表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ディンダシェリア ~The World Of DYNDASHLEAR~  作者:
リーマサンデの闇へ
98/193

南デシア

南デシアの港は、本当にデシアの南側に位置していて、デシアへ行くにはここからさらに鉄道か、ライアディータでは見たことのなかったバス、もしくは歩いて行かねばならなかった。歩いても一日ぐらいで、途中、宿場町もあるので問題ないが、着いたのが夜だったので、いきなり歩く乗客も少なかった。

港の前には、それを見越して建てられた大型ホテルがあった。ほとんどの乗客がそこへと向かう中、九人はその流れから外れて、デシアへと向かう街道へ出ていた。

「ホテルに泊まりたいのは山々だが、ここまで来るとさすがに危なくなって来るからな。だから、街道沿いの脇にある森にでも野宿するかなと思ってるよ。」

圭悟が言う。アークも頷いた。

「デシアは警戒してるだろうからな。オレ達を見失ったんだから、守りは固いだろう。ここから、この大人数では怪しまれるから、役割別に分かれようと思っている。」

舞は、アークを見た。

「どんな役割?」

アークは頷いた。

「とにかく、まずは落ち着こう。オレはデシアには土地勘があるんだ。幼い頃から、よく父に連れられて来たからの。」

そういうアークは、どんどんと脇の森へと踏み入って行く。

皆は、遅れたら道が分からなくなると、黙って必死について行ったのだった。


アークは、開けた森の奥の、大きな木の下へと歩いて行った。暗くて良く見えないが、とても綺麗な場所に見えた。皆が荷物を置いて寝袋などを出してセッティングする間、手早く辺りから落ちている枝を探して来ると、アークはそこに組んで、火を付けた。

その火を見ていると、なぜだか舞はホッとした。ああ、なんだか一日が終わったって感じ…。

玲樹が、包みを開いて皆の前に並べる。船で、たくさんのサンドイッチや惣菜を買って来てあったのだ。皆でそれを食べながら、たき火を囲んで座っていた。

「これからは、表立っては捕えに来ないとは思うが、あちらも人質を奪還されて苛立っているはずだ。早いところ、不安な材料は消したいと思っていると思う。なので、間違いなく顔を知っているラキが駆り出されて、オレ達を探している。ラキの真意はわからぬが、一度はミクシアで我らを皆殺しにしようとしたヤツだ。チュマのお蔭で事なきを得たが、これからもそんな幸運が続くとは限らぬ。なので、公に動く者、密かに調べる者で分けようと思う。」

圭悟は、頷いた。

「そうか。顔を知られていない者達で行動して、顔を知られている者達は水面下で調べるって訳だな。」

アークは圭悟を見た。

「そうだ。なので、顔を知られておる者達は、しばらく宿屋にも泊まれぬがの。潜むよりないゆえ。堂々と街中を歩くのは危ない。」

玲樹が、ため息を付いた。

「分かった。で、どう分ける?」

アークは、マーキスを見た。

「ここで顔を知られてないのは、マーキスとキールと、人型のシュレー。それに、チュマだ。」と、チュマの頭を撫でた。「オレとケイゴ、レイキ、マイ、アディアは既に知られている。表に出て行く訳には行かない。なので、ここら辺りには少数民族が住んでいるので、そこを訪ねて、情報を探って来る。」

マーキスはチュマを見た。

「チビをオレ達が連れて行くのか?危なくはないか。」

アークは、首を振った。

「子供が居た方がいいんだ。子連れの調査員など居ないと考えるのが、常識だろう。それに、チュマの術がなければ、主らはその姿を変化させることが出来ぬ…キールが試して分かったが、チュマと近くに居れば己の意思でも変幻自由よ。チュマの力を、勝手に使うことが出来るゆえな。」

マーキスが目を丸くした。

「キール、主はそんなことが出来たのか。」

キールはばつが悪そうに頷いた。

「アークが試してみよと言うから。案外に簡単に出来たぞ。」

アークは、舞を見た。

「こちらにはマイが居る。もしもの時に魔法を使うことも可能だ。そちらにもチュマが居れば、気の補充も完璧よ。なので、これで参ろう。」

シュレーが、頷いた。

「わかった。連絡はどうやって取る?」

アークは、気が進まなさそうにポケットに手を入れた。

「これしかない。」

そこには、小さく収まった白いハトが居た。舞がびっくりしていると、圭悟が頷いた。

「伝書マーリか。」

アークはフッとため息を付いた。

「マーリしか、ここでは連絡の取りようがないのだ。このマーリは、必ずデシアの王城前、市民が憩う噴水広場に行く。お前達はそこを日に一度は確認せよ。わかったの。」

三人は頷いた。

「今度こそ、リシマの事を調べなくては。しかし、正面から行っても皆のように囚われる可能性があるだろう。どうするんだ。」

シュレーが、アークを見た。アークは、考え込むような顔をした。

「王城ではなく、王城に入っている機械工作の会社があっただろう…イーデン・コーポレーションだ。そちらへ入り込んでみたらどうだろう?」

舞が驚いた顔をした。王城が、テナントビルみたいになってるの?!

