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ディンダシェリア ~The World Of DYNDASHLEAR~  作者:
リーマサンデの闇へ
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ヴァンルー

次の日、まだ日が昇らないほど早くに、シュレーとマーキス、キールはチュマを連れて首都デシアへと旅立って行った。舞はそれを、見えなくなるまで見送った。まるで、夫と子供を見送る気持ち…。

チュマを抱いたマーキスが、何度も振り返りながら行ってしまうと、舞は本当に寂しくなった。また、無事に皆で会うには、ここでの任務を遂行しなければならない。舞は、森の奥へと再び歩いて行くアークについて、リーマサンデの部族、ヴァンルーへと向かって行った。

森といっても険しい事も無く、リーマ平野の中なので道もなだらかだった。歩きやすい道がこれほど疲れないなんて、と舞は自分の体力が付いて来ているのを実感した。今まで、登ったり降りたりの道ばかりを必死に歩いていたので、距離のわりには疲れたりしていたのだ。

何時間歩いたのか、皆で話しながら余裕を持って歩いていると、アークが言った。

「キーク湖が近くなって来たな。」キーク湖とは、リーマサンデの湖のことだった。「もうすぐだ。」

言い終わらない内に、回りの木々が揺れて、上から数人の剣を構えて背中に弓と矢を背負った男達が飛び降りて来た。

「きゃ!」

舞がびっくりして叫ぶ。男のうち一人が言った。

「…アーク?!アークか!」

アークが、微笑んで手を差し出しながらその男に歩み寄った。

「ランツ。久しぶりだな。」

ランツと呼ばれたその男は、笑いながらアークの手を握った。

「なんだ、来るなら来ると連絡をせよ。迎えに参ったのに。久しぶりなんてものではないぞ。あれから10年にはなる。」

アークは、答えた。

「突然にこちらへ来ることになっての。これらはオレの仲間だ。」と、圭悟と玲樹、舞、アディアを振り返った。「聞きたいことがある。こちらの国のことぞ。最近何か、変わったことはないか?」

ランツは、急に真面目な表情になった。そして、他の男達を見た。

「オレの客人ぞ。村へ連れて参る。準備をさせよ。」

他の男達は、頭を下げるとサッとそこを去って行った。ランツは、アークを振り返った。

「主の期待に応えるような話が山ほどあるわ。来い。ゆっくり話そう。」

アークは頷くと、圭悟達に頷き掛け、ランツについてさらに奥にあるだろう、ヴァンルーの村へと向かった。


ヴァンルーは、アークの村と同じぐらいの規模の、とても綺麗な村だった。家の作りも、アークの村と似ている。木で美しく組まれた家々は、温かみがあって舞は好きだった。そこの一番奥の高台に、ひと際大きな家が建っていて、ランツはそこへ向かって歩いて行く。中から、年配の男性が出て来た。

「ランツ、ローガの息子が来たと?」と、アークを見た。「おお、アークか。また男ぶりを上げおってからに!」

その男性は、嬉しそうにアークを見た。アークは少し頭を下げた。

「ラーイ殿。ご無沙汰しております。」

「ローガの葬儀以来ぞ。」ラーイは言った。「さ、中へ。」

横で、ランツも頷く。アークは、皆を伴ってその家の中へと入って行った。

応接間らしき部屋に通されて、やはりアークの家と同じように板の間が広くあり、そこに敷物が敷かれてあるのだが、そこへ座るように言われ、皆はもう慣れたように座った。ラーイとランツが並んで正面奥の席に座る。座ってすぐに、ランツが言った。

「主がここまで来るぐらいぞ。余程の事であろうの。まずはそちらの話を聞こう。」

アークは、圭悟達を見た。

「まずは、オレの仲間達を紹介しよう。こちらから、ケイゴ、レイキ、マイ、アディア。」皆は、頭を下げた。アークは続けた。「オレが、この問題に取り組む事になったのは、こやつらと共に行動するようになったからぞ。アディアは、リーマサンデの王城に囚われていたのを、仲間が救出してつい数日前に合流したばかりであるが、他の三人はずっと共に歩いて参った。」

