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ディンダシェリア ~The World Of DYNDASHLEAR~  作者:
リーマサンデの闇へ
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客船の中で

次の日は、朝食も取らずにすぐに河港へと向かった。朝一番の船に乗るためだった。

朝一番にも関わらず、船は満員だった。この船に乗れば、今日の夜には南デシアへ着くことが出来る。しかし、この後の船だと日をまたいでしまうのだ。なので、皆これに乗るようだった。

背に背に登山用のリュックを背負った人や、スキー用品を担いだ人達に紛れて、9人は誰に見咎められることも無く乗船した。大きな客船で、人が多過ぎて他人を詮索するような者は誰も居なかった。少しホッとしながらも、予約の客室へと入った。

シュレーとマーキスは、目を合わそうともしなかった。それどころか、舞とも二人共目を合わせなかった。そんな状態なので、嫌でも何かあったと分かるようなものだが、圭悟はあっけらかんと言った。

「あーあ、ここからまた夜まで船だよ。船の中に売店があったろう?朝飯を買って来るか。」

玲樹が、嬉しそうに立ち上がった。

「お、オレも行く!腹減ったよなあ~昨日はめちゃくちゃ早く寝たから、あれから何も口にしてないもんよ~。」

すると、キールが立ち上がった。

「では、オレも。兄者、何を食べられるか。」

マーキスはちらとキールを見た。

「そうよの…オレも行こう。」

と、マーキスは立ち上がって、キールの前を通り過ぎて先に戸を出た。キールは黙ってその後に続く。先に出ていた圭悟と玲樹の声がして、四人は食事の調達に出て行った。シュレーが、居心地悪げに立ち上がった。

「オレは何も要らない。少し、甲板へ出て来る。」

シュレーが出て行く。そうして、残ったのはアークと舞、それにアディアとチュマだった。チュマはまだうとうととしていて、椅子の上に寝かされて舞の上着を掛けられていた。アークが、舞を見て言った。

「マイ…昨夜、何かあったのか。」

舞は、ぎくりとしてアークを見た。アディアも言う。

「そうよ、マイ。一度部屋を出て行って、しばらく帰って来なかったでしょう?その後、様子がおかしかったから、私も声を掛けられなくて…そのまま、寝ていたのだけど。」

舞は、下を向いた。

「あの、水を買いに降りて行ったら、シュレーが降りて来て話したの。そうしたら、マーキスが来て…」と、舞は、思い出して涙ぐんだ。「私の気に、迷いがあるって。迷ってるなら、決められるまでは誰とも一緒に居ない方がいいと言われたわ。私、迷っているつもりなんてなかったのに。」

舞の涙を見て、アディアが慌ててその手を握った。

「マイ…。そうか、マーキスには気が見えるのだったわね。でも、心なんていくらでも揺れるのに。それこそ、数分単位でも。なのに、その時の気が迷っているようだからって、それは無いわ。」

アークは、ため息を付いた。

「マーキスは人慣れぬゆえの。決まった人としか接して来なんだのだから。オレから見たら、ただの八つ当たりのような気がするぞ。マイの気持ちが揺れるのを見て、苛立たしい気持ちと不安な気持ちを持って行きようがなく、そんな風に言ったのではないか。オレとて言えぬが、不器用な奴よ。」

舞は、首を振った。

「私が悪いんだわ。シュレーのことは、とっくに思い切ったつもりで居たの。なのに、あんな風に話して来られると、どこかで揺れてしまうのだわ。そんなつもりはなかったの…だって、マーキスを愛してる。シュレーとは、あの日バルクで終わったのだもの。」

アディアが、頷いた。

「そうね。誰だって、少しぐらい揺れる瞬間があってもおかしくはないと思うわ。それは、意思の硬い人も中には居るけど、ちょっと目移りする瞬間とか。ほんと、気が見えるって不便ね。そんなことまで知られてしまうなんて、私なら無理かも。」

アークは、苦笑してアディアを見た。

「確かにの。オレとて気が見えるが、見ようと思わねば見えぬ。なので、何とでもなるがな。しかし、我が妻はあまりに真っ直ぐな気でオレを想うてくれるので、逆にプレッシャーであるぞ。」

アディアは、驚いた顔をした。

「まあ。アーク、結婚したの?」

アークは頷いた。

「ああ。最近の。ナディア殿下ぞ。」

アディアは手で口を押えた。

「まあ、あの箱入りの皇女様と?」と、納得したように頷いた。「なら、あなたはラッキーよ。あの方は何も知らないかただから、とにかく真っ直ぐなのよ。アークと思ったら、アークなのよ、きっと。他は目に入らないんじゃない?アーク以外は草や花のように感じるのだと思うわ。私は、精神的なことはすごく良く感じるの。だから、分かるわ。」

