戸惑いと苛立ち
「ということで、お前たちは明日から城に戻りなさい」
兄の言葉に双子は茫然とした。
「……何故!?」
「お兄様、『ということ』の前にあるはずの説明を省かないで下さい」
「しかも今日のお勤めが終わったこの時間に言うなんておかしいわ!」
「理由がまったく分かりません」
「さっきからお嬢様はお加減が悪いようだし、このまま下がるなんて」
「その姫巫女のご希望なんだから仕方ないだろう」
「そんな!」
「なにか、不手際でも?」
「そうじゃないよ。二人はよくやってくれた。姫巫女もそうおっしゃっていたよ」
「どうして…お嬢様…っ」
「リュカ、泣くのはまだ早いわ。お兄様に色々問い詰めなくては」
「やれやれ…シャルは手厳しいな。話は城に戻ってからだ」
二人の目に抗うような光が宿ってもロジェノは動じなかった。
「もう一度だけ、お会いできる?」
「今は駄目だ」
「後ならいいの?」
「それは城で話そう。聞きたくないか?」
「ずるいわ!!」
「裏方を仕切っているのは私だよ。姫巫女に誰を付けて外そうと、城で働く以上は逆らえない。そうだね?」
「う…」
「だけど、主として誰を選ぶかは」
「シャール」
間延びした、それでいて冷たい声に二人が身を竦ませて寄り添う。
「ダメだよ、宿木は主に選べない」
「……戻ります」
「シャルっ!」
「明らかに不自然だわ。納得がいくまで、時間がかかってもいいからお兄様の口を完全に割らせてみせる。リュカ、手伝ってくれる?」
「―――――― もちろんよっ!!」
やれやれ、と肩をすくめながら二人を外へ促すと、チラリと目線を天井に向ける。
「どうやら、貴女が思っているよりもやっかいなようですよ?」
◆・◆・◆・◆
あの日を境に、サクラは一日を部屋で過ごすか、書庫をあさるか、歌うかして過ごしていた。
朝起きる頃には、部屋の外に誰かが食事を置いていってくれる。
そうして、食事をしたらもう一つの日課。
カイエの部屋で手を繋いで夢を見る。
このところ一緒に眠っている時間が長くなっているような気がする。
「…!」
こちらに向かって階段を上がって来る足音に、さっとベッドの脇に身を隠す。
アルスランだ。
部屋に入るなり顔をしかめて、不機嫌そうなオーラを惜しむことなく振りまいている。
―――――― つかつかつか、がしっ!
「きゃぁぁっ!?」
「コソコソされるのが一番嫌いだ。出てこい」
「い、いたい!はなして!!」
頭を上から掴まれて、さすがに立ち上がる。
「2、3度は見逃してやったが、どうにも腹が立つ」
「うう…」
「双子も勝手に解雇して、どういうつもりだ?ロジェノに何を吹き込んだか知らんが、主人の俺にさえ頑として口を割らん。不愉快極まりない」
ただ一言、『手負いの獣と思っていただければ』と笑うだけだから、なおさら意味が分からない。
ほんの少しサクラがほっとした顔つきになるのを見て、アルスランの顔つきが凶悪になった。
「ふ・ゆ・か・い・だ!」
「いたーっ!…暴力、だめっ」
「ふん」
(手負いだと?)
そんなの役目柄よく目にしているからすぐ想像できる。
差し伸べられた他人の手に生かされながら、自分は独りだと意識して、
―――――― 優しく撫でられる事に不安を感じている身をひねる獣。
アルスランは突然手を離して姉の方へ向き直る。
「さっさと行け」
「…う?」
「構われるのが嫌なんだろう。別に隠れなくても良いことだ」
さささ、と戸口まで移動する衣擦れの音がする。
「……ありがと」
「……っ」
なんだろう、
今もの凄く、
イラッときた。
だいたい自分が何をしたというのだ。
思えば最初から相性が悪かったような気がするが、非道なことだけはしてないはずだ。
(このイライラは―――― ロジェノだ。あいつにぶつける。絶対ぶつけてやる)




