の回収の方だ……、ああ、これを手伝ってもらう事にするかな」

記憶水晶(メモリクリスタル)とか汚染者とか、また訳の分からない言葉が出てきたな。それは何なんだ?」

「こういう物だ」


そう言うとリゲルは鞄からハンカチで包まれた何かを取り出した。掌の大きさのそれを(ほど)くと、中から淡い桃色の水晶が現れた。


「これが記憶水晶だ。見た目はただの色付き水晶だが、これには記憶や思念といった精神的なものを蓄積する性質がある」

「精神的なものを蓄積? どういうこと?」

「触ってみれば分かる。ただし、何かを感じたらすぐに離せよ」


リゲルは布越しに記憶水晶を掴んだまま、それをアイリスとクラッドに向けて差し出した。

アイリスとクラッドは不思議に思いつつも、言われたまま記憶水晶に触れてみた。艶があり滑らかな感触だが、特別変わった感じはしない。




――こんな事して、許されると思ってるの!?――




「!?」「!?」


アイリスとクラッドは思わず記憶水晶から手を引いた。

一瞬、頭の中に何かの映像と誰かの声が入り込んできた。入り込んできた映像は誰かを見上げているものであり、声は女性の声だ。

驚いて困惑する二人を見てリゲルが続けた。


「見えたか。それがこの記憶水晶に蓄積された記憶だ。」

「何……今の?」

「生物が記憶水晶に直接触れていると、記憶水晶に蓄積された記憶が生物側に流入する。見えたのはその流入した記憶だ。この記憶の流入の影響を受け過ぎた人を、私達は汚染者と呼んでいる」

「おいおい……俺達は大丈夫なのか?」


クラッドが困惑しつつ、心配そうに聞いた。


「大丈夫だ、今のくらいじゃ汚染の中に入らない。汚染者は深層心理にまで記憶の流入が及んで汚染されたことにすら気付かない。一種の暗示をかけられるわけだ」

「いつの間にか汚染されてしまうのか……。恐ろしいな」

「恐いわね……。それで、何で汚染者が発生してるの? 記憶水晶なんて今初めて知ったわ。一般に普及している訳でもないんでしょう?」


リゲルは記憶水晶をハンカチに包んで鞄にしまいながら答えた。


「汚染用の記憶水晶をばら撒いている奴がいる、という事だ。見た目は普通の水晶だし、汚染さえしてしまえば存在はバレない」

「そんな……。この汚染が例の敵対組織のやってる事なの?」

「そういう事だ。今は私達もその対処に追われっぱなしだ」

「何のために汚染なんて事を……。まあ、(ろく)でもない理由なんだろうな。で、だいぶ話が逸れたがさっき何か手伝ってもらう、みたいな事を喋っていたな?」

「そういえばそうね。確か『ステラハート』の任務……記憶水晶の回収、及び汚染者の回収、だったわね?」


何か引っかかるものはあるが、気にしていても仕方がない。まだ知りたい事はある。


「ああ、汚染用の記憶水晶の回収の方を手伝ってほしい。もし記憶水晶を見かけたら回収するだけでいい」

「それはどんな形だ? さっきのと同じか?」

「小指大の大きさで黄色のものだ。ただ、くれぐれも、絶対に素手で触るなよ。汚染用だから侵食力が半端じゃない、一瞬で汚染されるぞ。さっきみたいに直接触れなければ大丈夫だ」


淡々とした口調で話していたリゲルであるが、今回ばかりは口調が強まっていた。それほど、汚染用の記憶水晶とやらは危険ということなのだろう。


「どうしてこの事を公表しないの? そんなに危険なら隠している場合じゃないわ。『ジェミニ』なら簡単でしょう?」

「公表したら社会に混乱が起こるかもしれないからな。そうならないように秘密裏に活動しているんだ」


リゲルは元の口調に戻って答えた。


「まあ裏社会関係の事なんて簡単には公表できないわな。……しかし、その裏社会関係の事を手伝ってくれと? 流石に抵抗があるな」

「そうね。ここまで聞いておいて何だけど……」


今回は助けられたアイリスだが、流石に危険を感じてきた。現場を見ていないクラッドはもちろん、アイリスも裏社会関係とあってはあまり関わりたくないようだ。

その反応をリゲルは分かっていたかのように、変わらず淡々と続けた。


「元より強要する気はないから気が向いたらでいい。これだけで信用されるとも思ってないしな」

「信用されないと思っていたなら、どうしてここまで話したの?」

「お前なら信用できるからな、アイリス」

「え……?」


信用できる。リゲルははっきりそう答えた。会って間もないアイリスに対して、なぜこうもはっきり言い切れるのか。不思議でならなかった。


「おい、俺は信用できないのか?」

「そんな事はないさ……さて、随分長居してしまったな。そろそろお暇させてもらおうか」


クラッドの苦言を適当にあしらい席を立ったリゲルは玄関の方へ歩いて行った。

そして玄関の扉を開けて出る前に一言、思い出したように告げた。


「私は『ジェミニ』の仕事で当分はこの街に留まる。何かあればギルドを訪ねてくれ。……じゃあ、またな」


それだけ告げるとリゲルは夜の街へと消えて行った。



************************************************



「アイリス、どう思う?」

「どうって言われても……」


リゲルが去った後、二人はどうするべきか考えていた。


「俺はまだ信じ(がた)いな。現場も見てないし、説明だけされてもな……」

「私もどうかとは思うんだけど、実際に現場を見たし、気になるわ」

「うーん、そうか……。少しリゲルの様子を見てみるか? 今はお互い仕事もないし、信用できるかどうかの判断が必要だしな」

「そうね……記憶水晶の回収だって、別に回収だけなら何も問題ないでしょうし、今回聞けなかったことも沢山あるわ。回収された汚染者がどうなるか、とかね」

「ああ、そういえば聞きそびれたな。じゃあ決まりだな、しばらくはリゲルの周辺を探るとするか」

「そうしましょう……あ! もうこんな時間!? 早く帰らないと」

「何だ、今日は帰るのか? 今日こそ泊まって行けばいいのに」

「ちょっと長く泊まり過ぎたから迷惑かな、と思って」

「全く、そんな事気にしなくていいのに」


クラッドは笑いながらアイリスを送って行く準備をした。普段は断りを入れるアイリスだが、今回ばかりは承諾した。さすがに身の危険があった日に一人で出歩くのはまずい。

帰る途中、アイリスはふとリゲルの言っていた事を思い出した。


(……そういえば)



――『私達』……『ステラハート』がこちらの世界に紛れるためのな――



(『こちらの世界』……『こちらの世界』って言い方……妙な感じね。 考え過ぎかしら?)


少し気になったが、今は考えていても分からない。アイリスはそれ以上気にせず帰路についた。

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