アークは肩を竦めた。

「オレはそんな大した男ではないのだがな。」

しかし、舞はアークがどれほど勇敢で能力の高い族長なのか知っていた。しかも、これほどに容姿に恵まれているのだ。

マーキスは、アークに良く似ていた。今の旅で兄弟の設定にしているが、確かにそう見えた。色合いが違うので、パッと見たところそうでもないのだが、雰囲気が良く似ているのだ。

マーキスに思いが及ぶと、舞はまた暗くなった。マーキスを愛しているの…ずっと傍に居て、自分を大切にしようとして人を学んでくれた、マーキスを。

舞がまた涙ぐんだので、アディア慌てて言った。

「さあ、そんなに悲しまないで。大丈夫、一時のすれ違いだと思うわよ?そんなことは、世のカップルにはよく起こることだもの。これを乗り越えなきゃ。」

舞は、涙が零れ落ちそうなのを我慢して、頷いた。マーキスを愛しているんだもの。信じよう…。


一方、圭悟は、広くて物が豊富な売店に驚いていた。売店というより、普通に百貨店みたいなんだけど。この船の中に。

しかし、回りにはお土産を買い求める乗客達でにぎわっていた。圭悟は、玲樹を振り返った。

「なあ、気が付いたら月が替わってたよな。今月の今日、何の日だったか覚えてるか?」

玲樹は、不思議そうな顔をした。

「え、オレ達の現実社会でってことか?…なんだっけ、勤労感謝の日?」

圭悟は眉を寄せた。

「適当に言っただろ。なんで勤労感謝の日だよ。今日は、舞の誕生日なんだ。」

玲樹が、驚いたように目を丸くしたが、すぐに感心したように言った。

「お前、ほんとにそういうことにマメだよなあ。よく覚えてるよ。じゃあ、舞は今日、二十歳か。お祝いしてやろうか?小さなケーキでも喜ぶんじゃないか。」

圭悟は、頷いた。

「ま、女の喜ぶことは、お前が一番良く知ってるだろうから、任せる。オレはオレで舞に何か買ってやろ。何がいいかな。」

圭悟は、ぶらぶらと店の奥へと入って行った。マーキスは黙っていたが、そちらを気遣わしげに見ていたキールが、玲樹に言った。

「レイキ、誕生日とはなんぞ?」

玲樹は、キールを見た。

「知らないのか?生まれた日だよ。オレ達は、誕生日になったらプレゼントをもらって、ケーキを食べて祝ってもらうのさ。今日は舞の、20回目の誕生日ってことだ。」と、レストランの方をちらっと見た。「あそこで予約して、夕方祝うってのも手だな…。」

玲樹がそちらへ向けて歩いて行くので、キールはそれについて行きながら言った。

「それで、そのプレゼントというのは、何を渡せば良い。」

玲樹はキールを見た。

「別に強制じゃねぇぞ。心だから、何でもいいんだよ。だが、そうだな、アクセサリーなんかもらったら嬉しいのかもしれねぇな。恋人同士だったら、お揃いの指輪とか渡したり。ま、結婚しても同じ指輪をはめるから、宝石が付いてるヤツの方がいいかもしれねぇがな。」と、眉を寄せるキールを見た。「あ、そうか。すまないな、お前は舞と友達って感じか。だったら、食い物にしとけ。それが一番いい。甘いものでも渡しとけば、喜ぶって。」

キールは、歩いて行く玲樹を見送った。そして、マーキスを振り返った。

「兄者…そのように黙っておられてはならぬと思う。マイの気が、どんどん暗くなっておるではないか。マイは、本当にシュレーと兄者で迷うておるのか?オレには、そのようには見えぬ。」

マーキスは、ふいと横を向いた。

「…気が乱れておったわ。オレは、はっきりせぬのは好かぬ。」

キールは、マーキスの背にため息を付いた。

「無理をして。気付かれぬか。兄者の気、ずっと乱降下しておるぞ。人は、時に迷うが、結局は同じ方向へ向かって歩く。兄者が教えてくれたことではないのか。些細な事でマイを失っても、良いと思われるのか。兄者は、自分の苛立ちを、マイにぶつけただけにオレには見える。」

マーキスは、キッとキールを睨んだ。キールは、じっとマーキスを見ている。そのうちにマーキスは、下を向いた。

「…主の言う通りよ。オレは不安で仕方が無かった。なのにマイの気があのように乱れて、オレから離れようとしておるように見えて、黙っていられなかったのだ。」マーキスは、キールを見た。「オレは、このようなことには慣れぬ。主も知らぬのは分かっておるが、共に考えてくれぬか。どうしたら良い…マイを失いたくはないのだ。」

キールは、頷いた。

「今レイキが言っておったこと。兄者、何か贈る物を探せば良いではないか。幸い、ここにはたくさんの物がある。中へ参られぬか。」

マーキスは頷いて、キールと共に店を見て歩いた。

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