「王城に会社が入ってるなんて!」

シュレーは頷いた。

「リーマサンデの王城は、リーディス陛下の王城のような形ではないんだ。高層の、20階建てのビルになってる。上の10階と地下は王が、1階から10階まではイーデン・コーポレーションが使っている…王は、最上階の全てを部屋としていると聞いている。」

アディアが、口を開いた。

「普通では近付くのは無理だわ。エレベーターも階段も警備兵が常に見回っているし、部屋には全て電子キーが付けられていて、IDカードと指紋認証で開くようになっているの。特に10階から11階へは簡単には登れないようになっているわ。私も、王の秘書官になって、やっと入れてもらったぐらい。それまでは、地下の狭い執務室に押し込まれて黙々と事務処理ばかりやらされていたもの。それも、執務室以外には足を踏み入れることは禁止されていて、ほとんど何も探れなかったけれどね。」

シュレーはアディアを見た。

「確かにその通りだ。しかしお前達が囚われていたのは地下だったな。」

アディアは頷いた。

「それは分かるわ。地下には牢があって、軍の本部があるようだった。さらに地下には水が引きこまれていて、傍を流れるセイン河から引きこんだのではないかと思う。何かあったら、軍がそこから河を伝って出撃して行くのよ。」

舞は、思ったよりずっと現実社会に近いリーマサンデに驚くばかりだった。それにしても、20階建てのビルが王城なんて…変な感じ…。

「軍の船もヘリも、全てイーデン・コーポレーションが納入してるからな。考えたらイーデンを調べたら、いろいろ分かるのかもしれない。何を作っているのか、細かく調べてみよう。」

シュレーは言う。マーキスに眉を寄せた。

「我らに出来る仕事などあるのか。機械など扱ったこともないのに、採用されるとは思えぬの。」

シュレーが答えた。

「それがそんな会社だから、警備のもの達もかなりの手練れを集めている。あちこちの小さな工作会社から、設計図を盗みに来たりが頻繁でな。しょっちゅう採用試験をしていて、レベルも高い。だがお前達なら採用されるだろう。金は唸るほどあるのだ。」

舞は、急に心配になった。慣れない体で、何かあったら…。

「みんな…無理はしないで。強引な事をしてはダメよ。捕まってしまったら…。」

マーキスは、舞を見て苦笑した。

「案ずるでない。早ようケリを付けたいしの。我らが行くことで解決に向かうなら、安いものであろうが。主は心配性であるの。」

そう言って優しげに微笑むマーキスが、舞は本当に心配でならなかった。責任感の強い人だから…。

アークが言った。

「では、明日夜明けと共に主らはデシアへ。オレ達はここを少し行った所にあるヴァンルーという部族の所へ行って参る。」

圭悟が、心配げに言った。

「部族って…大丈夫なのか。リーマサンデの部族なのに。」

アークは頷いた。

「リーマサンデでは、各部族は完全に独立しておって、ライアディータのように王の傘下に入っておる訳では無い。部族の土地は部族が治めていて、そこへ王が介入することは出来ぬのだ。ライアディータでは、土地は部族のもので治めているのも部族自身だが、王の命は聞かねばならぬ。召集されれば王城へ参じて、戦にも出るのはそのためぞ。」

舞は、それを聞いて驚いていた。やっぱり、ここはライアディータのは違う国なのだ…。

シュレーが言った。

「まあ、それがこちらにとっては都合がいい。リシマが何を企んでいるのか、もしも知っている長が居たら教えてくれるかもしれないしな。オレ達は王都で直接探り、お前達はこっちで間接的に探る。効率がいい。」

アークは、頷いて焚火を消した。

「さあ、もう休むぞ。あまり火を焚いていると、敵に気取られる可能性がある。夜明けに起こすから、よく寝ておけ。」

皆が、寝袋に潜って行く。舞は一緒に入っているチュマを潰さないように気を付けながら、横にいつも入って来るマーキスの場所を開けて横になった。明日からは、マーキスが居ないと思うと、とても寂しい気がする…。

思った通り、自分の寝袋もあるのだが、マーキスは大きい舞の寝袋に入って来て、舞を横から抱きしめた。舞は、マーキスを見上げた。

「マーキス…明日から、本当に無理をしないでね。約束よ。」

マーキスは呆れたように笑いながら頷いた。

「わかったわかった。ほんに主は…しかしの、これを収めねば我ら結婚も出来ぬのだぞ?お互いに出来ることをするしかない。主こそ、無理をせぬようにの。」

舞は頷いてマーキスの胸に顔をうずめた。

「ええ…。」

マーキスは微笑むと、舞を抱き締めて目を閉じた。舞も、その暖かさに安心しながら、眠りに着いたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