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昔馴染み

「アルノー……!なんであなたがここに!?」

 突然現れた昔馴染みの顔にうれしくなって彼に駆け寄ると、アルノーはにっこり笑って説明してくれる。

「新しく王宮狩猟官に任命されたんだ。父の跡を継いでな。お前とザルツが結婚した後だったから会う機会もあるだろうと思ってたのに、実際こうして会うまでには結構時間がかかったな」

「……そうね」

 彼はわたしの「噂」を知らないのだろうか。聞くのも怖くて、曖昧に笑って返事をした。そんなわたしたちの様子を見た白雪が近づいてくる。

「かあさま、お友達?あたしも仲間に入れてほしいわ」

 白雪がにっこり笑ってアルノーに会釈をする。まるでその場に花でも咲いたかのようにぱっと華やいだ気がした。

「これは失礼。存じておりますよ、白雪姫」

 アルノーが白雪に礼をした。芝居がかったそれに彼女は綺麗に笑う。彼は自分が王宮狩猟官を務めるアルノー・ラドラック男爵であると名乗った。


 そうして3人で会話をしているとざわめきが消え、この国で最も高位の人物が城から出てくる。ザルツは、今日もまたその顔にはなんの表情も浮かべてはいない。こちらをちらりと見たような気もしたが、特に何かを言うわけでもなく、そのまま静かに出立を告げた。


 狩猟会へ出発する時間がやってきた。


***


 昔から、馬に乗って駆けるのは好きだった。軽やかなステップの音。めまぐるしく過ぎ行く景色と、吹き抜ける風。

 一番最初に乗った時のことは、今でも覚えている。わたしはまだ幼くて、一人では馬に乗ることもできなかったけど、その頃ちょうど乗馬が上達したころだったザルツがわたしを馬に一緒に乗せて、城の周りを内緒で走ってくれた。


 昔、わたしがまだ10になるかならないかぐらいのころだ。貴族の少年少女たちと一緒に、この国の王子様――ザルツの遊び相手として城に遊びに来ていたころ。実際ザルツはわたしより年上で、一番小さかったわたしは遊び相手というよりは遊んでもらっていたようなものだったのだけど。


 その少年少女の中に、アルノーもいた。彼は人懐っこく、笑顔の絶えない優しい少年で、今ほどではないにせよ昔から少々気難しい性格だったザルツとも仲が良かったし、わたしのこともいつも気にかけてくれていた。ザルツがお姫様と結婚してしまって落ち込んでいたわたしのことも一生懸命に励ましてくれたし、その後ザルツが冷たくなって傷ついたわたしを元気づけてくれたこともあった。


 いろいろあってザルツとわたしと結婚することになった時にはよかったな、と祝福の言葉をくれた。これからはうまくやれよ、とアドバイスもくれたっけ。

 この数か月間は会うこともなかったから、なんだか懐かしくなってしまう。


 王宮狩猟官は、ラドラック男爵家が代々つとめてきた役職だ。狩猟は、平和な今でこそ王侯貴族の遊びだけれど、少し前までは戦争の訓練としても行われていた。それを司どる狩猟官の中でも最上位の職。つとめるラドラック男爵家がいかに重要な家であるかということを物語っている。


 昔から優しくて、明るくて、そんなアルノーがわたしは大好きだった。生意気な弟しかいないわたしにとってはお兄ちゃんのようだったし。その彼が重職についたのだと思うと、不思議な感覚だった。うれしくもあるが、時間の流れを感じてしまう。


「なんだか楽しそうね、かあさま」

「白雪」


 昔のことを思い出しながら馬を走らせていると、隣に白雪が馬をつけた。速度を少し落として彼女と並走する。まだ13歳だというのにずいぶん乗馬が上手だ。そう褒めると、白雪は「教えてくれる先生がうまいの」と話した。

 白雪の教育に関してはザルツが一切をこなしているから、わたしは彼女がどんな授業を受けているのか知らない。王妃としてだけでなく義母としても失格なんじゃないかと落ち込むが、白雪はまったく気にした様子はなく、「乗馬って本当に気持ちがいいわ」と笑った。


「あたし、馬に乗るの好きなの。だって気持ちいいでしょう?風を切る感覚も、ぱーっと通り過ぎてゆく景色も」

「わたしも好きよ」

 賛同すると、白雪が嬉しそうに笑う。その光景に、昔の光景が重なった。


――馬に乗るの、楽しいね

――そうか、それならまた乗せてやるし……自分で乗れるように、教えてやろう


 あの頃は、彼とそんな会話を交わして。


――わたし、馬に乗るの好きだわ、ザルツ

――俺も好きだ。風を切って駆ける感覚も、通り過ぎてゆく景色も、とても気持ちがいい


「白雪は、ザルツに似ているわね」

 言ってから、なぜか泣きたくなった。白雪に気づかれないように、きちんと笑顔は作れただろうか。


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