10. 4月10日:エル・シーダ ~ 4月11日イルミナイト王都
リリィと別れてから3日、アイリスはクラッドの家を訪れていた。クラッドは丁度仕事を終えてエル・シーダに帰ってきたところだが、明日からすぐ別の仕事が入っているので準備に追われていた。
こういう時は邪魔をしないようにしているアイリスだったが、この日は話しておきたい事があった。
「クラッド、私考えたんだけど……王都に行ってくるわ」
「王都に? 急にどうして?」
クラッドは荷造りをしながら話を聞いている。
「王都で記憶水晶を見つけたんでしょう? 王都で何かが起きているのは間違いないと思うし、私もリゲル達を手伝いたいの」
「それはそうだが……リゲルに手伝わなくていいと言われただろ? 無理に行かなくていいんじゃないか?」
「でも私達の世界に関わる事なんだから、知った以上は『ステラハート』だけに任せてばかりじゃなくて、私達も動かないと駄目だと思う。……何もしないでいるより良いでしょう?」
クラッドは作業を中断してアイリスの方を見た。
アイリスの眼差しは真剣である。軽い気持ちではないようだ。
「本気みたいだな……。何かあったのか?」
「ふふ……何も。ただ、考える機会と時間があっただけ」
「……仕方ないな。行くんだったら無理はするなよ」
「ええ、分かってるわ」
「俺はまた仕事でついて行けないからな、王都で何かあったらリムを頼ってくれ。今回の仕事が終わったら俺も王都に向かう」
「クラッドも来てくれるの? 仕事はいいの?」
「今回の仕事以外は替えが利くから何とかなる。何より……心配だしな」
「ありがとう、クラッド。それじゃ、早速準備しなきゃね」
「ああ、気を付けて行って来いよ」
話し終えるとクラッドは荷造りを再開した。アイリスは準備の邪魔をしないよう、そして自分も王都に向かうための準備をするためクラッドの家を出て自宅へ向かった。
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翌日、アイリスは王都行きの馬車の中で静かに思索に耽っていた。
(私にできることは……とりあえず記憶水晶を探すくらいしかないかな? 汚染者の回収も『エクソダス』の追跡も『ステラハート』じゃなければできないようだし……けれど、動いていればきっと何をすべきか、見えてくるわよね)
ぼんやりとした様子で馬車に揺られながら、思索は続いている。
(リムに会うのも久しぶりね……最後に会ったのは私とクラッドが仕事に行った時だから、半年前かな? ……リリィにも挨拶しておかないとね)
アイリスは読みかけの小説を取り出して栞を挟んだページを開いた。小説に目を通しながら、結果が出ることを期待して思索を止めた。
――その後王都に到着した時には既に日は沈んでいたが、それでも馬車の停留所近辺は十分な賑わいを見せていた。
「相変わらずすごい活気ね、王都は……。」
到着した宿の窓から王都の賑わいを見てアイリスは呟いた。アイリスも王都には何度も訪れた事はあるが、いまだに夜でも賑わう王都の雰囲気には慣れずにいた。
(明日は、とりあえずリムとリリィに挨拶してからどうするか決めよう……王都の事情も聞いておきたいし、何か手掛かりがあるかもしれないしね)
長時間の移動で疲れていたアイリスは窓を閉めて明かりを消し、ベッドに入って眠りについた。