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宿木の夢


基本、サクラの行動は制限されていない。

宿木は半分神格化されており、軟禁したりすることは滅多にないと説明されていた。

ただし、寝泊まりは宿木が眠る塔で行うこととなっている。

後は心穏やかに、その時が来るのを待つ。


サクラは何故自分がこの世界を知ろうとしているのか、自分の気持ちに上手く理由をつけることが出来ない。

自分の要望を伝えることが出来ないと不便なため言葉を勉強してはいるが、その他は宿木として眠ってしまう自分には必要のない情報にも思える。

シャルが言う好奇心と言うのも合わなくはないがどちらかと言えば―――

(確認はしたい)

弱いものを虐げたり、略奪を赦すような国の役に立ちたいとは思わない。

幸いな事にこの国は多少の犯罪や軋轢はあるものの、理不尽な行いが横行する国ではないようだ。

それなら宿木という役目について嫌だという感情も起こらない。

(馴染もうとしているのかもしれない)

そうする事で、より自然に引き継ぎを行うことができるのでは、とどこかで思う自分がいる。



さて、「その時」がいつなのかは分からないが、勉強したり散歩したりと過ごす1日の予定の中には、必ず宿木への面会が含まれている。

面会と言っても一方的にに部屋を訪ねるものだが、その際に眠る宿木の手に触れるのが決まりとなっていた。


眠り姫の名前はカイエ。美しい緑黒の髪は、アルスラン共々父譲りだという。

白い肌の青白さが気になって、サクラは樹に触らないように気をつけながら手にそっと触れてみる。

少し低い体温。


ここの所何度か体験した地震は、宿木の交代の時期に起きるものだとバスダックが話してくれた。

次の宿木が見つかっているから、この程度で済んでいるという。

これでもし、宿木の命が尽きても次が見つからなかった場合には長雨、旱魃、それに連鎖した飢饉など

急変する天災に見舞われると伝えられているらしい。


塔で暮らしていると、姉を訪ねるアルスランの姿をよく見かける。

その頻度や出会った時に見せた安堵の溜息からすると、身内をこのままなくすことは彼にとって受け入れ難い事なのかもしれない。

(例えば、前倒しに引き継いで、この人の目を覚まさせることは出来ないのかな?)

そう質問することはまだ難しかった。

(貴女の命を枯らさないようにするには、どうしたらいい?)

ふと、手の下の肌が暖かくなった気がした。体温が移ったのだろうか。

こんな風に、命が伝わればいいのに。

祈るように目を閉じて手のひらに集中する。

指先、手のひら、触れている部分が同じ温度になって融けるような気がしたとき、引きずられる感じがして目を開けると、


空の中にいた。


(―――――― 落ち…な、い?)


フワフワと漂うのは初めてだ。

いつかどこかで見た崖が遠くに見える。

この世界に来たとき、一瞬だけ見えた光景。

(あれは、「こっち」の世界を垣間見たのか)


宿木の夢の中で、子どもの笑い声がする。

よくよく下を見ると、黒髪の女の子と男の子がかけっこしているのが見えた。

うつろうように姿が揺らめいている。

男の子が転んだ。

女の子が慌てて戻ってきて、その子の顔を覗きこむ。

大きな琥珀色の目から、大粒の涙がこぼれ落ちて―――――― 

「起きろ!!」

「!」


肩を引っ張られて、身体が大きくはねた拍子に椅子から転げ落ちてしまう。

『いた、た』

「こんな所で何をしている!一瞬―――― なに?」

『なにって……あれ、うそ…!』

ずっと使っていなかったせいか少し掠れているが、声が出ている。

『えっ!?ほんとだどうしよう、うれしい』

アルスランを見ると、彼は思いのほか渋面だった。

「声が出たのはいいが何を言ってるのかさっぱり解らんぞ?」

『……ばか、いじわる、野蛮人』

「だから解らんといっているだろう。勉強したんじゃなかったのか?」

『発音がわかんないんだってば』

「一方的にしゃべるな。いつもの紙は」

『あ、そうだった』

耳だけ翻訳されるって、自分が言葉を使おうと思ったら本当に役に立たない。

「あんな所で何をしていたんだ」


『多分』『寝る』『していた』


「…阿呆」

『カイエ』『夢』、『小さい』『アルスラン』『カイエ』『見た』

正しい意味を掴みかねてアルスランは眉をひそめた。

『アルスラン』『泣く』

「泣いてはいない」

(夢では泣いてたんだけどな)

下で、リュカが自分を探している声が聞こえた。

「リュカ、リュカ」

呼びながら下りていくとリュカは飛び上がった。

「お嬢様っ!喋れるようになったんですか!?」

やったー!と子どもみたいに飛び跳ねて喜ぶ姿のむこうでシャルが部屋から顔を出した。

「今言ったこと、本当?」

「シャル」

「まぁ…お嬢様、本当に良かった。今、喉に良い飲み物をお持ちしますので、あまり喋らないでお待ちくださいね」

「あっあたしも行く!」

階段では二人の騒々しさに、アルスランが眉根を寄せていた。



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