ラブレターを読みました。
家に帰ってそのまま私の部屋に直行する。鞄の中から、りこからもらった手紙を手早く取り出して、そのままベッドにダイブした。
緊張しているな。と自分でも思う。でも好きな子からの手紙だ。緊張しないほうがおかしい。そう自分に言い聞かせ、一度手紙を私の胸に当て、大きく深呼吸する。そして丁寧に手紙の封を切った。
『あやねちゃんへ
私があやねちゃんを好きになったのは、私がこの学校に転校してしばらくたってからでした。私は人見知りが激しく引っ込み思案で前の学校ではよく女子に無視されていました。いつもオドオドしている私にイライラしたんだと思います。
家族の都合で引っ越しする事になった時、ホッとしたけど今度はちゃんとできるかなって不安で仕方なかった。
最初は皆話しかけてくれたけど、私はやっぱり上手に言葉を返せなかった。話しかけてくれる人が少なくなっても、あやねちゃんだけはいつも私に話しかけてきて、面白いことをしてくれたよね?
久しぶりに教室で声をあげて笑う事ができた時、本当に嬉しかった。あやねちゃんのおかげで、段々私も皆とちゃんと話ができるようになりました。ありがとう』
そこまで一気に見て私は大きく息を吐いた。まさかりこにこんな過去があったとは思いもよらなかった。
確かに最初のりこは傷ついた小動物みたいにビクビクしていた時があった。そんな姿を見て、私は絶対にこの子を笑わせてやるって逆に火がついた事を思い出した。
りこを笑わせるために私の恥ずかしい過去を面白おかしく話したり、今思うとかなり恥ずかしい事もした。でも段々りこの表情が柔らかくなっていくのがわかって、私も嬉しかった。
ある時休み時間に、私が教科書の著者近影に、今流行りのお笑い芸人に似せた落書きを見せた事がある。その時りこがブッと吹きだして自分の口元に手を押さえた。私はチャンスと思い、すかさずその芸人のモノマネをして見せた。次の瞬間
「あっははははは!! はぁはぁ……ふふっはははははは!」
りこが教室に響きわたるくらいの大きな笑い声をあげた。皆驚いてこっちを見てたけど、私は初めて見たりこの満面の笑顔をずっと見ていた。今思うと私はここで初めて、りこを可愛いって思ったのかも知れない。
『私はあやねちゃんともっと仲良くなりたいと思いました。でもあやねちゃんは皆の人気者で他の子達と楽しそうに話してるのを見て……寂しく感じました。
そしてあやねちゃんを独り占めしたいって気持ちが段々強くなりました。最初はおかしいって思ったの。相手は女の子だし、こんな気持ちは間違っているって。でもダメだった。あやねちゃんと一緒に歩くとドキドキするし、挨拶してくれるだけで幸せに感じて……そして』
『……あやねちゃんにさわりたいって思ったの。あやねちゃんの手で私をさわって欲しいって。
その気持ちを感じた瞬間体中が熱くなったのを感じた。こんなの初めてだった。あやねちゃんを誰にも渡したくない。私だけのものにしたい。……こんな気持ちを感じたら、もう友達のままではいられないって思った。
嫌われるかもしれないってすごく怖かった。でもあやねちゃんに、私の気持ちを知って欲しかった。だから告白したの。
ありがとう、あやねちゃん。私の気持ちを受け止めてくれて。本当に大好きだよ。』
手紙はそこで終わっていた。私は無言でベッドの横に置いてあった鞄から、自分のケータイを取り出して電話をかけた。相手はもちろん春川りこだ。
数回のコールで相手がでた。
「もっ……もしもし? あやねちゃん?」
私は大きく深呼吸した。そして
「惚れ直しちゃうでしょー! バカー!」
私が大声でそう言うと、りこは、キャッ!? と小さな悲鳴をあげた。
「あんな手紙見せられて私今すごいテンション上がってるんですけど! この胸の高鳴りどうしてくれるっ!」
「え、ほ、ほんとに? 気持ち悪くなかった?」
「気持ち悪いわけないし! むしろ私の今の顔の方が気持ち悪いし!」
実際今の私の顔はにやけすぎて人に見せられる状態ではない。りこは心底ホっとした感じで
「よかった~……手紙書き始めると、どんどん気持ちがあふれだして止まらなくて……引かれるかと思った」
「大丈夫! ……ねぇ、りこ。これからは一杯遊ぼうね」
「え?」
「過去の事なんて忘れてさ、りこをイジメてた奴らが悔しがるくらい、その分私と一杯楽しい思い出を作ろうね。遊園地や水族館、ショッピングに行ったりしてさ。たくさんデートをしよう? ね?」
しばらく返事がなかった。そして絞り出すような声でりこは言った。
「うん……うん……ありがとうっ! 絶対楽しく遊ぼうね!」
泣きだしそうになるのを我慢しているんだろう。声が震えていた。
私は絶対この子を守り抜こう。この可愛い私の恋人を。そして幸せな思い出をたくさん作って、この子の嫌な過去を上書きしよう。
そう心に誓った。