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11. 4月12日:イルミナイト王都

翌日、『タウルス』の訓練施設を訪れたアイリスはリムの講義が終わるのを待っていた。一般市民向けの護身術講座を開いているそうで、今日は丁度リムが講義中だ。施設内は講習希望者でかなりの賑わいを見せていた。


「……終わったかしら?」


待つこと数十分、訓練場からぞろぞろと人が出てきた。次の講習まで少し時間があるので、今のうちにリムに挨拶をしておきたい。人が出きったと思われる頃、最後にリムが訓練場から出てきた。


「リム!」


アイリスはリムに呼びかけながら近寄って行った。リムも呼ばれて気が付いたようだ。


「ん? おお、アイリスじゃねーか! 久しぶりだな!」

「ええ、リムも元気にしてた?」

「まあぼちぼちだな。悪いな、最近ここに来てくれてた事は分かってたんだが講習が忙しくてんな、挨拶できなかった」

「……え?」


リムの発言を聞いてアイリスは首を傾げた。最近来てくれてたとリムは言ったが、それはおかしい。アイリスが最後に王都を訪れたのは半年前であり、とても最近とは言えない。そもそも、その時にはリムと会っている。


「私、昨日王都に来たんだけど? 誰かと見間違えたんじゃない?」

「え、そうなのか? 変だな、どう見てもアイリスだと思ったんだが。……まあ他人の空似か。それより今日はどうしたんだ?」

「しばらく王都で仕事することになったから、挨拶しておこうと思って」


本当は仕事ではなく『ステラハート』の手助けをするためなのだが、流石にこの事は言えない。言っても信じられないだろうが。


「クラッドは? いつも一緒にいるじゃん?」

「クラッドは別の仕事で来れなくて。仕方ないから私一人で来たの」

「そうなのか。何だあいつ、アイリスが心配じゃないのかね?」

「ちゃんと心配してくれてたわよ。代わりに王都ではリムを頼ってくれ、と言っていたわ。それに、今の仕事が終わったら来てくれるみたいだし」

「何かあってからじゃ遅いのにねぇ。ま、そういう事なら任せとけ。いつでも頼ってくれていいぞ」


リムはついて来なかったクラッドに呆れていたが、一方で得意気に協力を了承した。


「ええ、ありがとう。ところで……」


アイリスは帰って行く講習者の方を一瞥して言った。


「クラッドから見せてもらったけど、講習者には何かお土産を渡してたみたいね」

「あー、あの装飾品な。もう配布は終わったよ」

「そうなの? つい最近配り始めたんじゃないの?」

「そうなんだが……在庫が無くなったのと、訳あって補充できなくてな」


リムは白々しく顔を逸らしながら答えた。

本当は汚染者の原因となる記憶水晶(メモリクリスタル)の拡散防止のため、『ステラハート』に全て回収してもらったのである。

アークトゥルスとアンタレスには極力『ステラハート』の事は口外しないように言われている。言っても信じられないだろうが。


「確か『ピスケス』の細工職人養成所で作られたのよね? もう作るの止めたのかしら?」

「それは分からないな。……もしかして、あれ欲しい?」

「いえ、そういう訳じゃないけど、少し気になったから」

「まあ、言っちゃ悪いが不細工だったしなあれ……。贋作だから仕方ねーけど」


(アイリス……何でそんな事気にするんだ? ……確か、アークは汚染用記憶水晶に触れたら汚染者になるって言ってたな。まさかアイリスとクラッドも汚染者なのか? ……あり得るな、記憶水晶渡しちまったし)


リムは真顔で黙ったまま考えている。


「……リム、どうしたの?」


(一応、後でアークに言っといた方が良いか……。もし汚染者だった場合、除染もしてくれるみたいだしな)


「リム? ねえリム?」

「……ん? ああ、すまん、考え事してた。」


我に返ったリムは慌てて返事をした。続いて壁掛けの時計を見るともうすぐ次の講習の時間である。


「じゃあもうすぐ次の講習始まるから、また今度な。何かあったらまた来てくれ」

「ええ、お願いするわ。それじゃ、講習頑張ってね」

「ああ、気を付けて帰れよ」


(……この失踪事件対策の護身術講座も、『ステラハート』が相手じゃ役に立たねえよなあ……。)


リムは苦笑いしつつ、そそくさと訓練場の方へ歩いて行った。それを見送ったアイリスも訓練施設を出て、街道脇で王都の地図を広げた。


(次はリリィの所に……あ、どこに行けばいいか聞いてなかったわ。……とりあえず、『サジタリウス』の本部に行けばいいかしら? その次は……『ピスケス』の細工職人養成所を見てみようかしら? 何か分かるかもしれないし)


アイリスは地図で『サジタリウス』本部と『ピスケス』の細工職人養成所の場所を確認すると、地図を畳んで手に握りながら歩き出した。



************************************************



『サジタリウス』本部に到着したアイリスは、玄関ホールでリリィを待っていた。リリィは現在、外出中でもうすぐ戻ってくる予定らしい。


(……静かね。リリィはまだかしら?)


