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終わりゆく世界

未来の話

作者: ナイアル

 きりきりと

 きりきりと

 僕は彼女のねじを巻く


 滑らかなシルクのベッドの中、今朝も彼女は目を覚ます。

 彼女はおじいちゃんの名前で僕を呼ぶ。

 僕は優しく微笑んで

 彼女に挨拶を返す

 

 彼女が楽しそうに語るのは

 遠い日の思い出。

「ねえ湖まで散歩に行きましょうよ」

「今日は天気が悪いから。明日晴れたら行こうね」

「きっとよ、忘れないでね」


 明日になれば

 彼女は今日の約束を

 きっと忘れてしまってる

 毎日毎日繰り返す

 同じ会話

 同じ約束

 「明日」はやってこない


 でも明日もまた僕は

 きりきりと

 きりきりと

 僕は彼女のねじを巻く

 

・・・


 目を覚まして

 期待に満ちたその顔に

 私はそっと挨拶をする

 

 わずかに曇ったその瞳に

 私は気づいてしまう

 彼が「彼」ではないことを

 この残酷なやりとりが

 何度も繰り返されていることを


 私の記憶はいつも

 「彼」と最後にお別れをかわした夜のまま

「ねえ湖まで散歩に行きましょうよ」

「今日は天気が悪いから。明日晴れたら行こうね」

「きっとよ、忘れないでね」

 

 明日になれば

 私は今日の約束を

 きっと忘れてしまっている

 毎日毎日繰り返す

 同じ会話

 同じ約束

 「明日」はやってこない

 

 一日の終わり

 ゼンマイが切れるその前に

 お別れの言葉を口にする

 さようなら、あなた

 さようなら、今日の私

 


・・・

 

 沢山の戦争があって

 沢山の物が壊された

 空はいつも曇っていて

 彼は青空を見たことがない

 彼女の行きたがっている湖は

 ずっと昔に干上がってしまった


 毎日毎日繰り返す

 同じ会話

 同じ約束

 「明日」はやってこない




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― 新着の感想 ―
[一言] かわいた描写でつづられる、切ないストーリーで、小川洋子さんの『博士の愛した数式』を彷彿とさせられました。 さきに挙げた作品と同じくらい、またはそれ以上に、やるせなさが伝わってきました。
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