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17. 4月18日~19日:エル・シーダ

4月18日の夜、仕事を終えたクラッドは仕事先からエル・シーダへと到着した。馬車から下りたクラッドは一息つく間もなく歩き出した。


(やれやれ、だいぶ長引いたな……。さっさと報告を済ませて帰ろう)


予想より長く仕事が続いてしまい、疲労が溜まっていたので早く休みたいところだったが、『タウルス』支部へ終了報告をしなければならない。クラッドは重い足取りで支部を目指した。

到着した『タウルス』支部は夜でもまだ騒々しく賑わっており、中から明るい光が漏れていた。

仕事に行く前は活気があると感じられる騒々しさだが、疲れて帰ってきた時には少しばかり耳障りにも感じる騒々しさでもある。

クラッドは騒々しさから逃れるべく、早々に結果報告を済ませて帰ろうとした。


「おーい、ちょっと待てクラッド!」

「ん?」


帰ろうとしたクラッドの後ろから聞いた事のある呼び声が聞こえた。振り向くと、細身で緑髪の男がこちらへ近付いてきていた。王都にいたはずの友人、リムだ。


「やっと帰ってきたか、待ってたんだ」

「あれ、リムか? どうしてここにいるんだ?」

「仕事だよ、仕事。なんか変な依頼が緊急で入ってきてな、俺とクラッドが名指しされてたんだ」

「仕事? しかも俺含めて名指し?」

「ああ、わざわざ王都にいる俺をここに呼んでるんだ。変だろ? とりあえず依頼を見てみな。掲示板に張ってあるから」

「……?」


クラッドは訳が分からないまま、リムと一緒に待合室の依頼用掲示板の所へ移動した。掲示板を確認すると、確かに依頼が入っている。

リムとクラッドを指名。集合場所は町外れのサン・ダーティ行き停留所。依頼内容は護衛、詳細はサン・ダーティに向かう途中で説明。集合時間はちょうど明日の朝だ。


「何だこの依頼? 護衛なのに詳細は現地で説明? 訳が分からないな……。依頼人は……プロキオン? 誰だ? リムの知り合いか?」

「いや、知らん。ていうかお前も知らねえの? てっきりお前の知り合いかと思ってたが」

「知らないな。……ますます怪しいぞ、この依頼」


リムとクラッドは訝しげに依頼文を読んでいる。全く知らない人物から、名指しでの依頼。しかも仕事内容は不明瞭で、王都の人物をわざわざ呼び出している。

依頼には当然ギルドの査定もあり、ギルドが通したからには問題ない内容なのだろうが、それでも警戒せざるを得ない。


「これは警戒して当たらないといけないかな……。何が起きてもいいように準備しとかないとな。やれやれ、せっかく長引いた仕事が終わったのに、早速厄介事か……。」


クラッドはしかめっ面を見せて頭を掻いた。そして待合室の空いた椅子に腰かけ、欠伸をした。リムも近くに座り、話を続けた。


「そういえばこの前アイリスが王都に来て訪ねてきたんだが、お前は来なかったな。仕事だったんだって?」

「ああ、その仕事が今日終わったやつだ。終わったら王都に行くからそれまでリムを頼ってくれ、って言っといたんだが、アイリスは今どうしてる?」

「一回来たきり来てないぞ。俺も何かあったら頼ってくれって言っといたんだが。……まあ、来てないなら何ともないじゃないか?」

「だといいけどな。アイリスもしっかりしてるようで結構迂闊だからな、心配なんだ」

「やっぱ心配か。彼女の心配ができるなんて羨ましいねぇ」

「茶化すなよ。本当に何かあったらと思うと気が気でないんだから」


2人は椅子に深くもたれかかって脱力しながら会話が続いている。


「……そういえば最近、王都で随分ひどい殺人事件があったな。……まさかな」

「おい冗談でもやめろよ、縁起でもない。余計心配になる」

「……悪かった」


クラッドの口調が本当に苛ついていたのを感じ、リムは素直に謝った。


「それにしても、本当何だろうなこの依頼」

「全く訳が分からないな。ようやく王都に行けると思ったのに厄介事とはな。……本来なら断って王都に向かいたい所だが、断るには怪し過ぎる。……さて、そろそろ帰るか。準備もしないといけないしな。リム、今日は泊まる所あるのか?」