玄関ホールには多くの来客がいるが、『タウルス』の砕けた雰囲気で活気のある雰囲気とは違い、堅苦しい雰囲気で静かである。内装を見ても、『タウルス』は比較的乱雑だったがこちらは整然としており、ここからも『サジタリウス』の堅苦しい性格が(うかが)える。

アイリスも静かな場所は嫌いではないが、ここは少々堅苦し過ぎて落ち着かない。早くリリィが来ないかと考えること十数分、玄関から見覚えのある黒髪の女性が入ってきた。リリィだ。


「リリィ?」


アイリスは席を立ってリリィに近付きつつ、声が響かないよう声量を抑えて話しかけた。静かな玄関ホールではこれでも十分通じたようで、リリィはすぐアイリスに気が付いた。


「あらアイリス? どうしてここに?」

「ちょっと挨拶に来たわ。ここじゃ話しにくいし、外に行かない?」

「え、ええ……。」


何故か不思議そうな顔をするリリィだったが、とりあえず外で話をするのは大丈夫なようだ。

外に出たリリィは不思議そうにアイリスに話しかけた。


「アイリス、どうやってここまで来たのですか? 先程まで『ピスケス』の養成所の近くにいましたよね?」

「……え?」

「貴女を見失った後、寄り道せずここに帰って来たのですが……どうやって私を追い越したんですか? しかもこことは反対方向に去って行ったのに」

「え、ちょっと待って? 私ずっとここで待ってたんだけど? ……見間違いじゃない?」


リムと同じく、リリィも見間違いをしているようだ。どうやら、アイリスとよく似た人物が王都にいるらしい。


「そうなんですか? 明らかに貴女だったと思うのですが……他人の空似でしょうか?」

「きっとそうよ。今日会ってきた知り合いにも、同じような事を言われたわ」

「そうですか……。まあそれはともかく、1週間ぶりですね。王都には仕事で来たのですか?」

「ええ、しばらく王都で仕事するから挨拶しておこうと思って。邪魔しちゃ悪いから、すぐ帰るわ」

「ふふ、少しくらい話す時間はありますよ。王都にはどのくらい居られそうですか?」

「分からないわ。どのくらい時間が掛かるか予測できない仕事なの。リリィも仕事から帰ってきたところかしら?」

「ええ、8日に『ピスケス』の細工職人養成所に不法侵入被害があったらしくて、捜査の補助をしていました」

「不法侵入? あ……」


アイリスはリゲルが話していた事を思い出した。クラッドが記憶水晶を持ってきた時、リゲルが『ステラハート』の仲間であるアークトゥルスともう一人、カノープスと言う人物に『ピスケス』の細工職人養成所の調査を依頼していた。この二人が関わっている可能性は高い。


「その……何があったの?」

「『タウルス』に納入予定だった装飾品が盗まれた他、工作機械などの器物損壊があったようです。幸い休講日だったようなので、人的被害はないようですが」

「そう、やっぱりそういう事なのね……。」


リムが訳あって補充できなかったと言っていたが、『ステラハート』の仕業と見て間違いなさそうである。無料配布の予定だった装飾品とは記憶水晶の事だろう。無事、全て回収できたようだ。


「……? アイリス、どうしました? 何か気になる事でも?」

「あ、いえ、何も。それじゃ私も仕事があるし、もう帰るわ」

「そうですか、分かりました。お互い忙しくない時にまた会いましょう」


リリィはそう言うとメモ帳を取り出して筆を走らせた。書き終えるとそれを切り取ってアイリスに手渡した。

渡されたメモには住所と簡単な城下町の地図が描かれている。


「……これは?」

「私は普段そこに住んでいますから、機会があれば訪れてください」

「でもここって貴族街じゃないわよね? 今は貴族街に住んでないの?」

「ええ、貴族街に住んでいると一般の方に印象が悪くて。それに……貴族街は住みにくいですから」


リリィは途中、辟易したような表情を浮かべて言葉に詰まっていた。城下町に住んでいるのも、何か深い理由がありそうである。


「……また余計な事聞いてしまったみたいね。ごめんなさい」

「いえ、お気になさらず。来訪を楽しみに待っています。……では、失礼します」


リリィは軽く一礼すると『サジタリウス』本部に入っていった。アイリスは見送った後、受け取ったメモを服のポケットにしまうと王都の地図を取り出して開いた。


(『ピスケス』の細工職人養成所……やっぱり見ておいた方が良さそうね)


養成所の場所を再確認したが、ここから少し離れている。日も傾いており、行くだけで夜になってしまうだろう。


「今日はもう無理そうね……。さすがに王都は広いわ、2ヶ所回っただけで日が暮れそうなんて」


アイリスは半ば呆れ気味に呟いて地図を畳むと、泊まっている宿に向けて歩き出した。『ピスケス』の細工職人養成所を見に行くのは明日に持ち越しである。



************************************************



その日の夜、『リブラ』本部を訪れたリムは客室でアークトゥルスと話をしていた。


「アーク、実は今日知り合いが訪ねてきたんだけどな、そいつが汚染者かもしれないんだ。何とかできねーか? 除染やってるって言ってたよな?」

「汚染者? どうしてそう思うの?」

「以前別の知り合いが来た時に記憶水晶を渡しちまったんだが、そいつ経由で汚染されたんじゃないかと思ってな。いつも一緒にいる二人だったし、今日会った時も記憶水晶の事を妙に気にしてたからな」

