信じられない言葉
あの事があって以来、りこは学校を休み続けている。先生は風邪だと言っていたが、おそらく違うだろう。私はりこに連絡しようとケータイを手にするが、いつも何を話せばいいのかわからなくて、結局何もしないまま一週間が過ぎてしまった。
その間、私はカナデと登校していた。カナデは色々と話しかけてくれていたが、私はりこの事で頭がいっぱいだった。今日こそはりこに連絡をしよう……。そう思いながら学校の道を歩いた。
学校に着き、先生が教室に入ってきてホームルームが始まった。いつもの風景。そう思っていたが今日は違った。
「え~今日は大事なお知らせがあります。春川りこですが、実は昨日付けで彼女はアメリカの学校に転校してしまいました」
――――――――え……?
思いがけない言葉に、教室がざわめく。先生はみんなを黙らせるように出席簿で教卓を叩いた。
「はいはい静かに~。そんな訳だからみんなよろしくな~じゃあホームルーム終わるから、みんな次の授業の準備をしろ~」
そう言って、先生は教室を出て行ってしまった。私は先生が何を言ったのか理解できなくて、詳しく話を聞こうと先生のあとを追った。
「先生! りこが転校ってどういう事ですか!? しかもアメリカって……!!」
「あ~春川の親父さんがもともと短期でアメリカに単身赴任してたんだが、それが長期に変更になったらしいんだ。仕事内容もハードになって、それで家族でアメリカに暮らそうって事になったらしいな」
「そんな急に……」
「いや、前から転校の話はあったんだぞ?でも春川は一人暮らしになっても、この学校に残りたいって言っていたんだ。それが一週間ぐらい前に、急に自分も家族とアメリカに行くと言ってさ…。
転校の件は誰にも話さないでくれ。自分が転校した後に伝えてくれって先生も口止めされていたんだ。おそらくもう日本にはいないだろうな……」
そう言うと、先生はそのまま行ってしまった。私はマネキンのようにその場で立ちつくしてしまっている。
嘘だ。なんで。そんな重要な事。何も聞いていない……!!
私はポケットからケータイを取り出し、りこに電話をかけた。発信音を聞きながら私は祈った。
お願いっ早く出て! りこの口から直接説明して! そうじゃないと絶対に信じない!!
ガチャリと電話が繋がった音がした。
「っ!もしも―――」
「お か け に な っ た 電 話 番 号 は 現 在 使 わ れ て お り ま せ ん――」
気がつくと放課後で、私は自分の席に座っていた。
今日自分が何をしたのか覚えていない。頭の中はりこの事でいっぱいだった。電話は繋がらない。メールも受信者不明で戻ってきてしまった。もう何をしたらいいかわからなかった。
――――帰ろう……。
私は石のように重い体を引きずりながら、教室を出た。そのまま廊下を歩くと、空き教室からカナデとカヨちゃんの声が聞こえてきた。
何話しているんだろ……?
無意識のうちに教室の前で立ち止まり、耳を澄ました。
「はぁ~……やっとあの女いなくなったね。マジあいつ、あやねにべったりでウザかった」
「お疲れカナデ、うまくいってよかったよ。あやねちゃんもクラスメイトも騙されてくれたしね」
今まで聞いた事のないような、カナデの悪意に満ちた声。それに笑って答えるカヨちゃんの声。
私の事に気づいていない二人は話を進める。
「あいつすごくしぶとかったからね~色々したんだよ? あいつの電話番号やメアドとか、出会い系掲示板に貼り付けまくったり、直接脅したり、それでもあやねの傍にいるんだもん。いじめの件でクラスメイトの視線もきつかったのにさ。その度あやねがかばったのが更にムカついたな~。
カヨちゃんも協力してくれてありがとうね。いじめ工作ありがとうございました。さすがにバケツの水は冷たかったけど」
「ごめんごめん、でもあれが決定打になったし結果オーライじゃん?あいつが転校して、あやねちゃんショック受けてたけど、それはカナデが慰めていけばいいしね」
「うん、当たり前だよ。あやねの隣には私しかいないんだから……それをあの女が取りやがって…… 春 川 り こ が 」
りこの名前を聞いた瞬間、私は勢いよく教室の扉を開けた。二人はいきなり現れた私を見て、顔を青ざめて驚いた。
「っっっ!! あ、あやね……?」
私はカナデの前まで歩くと、カナデの胸ぐらをつかんで思い切り叫んだ。
「どういう事よカナデ!! りこに一体何したの!!」