「ああ、宿取ってあるから大丈夫だ。明日は現地集合でいいよな?」

「そうしよう。じゃあ、また明日な」

「おう、また明日」


クラッドとリムは支部を後にしてそれぞれ帰って行った。

家に帰ったクラッドはいつも以上に入念に翌朝の準備をした。終えた頃には疲労もピークに達し、シャワーを浴びて早々にベッドに寝転んだ。



************************************************



翌朝、集合場所であるサン・ダーティ行き停留所でクラッドとリムの二人は依頼人の到着を待っていた。停留所には既に馬車が到着しており、騎手の交代が行われている。もうすぐ馬車が出る時間だ。


「遅いな……。もうすぐ馬車が出ちまうぞ」

「そうだな……一体何なんだ」


いくら待っても依頼人は一向に来ない。そして遂に馬車の出発の時間が来てしまった。


「……乗って。時間」


騎手席に腰かけた騎手の少女が2人に話しかけた。


「あー、すまない、もう1人来るんだ。もう少しだけ待ってくれないか?」


クラッドは騎手の少女に申し訳なさそうに返事をした。他に乗客がいれば仕方ないが、丁度いるのはクラッドとリムの二人だけだ。少しくらい待ってくれるだろう。


「……いいから乗って」

「すまん、本当にもう少しだけでいいから」

「……プロキオン」

「……何だって?」

「……私がプロキオン」

「…………。」


しばしの間の後、2人は騎手が何を言っているのか理解した。


「お前が依頼人かよ! 来てたなら早く声掛けろよ!」

「……分かると思って言わなかった」

「いや分かる訳ないだろ」


思わず突っ込みを入れるリムにプロキオンは無気力そうに答えた。


「……君がプロキオン?」

「……そう」


クラッドは騎手の少女――プロキオンの姿を確認した。外見からは14~15歳程度と思われる。小柄な体型で、腰に一冊の本を携えている。髪は細かなウェーブのかかった金髪のショートカットで整えているようだ。表情は一貫して無気力で眠そうであり、口調も随分気怠そうだ。


「……依頼の詳細は途中で話すから、2人とも乗って」

「あ、ああ、分かった」

「お、おう」


戸惑いながらも二人は馬車に乗った。すぐにプロキオンは手綱を引き馬車を走らせた。



************************************************



穏やかな朝日の中、街道を少し進んで落ち着いた頃に2人は小声で話し合った。


「……クラッド、あの子……プロキオンに見覚えは?」

「いや、ない。間違いなく初見だ。……何で俺達の事知ってるんだ?」

「いや俺に聞かれても……。見たところ、普通の女の子に見えるけどな……。」

「普通の女の子なら、こんな事しないと思うけどな……。騎手をやってるってことは、多分『レオ』所属だろ? リム、『レオ』と何か繋がりあるか?」

「ないな。お前は?」

「俺もない」

「本当に俺達には何も関わりない奴みてーだな……。誰か人づてに俺達の事を聞いたのかね?」

「かもしれないな。しかしそれだけで名指しの依頼はおかしいだろう?」

「だよな……危険はないと思うんだが、やっぱ怪しいぞ」


2人が小声で会話していると、突然馬車が止まった。不思議に思って会話を中断し周りを見ると、特に何もない平原を突っ切る道の途中である。街道が伸びる方向を見ると、サン・ダーティまでの道のりを3分の1程進んだ場所、といった具合でエル・シーダの放雷針が遠くに白く霞んで見える。