ランツは、圭悟達に向けて軽く会釈した。

「オレは、このヴァンルーの長、ランツぞ。これは父のラーイ。10年前にアークの父のローガが亡くなってアークが18で長の座に就いた時、我が父上も家督を譲ることになさった。なので、オレも10年前からここの長なのだ。」

ラーイは、ランツの隣で頷いた。

「ローガはいいヤツだった。若い頃から、何でも話し合って来たのに…先に逝きおって。」と、ラーイは寂しげに下を向いた。「アークが幼い頃は、よくここへ連れて来られていたよの。同い年のランツとは、ずっと遊んで育った仲よ。」

アークは、圭悟達を見た。

「昨日も話したの。こやつらにはリシマに対する忠誠はない。治外法権であるからの。ここは、こやつらの絶対的は支配下にあるということだ。違う国のようなものよ。なので、ライアディータのほとんどの民が勘違いしておるが、リーマサンデとは、こういう小さな国を含んだこの広い土地のことを言うのであって、あちらのように、土地全体が一つの国というものではない。分かりやすいように、部族が支配しておらぬ場所は全てリシマの支配下にあるが、それだけのことよ。わかったか?」

圭悟と玲樹、舞は頷いた。アディアは、元々この世界の住人なのでそんなことは知っているようだった。アークは、ランツとラーイを見た。

「そう、思い出話をしておる場合ではないのだ。最近、命の気に絡んで何か無かったか?」

ランツが顔をしかめた。

「あった。この辺りの命の気というものは、作物から採って自分達の体のエネルギーとして使い、不要な分は大地に返す。そしてまた作物が吸い上げる大地から湧き上る命の気を食して、我らは普通に何不自由なく生きておったのだ。それが…つい最近のことぞ。そう、一年以上前になるか。」と、ラーイの方を見ながら言った。「命の気が異常に多くなっての。大地から吸い上げるだけでなく、空気中にも我らにしたらかなりの量が感じ取れた。別に害はないのだからと思っておったが…」

ランツは、いきなり立ち上がると、部屋の隅へ行き、壺の蓋を開けたかと思うと、そこから何かを引っ張り出した。そして、それを持って来て皆の前に投げた。

「見よ。これがパティーよ。」

ゴロンと、目の前にジャガイモのような色と形の、大きさはスイカの大玉ぐらいの物が転がった。舞はびっくりした…パティーって確か、こっちの世界ではジャガイモのことだった。つまり、これがジャガイモ?!超デカイ!

「でかっ!」

玲樹が、舞の代わりに叫んだ。ランツは、頷いた。

「そう、物凄く作物が育つ。それは良かった。食料の備蓄に困らぬからの。問題は、家畜であったのだ。」

ラーイが言った。

「最初は、小さな家畜から段々に大きく育つようになった。それはいい。大きい方が肉も皮も取れる。だがの、形まで変わって来た時は、さすがに駄目だと思った…まるで、主らの側の国にたくさん生息しておる、魔物と申すもののような型にの。」

圭悟と玲樹が顔を見合わせた。そして、圭悟が言った。

「でも、ここにはそんなに濃い命の気はなかったでしょう?あちらの魔物達も、あの状態では生きていけずに飢えに苦しんでいた。魔物に変化するほどの命の気の濃さって…。」

ランツが、首を振った。

「主らと我らでは、つまりは山のこちら側とあちら側では、人も動物も性質が違う。我らは、命の気の少ない場所で生きて来た種。主らは、命の気が豊富な所で生きて来た種。命の気が体に影響を及ぼす率も、こちらの方が高いのだ。」

圭悟は、ハッとした…そう言えば、デルタミクシアの最初の住人達は、命の気の吹き出し口に居たため、次々に人外のものに変化してついには滅びたのだと聞く。つまり、命の気も多過ぎると、どちらの民にも毒になるということなのか。

「では、ここの住民達は、皆魔物に変化する恐怖に耐えねばならなかったと?」

ランツは頷きながら、ラーイの方を見た。ラーイが頷いた。

「そう。初めはそうだった。皆がそれは怯えて、自分達もそうなるではないかと、家畜を見るのも怖がった。そして、なす術もないまま、ついに人としては一番弱い赤子と老人の一人が変化し始めて住民の不安が極度に高まった時、我らは、その命の気の制御をするという機械を手に入れたのだ。」

