美味しいお菓子をありがとう
時間が経つのは早いもので、今3限目の体育がが終わったところだ。りこと二人で更衣室から教室までの廊下を歩いている。
「ごめんねあやねちゃん……私着替えるの遅くて。皆みたいに先に教室帰っててもよかったんだよ?」
「何言ってんのよ~もとはと言えば体育の先生が、りこにコーンとかの後片付けを頼んだからでしょ? 手伝いますって」
そう言ったら、りこは華の様な笑顔を見せてくれた。そんな顔を見せてくれるなら充分お釣りがでると思う。
教室に戻ってくると、カナデや同じグループのカヨちゃんが私の机の周りでたむろっていた。
「お~帰ってくるの遅かったね。お疲れ様~」
「ただいま~ってカナデあんた勝手に人の机に座るなよ」
カナデが座っていた私の席は、窓側で日当たりがいい。夏は最悪だけど、冬はぽかぽかして暖かい最高の席だ。グズるカナデをイスから引きずりおろし、私がイスに座った時、
~ギュルルルルル!
私のお腹の音が盛大に鳴り響いた。
一拍おいて、カナデ達が爆笑した。
「あ、あんたの体ってほんとバカ正直だよね~!!」
「うるさいうるさいっ! 体が動かしたらお腹が空くのは自然の摂理! 私は間違ってないもん!」
チラっと、横目でりこを見るとクスクスと可笑しそうに笑っている。
う~かっこ悪い……でもりこが笑ってるならまぁいいか。
何かお腹に入れようと、鞄の中を漁ったらマカロンの袋が顔を出した。私が慌ててマカロンの袋を奥に直そうとすると、カナデが意外そうに私に言った。
「珍しいね~あんたがそんな可愛いお菓子持ってるなんて……それ食べれば? そして私達にもちょっとちょうだい」
「やだよ! これは私一人が食べるの!」
「うわ、ケチ! 私はあんたにお菓子とか色々あげてるのに! 普段はいつもくれるじゃん!」
そう、これが普通のお菓子だったら、文句は言わない。いつも快く皆に分け与えている。でもこれは、りこが手作りしてきたものだ。少しでもあげたくなかった。あとでこっそり食べようと思ったのに、自分の迂闊さを呪いたくなった。
「あの、よかったら水嶋さん達もどうぞ……」
りこはそう言って、自分の鞄の中からマカロンの入った袋を取り出した。カナデ達は驚いた様子で言った。
「えっ!? いいの? ……っていうかこれりこちゃんの手作り?」
りこは恥ずかしそうに頷いた。カナデ達はそれを見て、パティシエみたいとはしゃいでいる。
……なんだ、私だけにくれたんじゃなかったのか。
私はちょっと複雑な気持ちになって、それを振り払うようにマカロンを口の中に入れた。
サクサクサク……
うっ……う ま す ぎ る !!
何これ何これマジおいしいんですけど!? ってゆーか今更だけどマカロン作れるって凄い! りこの女子力ヤバイ!
私はまるで野獣のように、マカロンを次々と食べていく。カナデはそんな私を見て、可哀想なものを見るような目で自分のマカロンをひとつ食べた。
「ん~美味しいよ! りこちゃんさすがだね~。これ残りは放課後大事に食べるね?」
「あ、私も! 私も美味しいって思ってるからね!」
私も慌ててりこに感想を伝えたら、見たらわかるっつーの! とカナデ達につっこまれた。その様子を、りこは嬉しそうに微笑んでいた。
放課後の帰り道、私とりこは駅までの道をいっしょに歩いている。
「いや~今日はマカロンありがとうね。本当においしかったよ」
「ううん、私も食べてくれてありがとう……また何か作るね?」
その返事に私はやったーと小さくガッツポーズをした。
あ、でもまたカナデ達の分も作ってくるのかな……?今日のマカロンだって、りこは優しいから皆の分まで作ってきてくれたのに……。なんだか胸がもやもやする。
私が少し俯きながら歩いていると、りこは心配そうに私の顔を見ている。私が慌てて顔を上げようとしたら
「……今度お菓子作る時はあやねちゃんの分だけ作ってくるね。もうひとつのマカロンは本当はあやねちゃんと一緒に食べる分だったの……」
そう言って私の手を握ってきた。
私はドキッとして、りこの方を振り向いた。りこは自分のした事に気付いたのか、慌てて手を離そうとした。その手を今度は私がギュっと握り返した。
私もりこも顔が赤い。繋がっている手からお互いの熱が伝わってくる。そのまま少しの間、私とりこは見つめ合っていたけど、りこがクスクスと笑い始め、私もなんだか可笑しくなって、そのまま笑いながら私達は手を繋いで帰った。