「……ここなら誰もいない。今から説明する。下りて」


プロキオンが2人に語りかけながら騎手席を下りた。言われるままに2人も下りたが、不信感が拭えない2人は少し警戒気味にプロキオンと向き合った。


「じゃあ、話を聞こうか」


クラッドは少し警戒しつつ話を切り出した。プロキオンは無気力な表情のまま答えた。


「……まず初めに、護衛の仕事と言うのは嘘」

「だろうな。怪し過ぎだ」

「そんな所だろうと思ったよ。で、本当は何なんだ?」


いくら何でも怪し過ぎた。予想していた返事である。


「……本当の目的は2つある。1つ目、それはあなた達を王都から遠ざける事」

「王都から遠ざける? 俺達をか? 一体何のために?」

「……なるほどねぇ、それでわざわざ俺を王都の外へ呼んだのか。で、あんたは何者なんだ?」


王都から遠ざける。良く分からない理由を聞いたクラッドとリムは聞き返した。

何のためにこんな事をしたのか? プロキオンは何者なのか?


「……私は『ステラハート』。2人とも知ってるはず」

「はあ!? お前『ステラハート』かよ!?」

「……驚いたな、君もリゲルの仲間なのか? って言うかちょっと待て。リム、お前何で『ステラハート』の事知ってるんだ?」

「あー、まあ、色々あってな。俺はお前とアイリスが『ステラハート』に関わってる事を知ってたんだが、どう言い出したらいいか分からなくてな。機会があるまで言わなくていいかと思って」