ランツが、ラーイの後を続けた。

「命の気を集めて、首都へと送るのだと言っておった。我らにとっては、過ぎた命の気は害でしかない。なので、その機械を購入し、命の気を吸い込ませて首都へと繋がれたパイプラインを使って、それを送っていた。お蔭で、作物も通常のサイズになり、赤子も老人も落ち着いた。ホッとしたものの…その原因をなんとかせねば、未来永劫この機械に頼らねばならぬ。なので、我らは調べたのだ。なぜにこのようなことになったのかをな。」

アークは、じっとランツを見た。ランツは、アークを見返した。

「それは、オレが説明せずとも知っておろうが、アーク。主がここへ来たのも、そんなことが絡んでおるのではないのか。」

アークは、頷いた。

「ランツ、我らは原因を探り出し、命の気の流れを、古来通りに戻すことに成功した。なので、乱れておったライアディータも元に戻りつつあり、リーマサンデも、この分なら気の量が減ったのであろう?」

ランツは頷いた。

「ああ。今では、あの機械も止めておる。」と、険しい顔で続けた。「あんなことを画策した、あやつらを生かして置くことは出来ぬと、最近では夜毎に我らも話し合っておったのだ。全ては我らにあの機械を買わせ、そして分散した命の気を、デシアに集めたいがためにやったこと。ここまで馬鹿にされたのは、初めてぞ。」

アークは、圭悟と玲樹を見た。圭悟が、言った。

「ランツ…あやつらとは?リシマか?」

ランツは、首を振った。

「主らは知らぬか?」と、アークの方も見た。アークも、首を振った。ランツは続けた。「デュー・イーデンよ。あの会社が、前々から訳の分からぬ物も作っておるのは知っておったが、どうもそのうちの一つは命の気を使って動かす物にするつもりであったようだ。それを開発するのに、命の気が大量に要った。なので命の気の流れを変え、あのような事態に持ち込み、あまつさえ我らが苦しみ出すのを待って、その機械を買わせ、タダで命の気を手に入れていたのだ。もちろん、主らがその企みを潰してくれたゆえ、今は滞っておるであろうがの。」

デュー・イーデン。玲樹も、圭悟も聞いたことがあった。イーデン・コーポレーションの社長。では、これはデューの仕業なのか。リシマは、関係ないのか。知っていても、無視しているのか。しかし、あの精神的拷問を行なっていたのはリシマだったと、アディアの証言がある…。

アークが、身を乗り出した。

「ランツ、主はどうやってそれを知ったのだ。あの王城へ入ったのか?」

ランツはふふんと笑った。

「デシアには、我の部下達が数人、もはやそこの住民のような顔をして住んでおるわ。その中には、イーデンに勤めておる者も居る。ま、このようなことがあったゆえ、そこに勤めさせたのであるがな。調べ上げるのに一年近く掛かったわ。無理をするなとだけ、言っておるゆえそれは慎重に調べておったからの。」

アークはランツを見た。

「我らの仲間が四人、あちらへ向かった。イーデン・コーポレーションに侵入しようとするだろう。」

ランツは、目を丸くした。

「今か?なんと…今は危ない。どういう訳か、ここ数日かなりの警戒気味で、用心棒に雇っておる警備兵達も、ベイクの方へとかり出されたりしておるようよ。なので、本部が手薄になるからと、また警備兵を募集までしておる始末なのだと聞いた。命の気を元に戻したのが主らなら、あやつらが狙っておるのは主らであろう?今は、行かぬ方が良い。通常なら出るボロも、今は出ぬであろうぞ。」

アークは、気遣わしげに圭悟達を見た。圭悟も、つぶやいた。

「…マーリが飛んで行くのは、デシアの王城前の噴水広場だよな…。」

アークは、イライラとして窓から見える空を見上げた。今はまだ、連絡が取れない。危ないと分かっている、王城の近くまで辿り着かないと、危険を知らせることも出来ないなんて…。

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