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彼は魔族の王  作者: 暗黒わらび
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「一番手、オレ! いきまーす」


小石を握った手が高く掲げられ、次に大きく振りかぶられた。狙いは打ち捨てられた木製の車輪。木に立てかけたそれの車軸に石を当てようという遊びだ。まわりには俺を含めて5人の子どもがいて、そいつの挑戦を観戦している。

バカン! 破壊音がして、(スポーク)の一つが吹き飛んだ。


「外れだー」


すぐに見ていた一人が囃し立てて、言い合う声であっという間に騒がしくなった。

余所を見ていると袖を引かれたので、俺は自分の仕事に戻る。今日は延々土を掘る役だ。隣ではやや歳の離れた姉妹が土の山を建てているが、何を作っているのかはわからない。俺は材料を供給するだけ。

一見すると近所の子たちが集まって遊んでいる、よくある光景のようだ。いや実際その通りで、どこもおかしいことなんてないんだが………。


と、土山を囲んでいた姉妹が腰を上げた。姉の方は、もうどろんこ遊びをする歳には見えないのだが、ようするにお守りだ。

彼女は両腕を広げ、円を描いて両の手を合わせた。まぶたを下ろして細く息を吐く。すると軽く合わせた両手から青い光が漏れ、同時に透明な水が滴り落ち始める。作った土山の表面を崩しながら流れていった水の跡を、上から妹の小さな手が叩く。

まあ、ふつうの砂遊びだな。


メキメキッ………と木の幹が折れる凄まじい音がした。瑞々しい枝葉が地面に打ちつけられる。どうやら車輪を的に遊んでいた連中が、的の支えにしていた若木をうちぬいてしまったらしい。

この辺りに転々と立っている朽木は、こうしてできるわけだ………まあ、みつかったら怒られるけど、よくやる。分別ある大人たちはやらないけど、これくらいの破壊は俺たちにとって朝飯前だ。


ここはロギスという町。魔族(ネフィリム)の国ダロルエンデの片隅。

俺の遠い最初の故郷、地球とは空間も法則もちがうところ。

そう、俺は元地球人の日本人なのだ。いまは魔族のガキをやっている。


なんで地球からこの世界へやって来たかはさっぱりだが、魔族へ生まれなおしている理由はつけられる。ちょっと長くなるけど、まあ聞きなって。


俺は大のゲーム好きだった。沢山のゲームをやった。そのなかに俺にしては珍しく、アクションメインでないのに随分遊んだゲームがあった。

SIM(シミュレーション)RTSリアルタイムストラテジー RPG(ロールプレイング)、クロニクル オブ バルフート。略してCoB、コブコブ呼ばれてた。

無謀なくらい色んなジャンルを取り入れようとしたこのゲームの主旨は、王様になって国を治め、守り、時に戦争をするというもの。

ファンタジー世界を基盤として、選んだ主国民種族が国の形に大きな影響を与える。森に住むエルフ、海底に住むマーフォーク、石の体を自らで改造するガーゴイル、そして万能のヒューマンなどなど。


いまどきのゲームらしくオンライン要素もあったから、他のPN(プレイヤー国)と協力したり、対戦、大会を行うこともあった。

そしてこのゲームはRPGだった。

宰相や大貴族、部族長などは、固有の名を持ち、会話を交わすシーンもあった。種族としても個人としてもそれぞれの性格を持つ彼らと、選択肢で信頼を築いていくというアレである。当時はその信頼度を数値で表せるものであったが………。


そのコブで、当時俺はネフィリムの国をプレイしていた。個体の能力は高いが生産力の低い戦闘向きの種族。

そして気付いたら、コブの元ネタであるかのようなリアルな世界で、ダロルエンデの国王――ダクトになっていたのだった。

どうだ? わけがわからないだろう!

だが連絡を取ってみると、PN(プレイヤー国)であった国の主はやはり元プレイヤーであった。

夜布団に入って、朝王の寝室で目覚めるという大体そんな感じの怪現象を経験した俺たちは、戸惑いつつこの世界の住人として生きるほかなかった。

それができない奴は、静かに消えていくか、あるいは周りに混乱と破滅を撒き散らしながら消えていった。国主であるという以上に、俺たち元プレイヤーには特別な部分があったから。


他の人々、つまり元NPCたちを含め、俺たちを超越者と呼ぶ者もいる。

またある者は聖霊と。どちらにしても自称するには恥ずかしい………と思ったのだが自ら名乗って戦争を起こした連中がいた。

既にというべきか、ようやくなのかそれは過去のことだ。もともと繁殖力の低いネフィリムの町でこれだけ子供がいるのはいわゆるベビーブームだろう。砂遊びをしている姉の方の世代は町全体で6人くらいいるみたいだけど、俺の同世代は妹ちゃんだけなのだ。彼女と同じ年頃だってこと、よくわすれそうになるんだけどね。


それで、何の話だっけ………。そう、気をつけないと思い上がって間違いを犯しかねない力が、元プレイヤーにはある。

まず、自分の国がある限り滅びない。生き物として死にはするけど、次の世代に新しく生を受ける。ゲーム時代のように、プレイヤーキャラが必ず存在するというわけだ。国が滅んだら、たぶん転生することなく消滅するのだろう。国が亡ぶのを見るまで終われないのも嫌なのに、それ以上なんて考えたくもない。

ほかにも臣下から好意的に受け取られやすいというか、魅了効果っぽいものがあるような気がした。そうじゃなかったら俺なんかの演説で民衆が沸くわけがない。最初は反抗的だったやつが、おもしろいからと側においていたらいつの間にかすっかり俺に傾倒していた。幸いなことに今はそんな効果はなくなってるみたいだけど。

それから元プレイヤーには、かならず王となる証が与えられた。国や種族によって違うけど、その人々にとっては絶対的なものだ。たとえばヒューマンの場合だと絶対に抜けない剣だとか、着ることができない鎧だとか。世界でただ一人だけが使える、国の象徴、国宝だ。なかなかロマンじゃないか?

で、俺は、というと………ネフィリムの場合、身体的特徴が証として現れるはずで、それは有ったんだけど、ないんだよね。つまり今はただの一般人(ガキ)。これからなのかもしれないし、なくなっちゃったのかもしれない。そんな話聞いたことないけど。でも死んだときの記憶がなくて、同時期に前代未聞の天変地異があったというから、もう驚かないつもりだ。だいたい現状できることはないのである。ただのガキなんだから。


天がひっくり返ったんだか落ちて来たとかいうその異変に俺は巻き込まれたのだろう。最高責任者が突然いなくなって、かつての部下が今は国を治めているが、当時はかなり混乱したはずだ。

彼らを信頼してる、でも心配するのは別だ。置き所のない想いだけれど。


地球に帰る………のは、もうあまり強い感情がついてこない。

結局帰り方は見当もつかないままだけど、こんな風に感じているのは他の皆もだろう。時間は気持ちを擦れさせる。ヒューマンであったなら、既に一生を全うするだけの時が経ってしまった。


「さーてと、そろそろ帰るかな」


泥のついた手を叩いて、周囲の気をひく。土を掘る道具は放置。そのうちに消えてなくなるだろう。自然のものではないが、ただの氷だ。

遊びに飽き始めていた悪ガキどもは、すぐ口々に帰ると言い出した。隣の姉妹も水を喚び出して手を洗っている。


「兄いちゃん! ばいばい」


体いっぱいで挨拶する幼女と、小さく「ありがと」と言う少女に、俺もまた手を振り返した。


今日もまた、一日が終わる。

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