「いつの間に……。」

「……話、続けていい?」

「あ、ああ、すまん」


クラッドはリムが既に『ステラハート』に関わっていた事に驚いた。それで話が少し逸れてしまったが、プロキオンが割り込んで続けた。


「……今、王都に『ステラハート』が集まって汚染用記憶水晶(メモリクリスタル)の出処捜索を行ってる。問題は今王都にいる『ステラハート』の一人、シリウス」

「シリウス? ……クラッド、会った事あるか?」

「いや、俺はリゲルにしか会ったことがない。リム、お前は?」

「そのリゲルってのも『ステラハート』か。俺はアークトゥルスっていう奴とアンタレスって奴だけだな」

「俺はその2人こそ知らないな、アークトゥルスの方は名前だけなら聞いた事あるが。……で、そのシリウスってのがどう問題なんだ?」

「……シリウスは、私達でも手に余る問題児。シリウスは汚染者だけでなく、迂闊に関わった人を何の躊躇もなく殺害する」

「おいおい、そんな奴がいるのか? 洒落にならないぞ」

「やべぇな、そいつ……。」


クラッドとリムはシリウスの予想以上の危険人物ぶりに少しばかり困惑した。実際会ってもいないので、実感は湧かないが。


「……だから念のため、あなた達が誤ってシリウスの手にかからないように、王都から遠ざけた」

「でも関わらなければいいんだろ? だったら注意してれば別に……」

「……既にアイリスがシリウスに襲われて、瀕死の重傷を負った」

「……何だと!? いつ襲われたんだ!?」


衝撃的な報告にクラッドは狼狽し、思わずプロキオンに詰め寄った。


「……シリウスが王都で汚染者を殺害した時に巻き込まれた」

「……まさか、あの事件か! 本当に巻き込まれてたのか!?」

「おい、アイリスは無事なのか!?」


クラッドは狼狽したままプロキオンの両肩を掴んで聞きただした。プロキオンはそんな事をされても表情一つ変えずに話を続けた。


「……落ち着いて。彼女は無事。もう目を覚ました。容体も安定してるし、命に別状はない。今は安全な所でベテルギウスが見張っててくれてるから、再び襲われる事もない」

「くっ、そうか、無事か……。」


無事という事を聞いて落ち着きを取り戻したクラッドはプロキオンの両肩を掴んでいた手を離し、少し離れて冷汗を拭った。


「……シリウスはアイリスを恨んでいる。だから彼女に関わる家族や友人、恋人をも襲いかねない。だから念のため遠ざけた」

「なるほど、それでか……。本当ヤバい奴だな、そのシリウスってのは」

「シリウスはアイリスを恨んでるのか? 一体どうして? アイリスが何をしたって言うんだ?」

「……分からない。カノープス自体、分からないと言っているし……」

「カノープス? 何の事だ?」

「……後で暇があれば話す。理由の2つ目、これは私の個人的な事なのだけど」

「ああ、まだ理由があるんだっけ」


意味深な事を言いかけたプロキオンだが、話を切り上げて2つ目の理由を語り出した。


「……実験台になってほしい」

「いきなり何を言ってるんだ、お前は」

「さらっととんでもねー事言ってんじゃねーよ」


突然の実験台発言に2人は少し引いている。人を実験用のモルモットか何かとでも思っているのだろうか。


「……大丈夫、別に危害があるわけじゃない……たぶん」

「危害があったら大問題だろ。というか、何でたぶんとか付くんだよ。そこは言い切れよ」

「……それにこの実験、成功すればあなた達は今以上に強くなれる」

「強化系の実験なのか……。本当に大丈夫か? その手の実験は問題があるのが常だろ? 流石に受けたくないぞ」

「そうだな、それに実験の内容も教えられないままじゃ誰も受けねーだろ」


クラッドもリムも実験台になるのは躊躇している。しかも完全に安全とは言い切られていない。誰でも躊躇する状況である。プロキオンはそんな様子の2人を見て少し考えた。


「……じゃあ、こうしましょう。ついてきて」


プロキオンは馬車から離れて街道脇の平原へ進み出た。クラッドとリムはとりあえず言われた通りついて行った。プロキオンは邪魔な草木がない開けた場所を選んで二人に向き直った。


「……今から模擬戦をしましょう。あなた達二人で私に攻撃を仕掛けてもらう。指一本でも私に触れたら実験は中止する。諦めたら実験に付き合ってもらう」

「模擬戦で勝ったら中止って事か? それにしても指一本って……いくら何でも馬鹿にし過ぎじゃないか? いくらあんたが『ステラハート』とは言え、こっちは二人いるんだぞ?」

「だな、さすがにちょっとイラッとしたぞ。甘く見過ぎだっつーの」

「……まあ、本当は近寄れたら中止くらいでもいいのだけど」


馬鹿にしているのは確実のようだ。


「……分かった、そっちがその気ならやってやるか」

「後悔しても知らねーぞ」


クラッドとリムは馬鹿にされたことに少し腹を立てつつも、模擬戦の構えを取った。


「……武器を使ってもいいのだけど?」

「必要ねーよ」

「……そう。じゃあどうぞ、かかってきて」


プロキオンはふわりと後ろに飛んで二人と距離を取った。それと同時に腰の本を手に取って開いた。


「リム、すぐに終わらせるぞ」

「当然だ!」


クラッドとリムは二手に分かれて素早く回り込み、プロキオンを挟撃する態勢を取った。プロキオンは意に介さず、開いた本のページに手を置いて何か呟いている。隙ありと見たクラッドとリムは一気に詰め寄って勝負を決めようとし、地面を蹴った。


「……【霜氷枷(フロストシャックル)】」


それと同時にプロキオンが一言言い放つと、本の上に光の紋様が現れ、プロキオンの顔を青白く照らした。紋様からは同様に青白い光の筋が溢れ、溢れたそれは地面を這ってクラッドとリムに高速で接近した。


「何だ!? うわっ!?」

「うおっ!? 何だこりゃ!?」


青白い光の筋は二人の手足に纏わりつき、地面から伸びる氷の鎖へと変化して二人をうつ伏せに地面に引き倒した。


「……もう終わり?」


氷の鎖によって這いつくばる二人を見て、プロキオンは余裕といった雰囲気で言った。


「何なんだ、これは!? ぐっ、外れない!」

「くそっ、動けやしねぇ!」


何とか立ち上がろうとするも、氷の鎖の引き倒す力が強く、立つことすらままならない。

今のこの状況、普通は考えられない状況だ。一体どうしてこうなったのか? 答えは一つしかない。


「まさか……魔法か!?」

「マジか!? お前魔法使いかよ!?」

「……正解」


クラッドとリムは本物の魔法使いにまともに相対した事などなかった。今回が初めてである。当然、魔法の対策なども考えた事がない。


「……諦める?」

「くそっ、まだだ……!」


クラッドは力を振り絞り、氷の鎖に引っ張られながらも、何とか上半身を起こすところまでは成功した。リムも起き上がろうとしているが、弓術中心であまり力がないリムには少々厳しいようだ。なかなか起き上がれていない。

