許せない行動
カナデへの嫌がらせは一日だけでは終わらなかった。その日を境に、カナデの体操服が汚されたり、靴を隠されたり、教科書に酷い落書きをされたりと、その行動はどんどんエスカレートしていった。
カナデは何でもないように振舞っていたが、私はカナデの精神が限界に近付いている事を感じた。先生に相談したらどうかと提案したが、カナデは親に知られたくないと言ってきかなかった。そしてカナデに嫌がらせがあるたびに、クラスメイトのりこに対しての風当たりも強くなった。
私はその度にりこをかばい、カナデを励ましながら犯人を探した。しかし未だに犯人の目星はつかない。私も心身ともに疲れ果てていた。
ある日の放課後私は授業に集中していなかった罰として、裏庭の落ち葉の掃除をさせられていた。遅くなるといけないので、りこは先に帰らせてある。私が一人で黙々と作業をしていると、そこにカナデがやってきた。
「掃除お疲れ様~……一人でやれなんて、あの先生厳しすぎるよね。もう先生も帰ったし、まだ掃除が終わってないなら手伝うよ?」
「いやいや、もう終わるから大丈夫だよ。カナデこそ放課後遅くまで何かしてたの?」
私がそう尋ねると、カナデは目線を下に向けて自嘲するように笑った。
「いや……最近一人でいるのが心細くてさ……。ごめんね、あやねにも心配かけて」
「そんな! 私の事はどうでもいいよ! 私の方こそ犯人つかまえられなくて……早くカナデを安心させてあげたいのに……役立たずでごめん」
私は自分が情けなくて唇を噛んでうつむくと、カナデが慌てたようにそれは違うと言ってくれた。
「私はあやねがいるからまだ頑張って学校に来れているんだよ?あやねと話すと気が楽になるから……」
「カナデ……」
私はカナデの言葉を聞いて思わず涙がでそうになった。そんな私を見て、カナデは照れたように笑った。
「もう、何泣きそうになってんのよ! ……ねぇ、よかったら今日は一緒に帰らない? 気晴らしに遊びに行こうよ」
「もちろんだよ! ちょっと待っててこの掃除用具片づけてくるから」
私は少し離れた道具小屋に掃除用具を片づけ、カナデのもとへ急いだ。カナデは校舎の壁に背をもたれさせながら私の帰りを待っている。カナデが私に気付いて手を上げた瞬間
カナデの頭上から大量の水が叩きつけるように降ってきた。そして空になったバケツがカナデのすぐ横に落ちて、ガランガランと転がった。
カナデは全身ずぶぬれで、顔から雫がしたたり落ちている。私もカナデも何が起きたかわからず、ぼう然とその場で立ちつくした。
しかし次の瞬間、カナデはその場で崩れるようにうずくまり、今まで聞いた事のないような悲痛な声で泣きだした。
「も、もうイヤぁあああああっ!! 助けて怖いよあやねぇえええっ!!!」
「っっっっ!! カナデ! 大丈夫だから落ち着いて! カナデ!」
私はカナデのもとへ駆け寄り、力の限りカナデを強く抱きしめた。カナデは怯えるように私にしがみつき、ガタガタと震えている。
どうしてっ……どうしてカナデがこんな目にあわないといけないの!? カナデが何をしたというの!? カナデは人から恨みを買うような人間じゃない。誰にでも優しく親切で私の自慢の親友なのだ。嫌がらせだって周りに心配かけないように気丈に振舞っていた。それなのに……!
私は怒りでどうにかなってしまいそうだった。バケツが降ってきた所を見上げると、三階の踊り場の窓から誰かがこちらを覗いていた。しかし私に気付いたのかすぐに顔を引っ込めてしまい、誰がしたのかはわからなかった。
犯人だ……! 私はそう確信した。震えが収まってきたカナデに私はもう一度強く抱きしめた。
「カナデ! 犯人がまだあそこにいるかも知れないから私追いかけてくる! 制服をジャージに着替えたら教室で待ってて!」
「う、うん……」
私はカナデの返事を聞いて、すぐに犯人がいた場所へと急いで駆けだした。