私たちのすれちがい
窓から朝日が差し込んでくる。眩しくなって、目を開けると目の前にはりこの顔。私はしばらくりこの顔を見つめていた。
あ~りこが私の目の前にいる……いい眺め~……
…………ん?……っ!!?!?
「えっなんでりこがここにいるの!?」
私はそう叫んで勢いよく体を起こすと、私の声に驚いたのだろう。りこがビクッと反応して目を開けた。
「……う~おはようあやねちゃん……どうしたの?」
「…………あ~いや~ごめん。寝ぼけてた。……私のベッドにりこがいるってなかなか刺激的だよね」
私はそう言ってため息を吐きながら、にやける口を押さえた。心臓が飛び出るかと思ったが、これはこれで悪くない。
「ふふ……あやねちゃんってば……」
りこがおかしそうに笑うものだから、私もつられて笑ってしまった。しばらく二人で抱き合いながら、ベッドの中で過ごした。
私とりこが朝食を済ませ、さぁこれからどこに遊びに行く? と提案した時、りこは申し訳なさそうな顔で、もう帰らなければならないと伝えてきた。アメリカに単身赴任しているお父さんが帰ってくるので、家族で出かける約束をしているらしい。
私は一日ずっといっしょにいられると思っていたので、寂しく感じてしまった。しかしそんな事情があるなら無理強いはできない。けれど私は少しでもりこといっしょにいたかったので、駅まで送ろうと言った。
朝の住宅街は人が少ないので、私達は手を繋ぎ、他愛ない話をしながら道を歩いていた。
「昨日はすごく楽しかった……ありがとね、あやねちゃん」
「私もすごく楽しかったよ~! 誰かが泊まりにくるなんて久しぶりだったから。」
「………………他に誰かが泊まりに来た事あるの?」
「あ~うん、カナデは少し前までしょっちゅう泊まりに来たよ。」
私はそう言いながら歩こうとすると、手が後ろに引っ張られた。
振り返ると、りこはその場から動こうとしなかった。俯いていて顔の表情はわからない。
「りこ……?」
「水嶋さんもあやねちゃんのベッドで寝たの?」
「え?」
「っ答えてよ!!」
そう言って私の手を強く強く握りしめた。その痛みに私は顔をしかめた。
「いっ!? カ、カナデはいつも私と一緒にベッドで寝るけど、深い意味とか全然なくてっ……!」
「っっっっ!!!」
私がそう言うと、りこは強く握りしめていた私の手を離した。そのままじりじりと後退する。りこの表情が見えない。ただ体は小刻みに震えている。俯いた顔から雫がこぼれ落ちた。
りこに声をかけなくちゃ、そう思い手をのばそうとした時
急にりこは方向転換をし、そのまま勢いよく走りだした。
「りこっ!? 待って! りこ!!」
私はすぐにりこを追いかけるが、ここは住宅街で複雑に道がいりくんでいる。すぐにりこの姿が見えなくなった。私はがむしゃらに走った。次の角を曲がろうとした時、目の前に人影が見えた。
「ど、どうしたのあやね? びっくりした……」
「はぁ……はぁ……カナデ!? なんでこんな所に……?」
「いや、親戚に大量に頂き物もらったから、あんたにおすそわけしようと思って……何かあったの?」
荒い息を吐いて俯いている私に驚いたのだろう。カナデは私の両肩に手を置いて心配そうに顔を覗き込む。私は顔を上げ、カナデに詰め寄った。
「りこを見なかった!? りこ昨日から私の家に泊まりに来てて……駅まで送ろうとしたら急に走りだしちゃって……!」
「わ、わかったわかった。私もいっしょに探すから落ち着きなさいって……!」
カナデはそう言って、落ち着かせるように私の背中をよしよしと撫でた。
しばらく私とカナデはそれぞれりこを探したが、見つからなかった。駅の近くで別れたからもう電車にのってるのかも知れない。ケータイに電話やメールしても繋がらないので私がおろおろしていると、カナデが強く私の背中を叩いた。
「もう! しっかりしなって! ケンカした時はそんな簡単に連絡はつかないでしょうが! ……あんたには私がついてんだから落ち込むな!」
そう言って強く私を抱きしめた。
「うん……ありがとカナデ……心配かけてごめん」
カナデの体はあたたかい。カナデに抱きしめてもらいながらも、頭の中ではりこの事が頭から離れなかった。
その日の夜、りこからやっとメールがきた。
『今日はいきなり帰ってごめんなさい。忘れて下さい。
それとお父さんが日本にいる間、会社行くついでに、学校まで送ってくれるそうなので明日からしばらくいっしょに登校ができなくなりました。本当にごめんね。また明日から仲良くしてくれると嬉しいです。』
ねぇ、なんでいきなり帰ったの? カナデは友達なのに。なんですぐに返事を返してくれなかったの?
なんで朝いっしょに登校してくれないの? 私の事キライになっちゃったの? なんで……
りこから聞きたいことがたくさんあるのに、どれも尋ねてはいけないような気がした。
『私もりこを悲しませちゃってごめんなさい。カナデとは本当に何もないので気にしないで下さい。登校の事は残念だけど仕方ないよね。私もまたりこと仲良くしたいです。また明日笑って会おうね』
そんな無難なメールしか打てなくて、私はそのまま送信ボタンを押した。