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眠りネズミと夢の話

作者: 雨空

目が覚めたら、とっくにアリスは帰っていた。

「だから、俺はちゃんと起こしたよ?2時間前に1回、1分前に1回、帽子屋の家に行く直前に1回。それでも起きなかったのはキミの責任だよね」

「いや、3回は少ない。5分前にも1回起こすべきだった!」

「その時はお茶会の準備で忙しかったんだよ!大体、いい年した大人が誰かに起こしてもらおうとする方がおかしいって!」

「……三月ウサギのばかーー!!」

こうして僕、眠りネズミは、24歳にして初めて家出を決意しました。



「それで、なんで俺のところに来るのかなあ……俺、今機嫌悪りぃんだけど」

家出する場所を考えてみたけど案外行くところが無いことに気がついたのは、家を出て300メートル程走った後だった。なんかすごい息切れした。年かな。

「僕だって彼女に振られて傷心気味のチェシャ猫君気持ちはわかってるよ」

「テメエどこでそれを、いや、別に振られてねーし!」

いや、ホントはわかってないです。息切れ中に『チェシャ猫がアリスをナンパしたけど白ウサギに取られた』的な話聞こえただけだけです。

「そもそもそのハナシ、起きないオマエが悪いだろ。むしろ3回も起こしてくれた三月ウサギのお節介ぶりに感謝たほうが良いんじゃね」

「むー。僕の睡眠力はそんなもので覚めないもん」

「それに帽子屋とか、白ウサギとか、匿ってくれそうなヤツはたくさんいるだろ。わざわざ、俺の所に来たってことは……また池に落とされたいのか?」

「いやいやいや!!めっそうも無い!」

チェシャ猫は暇な時によく僕を追い掛け回す(曰く、猫がネズミを追うのは本能とか)。それがヒートアップして池ポチャしたのは記憶に新しい。

「チェシャ猫のところに来たのはちゃんと理由があるよ。キミが僕と同じだからさ」

「1ミリたりともネズミと一緒だとは思われたくないんだが」

呆れたように言うチェシャ猫。めげないもんね。

「一緒だよ。この夢の結末に不満があるでしょ?」




二人揃って町に出た。

「あれ、ずいぶん静かだね」

「オマエ本当に今まで寝てたのな……今日はハートの女王が処刑される日だ」

女王様が処刑される?女王様がテキトーな言い掛かりつけて処刑するのはよくあるらしいけど、逆?

「なんでもアリスの目を覚ましたんだと。これでこの国が滅びるのも時間の問題だな」

「そーか滅び……ええええええ!?」

「うるさい」

鳩尾に一発もらいましたー。地味に痛いよこれ。

「ここがアリスの夢なのは知ってるよな。夢なんて曖昧なもんは、忘れられたら消える運命なんだよ。オマエも見た夢を一々憶えてるワケじゃないだろ」

「うーん、眠りネズミは基本ノンレム睡眠だから、そもそも夢なんて見ないよ!」

「聞いた俺がバカだった」

じゃあ世界崩壊まで1日そこらなのか。にしてはみんな落ち着いてるなあ。世界終了ってもっと人が自殺したり殺したりするイメージなんだけど。

「ちなみにコレ、たぶん殆どのヤツら知らないぜ。知ってたらもっと殺したり殺されたりしてるだろうし」

わあ同じこと考えてた。案外似てるのかな僕ら。

「じゃあなんでキミは知ってるの?」

「自分でもよくわかんねーけど、アリスが俺を『何でも知ってる猫』ってイメージしたらしい。だから他のヤツが知らないことを知ってても問題ない」

よくわかんない。

「……たとえば、ハートの女王が簡単なコトで首をハネちまうのをオマエは聞いたことはあっても、実際に見たことが無いだろ。なのにそう思ってるのはアリスが無意識で『女王様は傍若無人で気に入らない人はすぐに首をハネてしまう』という設定にしたからさ。アリスの夢だから登場人物はみんなアリスがイメージしたようになる」

「へえ、そーゆーもんなんだ……あれ?」

じゃあ、アリスがいる間全く起きない眠りネズミはどんな設定にしたんだろう。




「それじゃあ、現実に続く穴を探そうか!」

「いやそれって白ウサギにしか見つけられないんじゃ無かったか」

僕らは草原に来ていた。風が冷たいからチェシャ猫の後ろに隠れたら叩かれた。普通に痛い。

ガサガサと草を掻き分けて進む僕に、後ろからチェシャ猫の声がする。

「……オマエさあ、ホントにアリスに会おうと思ってるワケ?」

「当然!このまま終わるとか嫌だもん。キミだって嫌でしょ?アリスに振られて終了なんてさ」

後ろは振り向かずに答えた。

「そのことなんだけどさ、さっきはオマエに乗せられるカンジでついてきちまったけど、やっぱりそんなに未練は無いかもしれないことに気づいた」

「え」

「なんかこう、あそこまで眼中無しだと逆にすがすがしいというか……そこそこアリスに会える回数も多かったし」

キミはそれでいいかもだけど、じゃあ僕は?

アリスに一度も会えないどころか、出番らしい出番も無いんだよ?

そんなことを考えていると、草むらの中に一箇所だけ、ぽっかりと開いた穴を見つけた。

「やった、穴発見!」

チェシャ猫を待たずに飛び降りた。

現実へ続く穴に。








「……という夢を見たんだ!」

「すげえ断片的だな」

「夢なんて細かく憶えて無いもん。それで起きた時にはアリスは来て帰ってるし、なんか世界は消えてないし、色々終わった後みたいなんだよねー」

「まあその辺のハナシはその内誰かから聞くだろ」

「でさー、ちょっと気になることがあるんだよね。一応夢の中のキミが言った『登場人物は全員アリスが無意識で作った』みたいなのって本当なんだよね」

「まあな。なんでそんなことオマエが知ってるのかはわかんねーけど」

「眠りネズミはやっぱり『ずっと寝てるネズミ』って設定だったのかな。だとしたら結構ひどくない!?」

「まあセリフも一言も無いしな……いや待てよ」

「なに?」

「オマエが見た夢の中で主人公は眠りネズミだったんだよな。そう考えると現実で脇役やるより待遇良かったんじゃないか?」

「……そうかも。じゃあ良かったってことで」

おしまい。




夢見てたままのほうが良かったかもなー。

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