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番外編 カナデ3

カナデ視点です。

 次の休みの日に、私はあやねの家に遊びに行った。玄関のチャイムを押すと、すぐに玄関の扉があいた。


「カナデ~いらっしゃい! 待ってたよ」


「今日は誘ってくれてありがとう。はいこれ手土産のショコラケーキ」


 笑顔で出迎えてくれたあやねに、私はあやねの好きなお菓子を渡した。あやねは子犬のように顔を輝かせながら、嬉しそうにお礼を言ってくれた。私はあやねのそんな顔を見るのが大好きだった。


 二人であやねの部屋に行くと、あやねのベッドには多くの少女漫画が散らばっていた。その量の多さに少し驚いていると、あやねは照れたように笑った。


「いや~ごめんね、散らかってて……。実は従妹が貸してくれたんだ。もうこの漫画がすっごく面白くてさ~! カナデと一緒に見ようと思ってたんだ」


「へ~どんな話なの?」


「女の子の友情物語ってところかな。ささ、どうぞどうぞ」


 あやねは早く読んで欲しいと言わんばかりに、私に漫画の一巻を差し出してきた。私は苦笑しながら漫画を受け取り、ベッドの上に座った。あやねも途中の巻を手に取り、ベッドに横になりながら、漫画を読み始めた。





 どれくらい時間がたっただろうか。私は読み終わった本を横に置いて、時計を見た。大分時間が経ってしまっていて、もう夕方だ。窓から差し込む夕焼けが眩しい。

 あやねから勧められた漫画はとても面白かった。女の子同士の友情と青春が描かれていて、共感する場面がたくさんあり、つい時間を忘れてしまった。


 あやねがいる方に目を向けると、あやねはベッドの上ですやすやと眠っていた。漫画を手に挟んだまま眠るあやねに、私は微笑ましく思いながら、シーツをかけようとあやねのそばに寄った。


 その時、私は夕焼けに照らされたあやねの表情を見た。

 

 長いまつげ、形のいい唇。規則的な寝息をたてて、安心したように眠る姿。


 きれいなきれいな私の大事な親友。



 永遠に感じられた時間の中で、私は無意識にあやねの唇に吸い寄せられた。


 気が付くと、私はあやねにキスをしていた。



「――――――――っっ!!?」



 次の瞬間、私ははじかれたように、あやねから離れた。自分の唇を触りながら、私は自分のした行動に愕然とした。


 私、今あやねに何をした!?


「ん~……私寝ちゃってた? あれ、どうしたのカナデ。顔色が悪いよ……?」


 あやねは眠たそうに、ゆっくりと体を起こした。私と目が合うと、心配そうな表情になり、私に手を伸ばそうとしてきた。


「だ、大丈夫! ごめん、もう遅いし私帰るね! 本当にごめん!」


 あやねの手が私に触れる前に、私はそう言ってあやねの部屋から逃げ出した。






 家に帰り、自分の部屋に逃げ込んだ。走ってきたから息が苦しい。ぜぇぜぇと荒い息を吐きながら、私は自分の腕を壁に叩き付けた。


「はぁはぁ……! ちくしょう! 私さっきあやねに何をした!? 汚い汚い汚い汚い汚いっ!!」


 私は自分の近くにある物を手当たり次第に、床に叩き付けた。目から涙が零れ落ち、叫び声をあげながら、私は自分に絶望した。


「うぅうぅうぅ……! 嫌だ嫌だ私はレズじゃない! あんな女みたいには絶対にならない! なりたくないよぉ……! うああああああっ!」


 母親みたいになりたくない。子供を捨てるようなあんな女と。けれどあやねにキスをしてしまった。

 

 私の体の中にあの女の血が混じっているからかなぁ?


 私は虚ろな目で、カッターを探し始めた。一刻も早くこの体から血を抜かなければ。この汚い血を出さなければ。



 机の引き出しにカッターがあった。私はチキチキとカッターの刃を出し、自分の腕に突き刺そうとした瞬間、あやねの部屋で見た漫画の内容を思い出した。


 主人公とその友達は親友同士だった。主人公は男の子と仲良くなるが、しかし親友に対する気持ちには及ばない。主人公は自分が親友を恋人として好きなのか悩んでいた。そこで自分の気持ちを親友に打ち明けた。親友は笑ってこう言った。


 私も主人公の事が大好きよ。キスだってできる。でも女の子は親友だって思える子にはそれぐらい誰でもできると思う。だから心配する事はないわ。


 それを聞いた主人公は安心して男の子と付き合った。けれど気持ちの上では親友のほうをずっと大切にしてきた。やがて主人公と親友はそれぞれ男の人と結婚したが、二人の友情はいつまでも変わらず、お互いの夫が死んだあとは、二人で仲良く暮らしたという話だ。



「そうだよ……。こんな話があるんだもん。私はレズじゃない! あんな女とは違う!」


 それは私にもたらされた一筋の光だった。


 私もあやねもこの話の主人公達と同じになろう。いつか男の人と結婚しても、私はあやねの事を想うし、あやねだって私の事を想ってくれるはずだ。


 だって私たちは親友なんだから。あやねは私をかばってくれたんだから。


 そしてお互いの夫が死んだら、私たちは一緒に暮らすんだ。ずっとずっと二人で幸せに生きていくんだ。


「その時が楽しみだなぁ~……はは、あははは。あはははははははははははははははははっ!」

 

 涙で顔がぐしゃぐしゃになりながら、私は笑った。二人の幸せな未来を想像しながら、私はいつまでも笑い続けた――――。






 あれから何年たっただろう。私とあやねは高校生になった。私とあやねは親友同士、楽しく学校生活を送っていた。

 

 あやねは可愛いし、性格もいいから、あやねの事を好きになる男は結構いた。私はあやねに彼氏はまだ早いと思っていたから、その男たちを適当に誘惑して、私の方を好きになるように仕向けていた。

 

 馬鹿な男たちはあっさり引っかかり、私の方に鞍替えしたが、もちろんその後はボロ雑巾みたいに捨ててやった。

 

 たまにあやねの事を好きになる女もいた。男以上に許せなかった。クラスの女達を操作して、そいつを苛め抜いた。その馬鹿な女は不登校になった。その後の事は興味ないから知らない。


 最近転校生が入ってきた。春川りこという気の弱そうな女だ。あやねは優しいからそいつに積極的に話しかけ、いつの間にか二人は仲良くなっていた。


 最近その女のあやねを見る表情がおかしい。幸せそうな顔をしている。あろうことかあやねも同じような表情をし始めた。


 私はそんな二人を見ながら大きくため息をついた。しょうがない、親友を正しく導くのも私の役目だ。




 さ て こ の 女 は ど う 破 滅 に 追 い や っ て や ろ う か ?



 


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