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待ち望んだ人

最初はあやね視点 中盤兄視点 後半りこ視点と変わります。

 りこがカナデに誘拐されてから丸一日が過ぎようとしていた。夜の間は私と片岡が情報を集め、お兄ちゃん達が捜索に走り回ってくれた。日が昇ってからは女性陣も捜索に加わり、現在工事を行われている周辺をくまなく探したが、二人の姿は見つからない。

 これ以上闇雲に探してもらちがあかない。私達は一旦全員私の自宅に戻り、情報を交換する事にした。


「これだけ探しても見つからないなんて……早くしないと後数時間で日没になっちゃうよ!」

「わかってるって片岡! ……今一番辛いのはあやねさんなんだから、そういう不安にさせるような事言うなよ」

「……ごめん。みんな気を使ってくれて……。大丈夫、まだあと少しあるし」


 嘘だ。本当は今にも叫びだしそうになる衝動を必死に耐えている。工事が行われている場所は全部探した。なのになぜ見つからない!?


 その時お兄ちゃんがふと呟いた。

「……発想を変えてみよう。工事している建物にりこちゃんがいるんじゃない。工事している建物の周辺にいるってのはどうだ?」


「ですが、工事している現場周辺の建物も探しましたよ。工事しているなら何かしら機材等が置いてあるはずです。それを目安に……。――――っ!」


 ロバートさんが話している途中で目を見開いた。そして急いでパソコンを開き、検索を始めた。


「ロバートさん! 何かわかったんですか!?」


 私はすがる思いでロバートさんの側に行き、パソコンの画面を食い入るように見つめる。ロバートさんはタイプする指を休めずに、私達に話し始めた。


「私達は現在工事している建物、及び周辺の建物を探していました。それに工事機材が置いてある場所も……! それでも見つからないという事は、工事しているのは建物じゃないという事! 工事機材を置けるスペースがないという事! 深夜にしか工事ができないという事! つまり……!」


 その言葉を聞いて私は頭に衝撃が走った。今までいくら考えても出なかった答えがでた。


「もしかして……車線道路工事!?」


「そうです! 車線道路工事は規模が大きい。機材の音も大きくなるでしょう。その音を聞いてりこは自分がいる建物が工事していると勘違いしたのかもしれません……! 出ました! 現在道路工事をしている場所、及び周辺の使われていない建物です!」


「っ――――!!!」


 私はロバートさんが出してくれたデータを見て言葉を失った。現在道路工事している場所で、候補に挙がっている建物は三つあった。

 でも私にはりこがいる場所が一目でわかった。カナデならここを選ぶだろうという確信があった。


 次の瞬間私は家を飛び出した。後ろから皆が引き止める声が聞こえた。でも事情を話している余裕なんてなかった。今からそこにつくまでにかかる時間は日没ギリギリだったから。


 お願い! お願い! どうか間に合って! りこ……!無事でいて!!!






「くそ! あやねケータイを置いていきやがった! どこに行ったんだよ……!?」

 

 俺は危険な目に会うかもしれないのに、一人で家を出て行った妹に悪態をついた。

 そんな俺を諌めるように、ロバートさんが俺の肩に手を置いた。

 

「お兄さん、私達も手分けして候補の場所に行きましょう。途中であやねさんに合流できるかもしれません」


「そうですよ……あやねさん、今余裕ないんですよ……早く私達も探しに行きましょう! 芝崎、私と一緒に探そう!」


「ああ、あやねさんの為にも、早くりこさんを助けださないとな……!」


 芝崎さんも片岡さんも、妹の為にこんなに必死になってくれている。それが兄として非常にありがたかった。


 わかってるのか……あやね。お前達の為に、こんなにも心配してくれる人達がいるんだぞ。頼むから一人で突っ走るような真似はしてくれるなよ……頼むから無事でいてくれよ!


