暁の宴
さて、花祭りも差し迫ったある日。
カイエの部屋で、サツキが器用に二本足で立ち踊りをしていた。
しかも酔っ払っているみたいに足元がおぼつかない。
「それでね、神事に使うこの曲には本当は伴奏があって」
カイエが小さめのハープのような楽器、キャステンを爪弾く。
「こうで…こうでしょ?それから…」
「すごく綺麗!どうして神事の時は伴奏しないのですか?」
「今の私には拙くてまだ無理よ。それに、この楽器は温度や湿度に敏感で実際弾く時にどんな状態になるか予測ができないの。それでは困るでしょう?」
「むう、確かに…」
「それにこの楽器は音が小さいから、お父様の音に負けてしまうわ」
フンフン、と鼻歌で主旋律を歌うサクラに合わせてカイエが弦を鳴らす。
「そうだわ、二つに分けたらどうかしら。アルの笛と、あなたの声で」
面白そう、とサクラが顔を輝かせる。
「でも、アルは忙しいのよねぇ」
「ところがですね」
「わっ!」
「あら、丁度いいところに」
扉にもたれるようにアルスランが立っていた。
「ここを通るたびにサツキが奇妙な踊りを踊っていて怖いので、止めてほしいと知らせが」
『つ、疲れた…』
サツキがパタリと横倒しに倒れた。
「疲れたの?」
『誰のせいだと思ってるのさ…君たちがホロホロと「暁の宴」の曲を弾くから身体が勝手に楽しく動いちゃうんだよ』
「踊りたくて踊ってるのかと思ってた」
『しかも微妙に力んだり、手を抜くだろう?調子狂っちゃってさぁ』
「暁の宴?」
『お前たちが神事と呼ぶ儀式の時に奏でる曲だ。我らはあれが好きでね』
「そうそう、それでね」と姉が持ちかけた提案に、アルスランも興味を持ったようだ。
アルスランも神事の曲は練習していた。いつかは自分が吹くときも来るだろうと、父親から教え込まれているのである。
カイエとアルスランが一曲奏でてみせる。
抑揚が多い主旋に絡み合うような和音が美しい。
『うむぅ、久々の合奏~』
ウニャウニャと夢見心地で、サツキが床の上で魚の開きのような状態で四肢を投げだしている。
本当に酔っ払っているのか、身体の境界線が曖昧になりかけていた。
「だ、大丈夫?」
『実に甘美……もっと真剣に弾いておくれ…さすれば願いの一つや二つ、叶えてやろうもの』
3人は顔を見合わせた。
「……この手があったか」




