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三人目


ゆらゆら、夢を見る。


ふわふわ、外からの言葉が光に変わり、降りてくる。


『そろそろ人見知りを卒業したらどうだい?この世も悪くはないだろう』

――― 悪くない。

『名前を呼ばれると嬉しいだろう』

――― くすぐったい。

『お前はもう、ここに来る前の夢を見ないだろう』

――― いいのかな?

『いいのさ』



ゆらゆらと夢見るのは、ファルソルドの事。

フェスティという名の桜に似た薄緑色の花の樹。

時折前触れもなく飛び込んでくるのは、神獣として降り立ったクウォンジたちの目に映る景色。

森と民の様子。

こちらではまだ見た事のない、国を囲う大海原。

宿木の塔に出入りする人たち。


『ほら、また誰かが呼んでる』

『お前が付けた私たちの名前も、ああして呼ばれるのだろうね』

――― 悪くない?

『ああ、悪くない』


ひそやかに笑う声が夢の中をこだまする。

『そろそろ時が満ちるようだ。お前も、そろそろ自分がどうしたいのか分かってきたのではないか?』

――― ……

『なんと!我らに秘密!』

『口惜しいが先に行くぞ。どのような答えでも見届ける故、待っておるぞ』

――― ありがとう、コハル。



◆・◆・◆・◆



―――――― 我が娘の望みにより 揺り籠から目覚めん

           娘の眠りは今暫く続き そして終わりを告げるだろう



「待て―――― !!!」

アルスランご乱心。


「ちょっ、うわわ、待ってください!仮にも神様に向かってっ、うわぁっ!?」

アルスランの愛馬の動きについていけず、供についていた者たちが次々と脱落し地上に降りてくる。

彼が追うのは、ずっと先を行く大蛇だ。

現れては消え、そうかと思うと予想もしないところへ移動し、まるで遊んでいるかのようだ。

「うう~ん、勝ち目はないと思うんだけどなぁ」

最初から追う気のないロジェノは腰に手を当てて見物に回っている。

ここまで来ると、市民の間でも神々が姿を顕し人前に姿を見せたという話が行き渡っていた。


「あのアルスラン様、醜態だと思うかい?」

「…いえ、お気持ちは分かります。あんな風に言われては、一体何がどんな風に終わるのか気になりますからね」

「君も気になる?」

「あの、ロジェノ殿」

「うん?」

「アルスラン様が視界から消えました」

「おっとぉ、じゃぁ君らは別行動で後の任務を続行」

「えっ、いいんですか放っておいて!」

「万が一クウォンジを捕まえられたとして、話が出来ても不機嫌で帰ってくるはずだからね~。一番怖いタイミングでとばっちりを食う前に出発しよう。大丈夫、そのうち追いついてくるから」

慣れた様子で馬の歩を進めるロジェノ。

後ろをついてくる者たちは、アルスランのことは敢えて口にせず話題はもっぱら姫巫女のほうだ。

最近では城下以外でもあちこちで話しの種になっている。


あと一人の神が目覚めたら、一体姫巫女はどうなるのか。

本当に宿木は必要ないのか。

すべてはその日にならねばハッキリしないだろう。

国中が密やかにさざめき立っていた。



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