「プルルルルルルルルルル!」

「っ――!……はい、藤川です」

 突然、家の電話が鳴った。最近はケータイがあるので、家の電話は滅多にならないのに。

 こんな時に誰だと、俺は多少苛つきながら電話を取った。


 でもそんな苛つきは相手が誰かわかった途端吹き飛んだ。それ程意外な人物、いや、この状況を明らかに変えてくれる人物だったからだ。


「あ、あなたは……―――っ!」



 





 もうすぐ陽が沈む……。その光景を私と水嶋さんは屋上の手すりの近くで見ていた。

 

 夕方になり、私が閉じ込められていた部屋に水嶋さんが入ってきた。そして足を縛っていた縄をナイフで切り、私を立ち上がらせ、そのまま屋上に連れてきた。

 屋上につくまでの道のりで、私はどこに閉じ込められていたか理解した。そこは私達三人にとって、まさに運命を変えた場所だった。

 私は間違った情報をあやねちゃんに伝えてしまったのかもしれない。そんな不安がよぎったが、絶対にあやねちゃんが助けに来てくれる。そう信じ、通路を歩いてきた。


「ねぇ……あんたはあやねが来るって本当にそう信じてるの?」


 今まで黙って空を見つめていた水嶋さんが口を開いた。水嶋さんの指は私が渡したブレスレットをずっと撫でている。


「……信じてるよ。絶対来る。もしこれが逆の立場だったら、私はどんな事をしても、助けに行くから……私はあやねちゃんを愛しているから」

「……は、おめでたいわね。あんた……。今まさに陽が沈みかけてるでしょーが。それでもそんなふうに言えるなんて本当にバカね……」


 学生の頃の水嶋さんだったら、私のこんな返答に烈火のごとく怒ったに違いない。しかし今の水嶋さんは力なく笑うだけだ。その儚さに、思わず胸が締め付けられた。


 水嶋さん……もしかしたら、今は学生の時とは違った気持ちになっているのかもしれない。パワーストーンの力だけじゃない。もともと何か特別な事があったのかも……。気持ちを変化させる重要な何かが……。


 私が考え込んでいると、水嶋さんは私の方向に顔を向けた。私は何かされるのかと一瞬身構えたが、水嶋さんは純粋な、それでいて悲しみを湛えた瞳で、私に問いかけた。


「ねぇ、あんたさぁ……仕事柄宝石には詳しいでしょう? 質問だけど、一度汚れた宝石って、もう一度きれいになれるのかな……?」


「水嶋さん……」


 何かの比喩だろうか? しかし私は水嶋さんの瞳を見つめながら、これは重要な会話だと感じた。それこそ、彼女の今後の行動を決定してしまうような、そんな言葉だった。


 私が質問の答えを返そうとしたその時だった。


「りこー!! りこー!! どこにいるの!?」


 あやねちゃんの声が聞こえた。聞きたくて聞きたくて堪らなかった愛しい声。


 私は急いで声のした方向、手すりの下をのぞき込んだ。そこには建物の敷地内に入ってきたあやねちゃんの姿があった。


「あやねちゃーーーーん!!」

「っ! りこぉー! 無事なの!? 今すぐそっちに行くから!」


 あやねちゃんと瞳が合った瞬間、抑えきれない喜びが溢れ出してしてきた。嬉しい、嬉しい、きっと助けに来てくれると信じてた。

 

 あやねちゃんは私達がいる屋上に通じる通路に消えていった。もうすぐここにくるだろう。

 

 その時、後ろからどす黒い視線を感じた。


「っ!」


 思わず後ろを振り返ると、私のすぐ後ろに水嶋さんが立っていた。その表情はさっきまでの儚さは消え、怒りとも歓喜とも言える狂気に満ちた表情になっていた。

 そして次の瞬間水嶋さんは、片手で私の腕を捻りあげ、ポケットからナイフを取り出し、私の喉元に当てた。


「うっ……!」

「あっははははははははははは!! 来た! あやねが来た! こんな土壇場で!? すごい、すごいわ。バカみたい! あはははははははは!」


 狂ったように笑い出した彼女は、思いっきり笑った後、私に微笑みながらこう言った。


「よかったわね~あやねが来て。でもだめね。だってもう陽は沈んじゃったもん」

「そんな……!」


 私が太陽があった場所に目を向けると、確かに陽は沈んでしまっていた。私が青ざめながら言葉を失っていると、水嶋さんはクスリと笑った。


「ふふふ……まぁどっちに転んでも、私が勝つようになっていたんだけどね。さぁーて、あんたをどうしようかな……?」


 そう水嶋さんが言った時、屋上の扉が大きな音を立てて開いた。あやねちゃんは全速力で走ってきたのだろう。空気を取り込むように大きく喘ぎながら、水嶋さんを睨み付けた。


「はぁ、はぁ、っカナデぇ……! あんた……!!」


 水嶋さんはあやねちゃんの視線を受けて、華が咲いたような、恍惚とした顔で微笑んだ。それはまるで、王子様を待ち続けたお姫様のようだった。


「久しぶり、あやね。元気だった?」



 


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