送信エラー
「あっ、渡瀬からメールきた!」
そう言ってご主人様は元気に立ち上がり嬉しそうに笑います。
よかった、今日もご主人様は幸せそうです。
送信エラー
渡瀬 唯様は、私の主である 黒木 要様のクラスメイトです。
ご主人様は現在高校一年生、バスケットボール部に所属していらっしゃっていて、現在絶賛片思い中でございます。その片思いのお相手は渡瀬唯様。
ご主人様と渡瀬様は仲がよろしく、メールのやりとりが多くて一緒に写っている画像もたくさんございます。ツーショットはほとんどございませんが…。
渡瀬様は色素の薄い髪の毛がチャームポイントの、元気溌剌で素直なかわいらしい方です。そして恐らくは、渡瀬様もご主人様のことがお好きなのでしょう。お二人のやり取りを見ていればわかります。
ご主人様も渡瀬様もとてもお優しく素敵な方です。きっと結ばれれば素敵なカップルになるでしょう。そしてご主人様はますます幸せになって、今よりももっとたくさんの笑顔を見せてくれることでしょう。だけれど、大変申し訳ないのですが、私はその恋が成就するのを、心から願うことはできません。
何故なら、私は──────
「好き」
ご主人様が私にそう打ち込みます。渡瀬様にとうとう告白するようです。だけどごめんなさい、ご主人様。
「え、何で送れないの!?
もう一回…」
今までたくさんご主人様のためにメールを送って、受け取って、時には声を繋いで、きれいに写るようがんばってきたけれど、たったひとつ、これだけは、私のわがままです。このメールは送れません。
だって、好きな人と他の女性の橋渡しなんて、したくないんです。
「あーくそっ、……よし」
一向にメールを送らない私に苛立ったご主人様は、何かを決意して深く息を吐く。落ち着いて電話をかけた先は、もちろん私の恋敵。
「あ、もしもし渡瀬?
いきなりごめん、何かメール送れなくなっちゃって」
好きな相手にはパートナーが居るとか、身分に差がありすぎるとか、血が繋がっているとか性別が同じだとか、
叶わない恋というのをよく聞くけれど、そんなの私からしたらどれも十分叶う恋です。
「いや…どうしても言いたいことがあって。
今、電話してても大丈夫?」
だって、パートナーが居たって気持ちが移らないとは限らないし、身分の差だって周りは祝福しないかもしれないけれど互いが想い合う可能性はあるし、血が繋がっていても性別が同じで周りから反対されても、好きになってもらえる可能性は十分にあるんです、だって、
同じ、人間なのだから。
「俺───」
私は携帯電話。
人は私を使って声を届けたり、聞いたり、メッセージを送ったり写真を撮ったりと日々をより楽しんでいらっしゃいます。それはとても喜ばしいことです。だけれど、
私は好きな人に声を発することもできず、文字で思いを伝えることも、一緒に写真を撮って思い出を残すこともできません。叶うはずが、ないのです。突然人間になるだなんて、そんな幸せなこと、現実には起こらないのだから。
「お前が好きだ」
こんなにもすぐ傍で囁かれたその言葉は、私を貫いて
届かないメール
これからもお傍にいます、ご主人様。
あなたが私に飽きてしまう、その日まで。
初めまして、雪平と申します。
お読みいただきありがとうございます。
今回のお話の彼らはメールを使っていました。世間はLI●Eの時代ですが、私はメールの方が好きです。と言っても、友人との連絡は専らLI●Eですが…。
小さい頃、物にも感情がある、という風に思いませんでしたか?私は未だに思っているところがあるので、スマホ落としちゃったら謝ったりします笑
動きが遅いときはきっと疲れてるんです、怒らず労ってあげてください、きっと元気になりますから。
ケータイやスマホは私たちの思いを届けてくれますが、彼女たちの思いは私たちには届きません、届ける手段がありません。
ひたすら主人を思い健気に尽くす最高の協力者であるケータイの精一杯のいじわる。
電話を繋げてくれたのは彼女の優しさですね。
ケータイ、スマホさん、いつもありがとう。その一言だけで彼女は救われるのかもしれません。
ちょっぴり切ない、誰かの恋のお話でした。
雪平