プロキオンは上半身を起こしたクラッドに感心、といった眼差しを向け、本に手を置いて一言呟いた。


「……【麻痺呪パラライズカース】」


今度は本から直接小さな黄色い光球が飛び出し、弾丸のようにクラッドを直撃した。


「うぐっ!? うわっ!」


痛みこそ無かったが、光球が当たった瞬間に全身が痺れて力が入らなくなってしまい、結局地面に引き倒されてしまった。


「だめだ、痺れて力が入らない……!」

「くそっ、魔法はずりーぞ、魔法は! こんなの一般人の俺等が勝てる訳ないだろ!」

「……じゃあ諦める?」

「くっ、こいつ……!」


クラッドとリムは引き倒されたまま悔しそうに歯噛みした。残念ながら、今は魔法に対抗する手段がない。このままでは埒が明かないし、降参する他なさそうだ。


「くそっ、分かった分かった! 降参だ!」

「ちくしょう、こんなのありかよ……!」

「……私の勝ち」


プロキオンは本を閉じて仕舞うと、指を一回鳴らした。すると氷の鎖は音も無く崩れ去り、クラッドの体の痺れも消えてなくなった。

自由の身となったクラッドとリムは体を起こし、肩で息をして座り込んだままプロキオンの方を見た。


「はあ、まさか魔法使いだとは思わなかった……。普通の人間の俺達じゃ勝てる訳がない」

「魔法使いってただでさえ少ないのに、ほとんどが国家お抱えだろ? そりゃこんなところにいるとは思わねえよ、普通」

「……私が勝ったから、今度実験に付き合ってもらう」

「ああ、そうだった……。何されるんだ俺達」

「……今すぐじゃないから、やる事はその時になったら説明する。もう馬車に戻りましょう」

「はあ、気が重いな……」


クラッドとリムは怠そうに立ち上がって泥を掃い、プロキオンと共に馬車へと戻った。

プロキオンは2人が馬車に乗り込んだのを確認して騎手席へ登り、手綱を引いて馬車を走らせた。その後、馬車を走らせながら今後の予定について説明を始めた。


「……王都での記憶水晶捜索が終わるまでは私と一緒にいてもらう。しばらくはサン・ダーティで過ごしてもらうことになる」

「仕方ないか……。もう一度確認するが、本当にアイリスは大丈夫なんだな?」

「……大丈夫。保障する」

「……そうか、それを信じよう」

「それにしてもシリウスって奴、ヤバ過ぎるだろ? あまり擁護するのもまずいんじゃねーか?」

「……皆はどうか分からないけど、少なくともアークはシリウスを許してほしいと言ってる。だからシリウスは許されてる。正直、私はどうかと思うけど」

「そうなのか。アークの奴、甘いんじゃねーか?」

「……けどシリウスの戦闘能力は私達の中でも飛び抜けて高いから、いなくなると『エクソダス』との戦いが辛いのも事実。それに下手に縁を切って私達に牙を向かれても危険だし」

「困ったもんだな……。シリウスは『エクソダス』との争いが終わったら大人しくするのか?」

「……無理だと思う」

「だろうな。聞いた感じだけでもそんな気がするぜ。……ところで、王都の記憶水晶捜索が終わったらどうするんだ?」

「……その時は一旦向こうで話し合ってもらって、結果の連絡を待つことになってる。どうするかはその時に決める」

「そうか。じゃあそれまでは……」

「……たっぷり実験に付き合ってもらう」

「……勘弁してくれ」

「……無事に帰れるかねぇ……。」


その後、終始無言のまま一行の馬車はサン・ダーティに向けて走リ続けた。

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