「変ね? 汚染されても記憶水晶の存在には気付かないはずだけど?」

「じゃあ汚染されてないのか?」

「いえ、分からないわ。一応注意しておいた方が良いわね。ただ、悪いけど除染はしばらく中止することにしたの」

「え? 何でだ?」


思いがけない返事にリムは思わず聞き返した。アークトゥルスから初めて話を聞いた時には、汚染者回収もしていると聞いていたのだが。


「あまりに汚染者が多過ぎて除染が間に合わないのよ。しばらく除染は後回しにして、まずは汚染の根源を絶つことにしたわ。それに、汚染者だからと言ってその人の生活に支障が出るわけじゃないから大丈夫よ。私達が襲われないように気を付ければいいだけだから」

「むう、そうか……。気になるが、仕方ないか」


とりあえず生活に支障が出ないのなら仕方ないと、リムは渋々ながら納得した。


「とりあえず、その知り合いには襲われても手を出さないよう、仲間に伝えておくわ。その人の特徴と名前を教えてもらえるかしら?」

「悪いな、手間かけさせて。名前はアイリス、赤い長髪が特徴の女で……」

「え? アイリス? あなた、彼女の知り合いなの?」

「え!? あんたアイリスの事知ってんのかよ!?」


リムとアークトゥルスはお互いに驚いた顔を見せた。まさか共通の知り合いだったとは思ってもいなかったのである。


「以前エル・シーダに行った時に会った事があるわ。彼女も私達に協力してくれているの」

「マジかよ!? そうか、それで記憶水晶の事を気にしてたのか」

「じゃあもしかして、もう一方の別の知り合いというのはクラッドと言う人の事? 私は会った事ないけれど、仲間から名前は聞いているわ」

「言う通りだ。何てこった、あいつら二人とももう関わってたのか……。」

「まあでも安心したわ。その二人は汚染者ではないのは確実よ。それにしても、リゲルからは王都に来なくていいように言った、と聞いていたのだけれど、どうして王都にいるのかしら?」

「仕事だってよ。それは別に不思議じゃないだろ?」

「仕事だったら真っ先にここを訪れているはずよ。彼女も『リブラ』所属なんだから。来てないと言う事は別の理由があるのよ」

「そうなのか……。 じゃあ積極的に手伝おうとでもしてるのかね?」

「それは分からないわ。彼女に直接聞いた方が良さそうね。仲間にも彼女を見つけたら何をしてるのか聞いてもらう事にするわ」

「俺も会ったら聞いていいよな? もう関わってるんなら別に良いだろ?」

「ええ、お願いするわ。他に何かあるかしら?」

「いや大丈夫だ、もう帰るわ。……やれやれ、ちょっとした相談のつもりが、またえらい事になっちまったなあ……。」


リムはぶつぶつと呟きながら客室を出て行った。

リムが出て行った後、一人残ったアークトゥルスは通信機を取り出して先程の件を仲間に伝えるべく、連絡を取った。


「……リゲル? 私よ。話があるんだけど」

≪アークか? 丁度良い、私も連絡しようとしていたところだ。何だ?≫

「リムから聞いたのだけど、今アイリスが王都に来ているらしいわ。『リブラ』本部に来てないから、仕事ではないみたいなんだけど……」

≪何!? 本当か!?≫


リゲルは話を聞いて驚いたように声を上げた。


「え? どうしたの突然?」

≪ちょっと待ってろ! おいベテル、まずいぞ≫

「リゲル? ベテルも一緒にいるの?」


返事はない。どうやらリゲルはベテルと一緒にいるらしく、何か相談をしているらしい。

数十秒後、リゲルから返答があった。


≪おいアーク、今アイリスは王都のどこにいる?≫

「それは分からないわ。王都にいるとしか聞いてないから」

≪分からないのか……くそっ、何でこんな時に!≫

「何かまずい事があるようね。何があったの?」

≪ああ、ベテルから説明してもらう。代わるぞ≫

≪……アークですか? アイリスが王都に来ているというのは本当ですの?≫

「ええ、リムが嘘を吐いていなければ、だけど」

≪それはまずいですわね……。実はリゲルと今後の王都調査について話を進めていたのですけど≫

「何か不都合があるの?」


アークトゥルスが気になって聞き返すと、ベテルは今後の王都調査作戦についてアークトゥルスに説明した。


「……それは、確かにまずいわね」

≪ええ、手遅れになる前に急ぎアイリスを見つけなければ……≫

「早速探し始めましょう」

≪ええ、アンタレスとカノープスにはこちらから伝えておきますわ。急いでください≫

「分かったわ」


アークトゥルスは通信を切って客室を駆け足で出た。そのまま『リブラ』本部を出て、夜の王都をアイリスを探して駆け巡り始めた。

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