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疑惑のひと

舞は、アディアと共に部屋に戻っていた。そして、アディアの知っている染色の魔法を習っていた。アディアの髪はもう黒髪になっていて、それが簡単に出来る術なのは知っていた。しかし、微妙な色合いは難しいようだった。

「ああ、とてもおもしろいわね。」舞は微笑んだ。「こんなに簡単に染められるなんて。私が居た社会では、考えられないことだわ。」

アディアは笑った。

「ああ、舞は別世界の住人なのね。いくつぐらいかしら?」

舞は、恥ずかしげに言った。

「明後日、二十歳。まさかここで誕生日を迎えるなんて、思いもしなかったけれど。」

アディアは、驚いた顔をした。

「まあ、本当に若いのね!驚いたわ…でも、あのマーキスという人と結婚しているんでしょう。」

舞は、頬を染めた。

「いいえ、まだ。チュマは私の飼っていたプーが人型になった子で、私達の子ではないの。」

「そうなの?」アディアは目を丸くした。「マーキスは、何かが変化した人なの?」

舞は、答えようとして、ためらった。アークが何も言わないのも気にかかるし…話していいのかしら。

そこへ、マーキスの声が割り込んだ。

「オレは人よ。」舞は、驚いてマーキスを振り返った。「もう終わったのなら、傍へ戻って来ぬか。」

舞は、マーキスを見上げた。

「マーキス…。」

マーキスは、ホッとしたように舞を引き寄せた。

「まあ良い。さあ、そろそろ食事ではないか?その前に少し庭にでも出ようぞ。裏庭があるようなのだ。」

舞は頷いて、アディアを振り返った。

「じゃあね、アディア。また夕飯の時に。」

アディアは、微笑んで舞に軽く手を振った。舞も振り返して、マーキスについて出て行った。

そのあと、そこにシュレーが入って来た。アディアだけなのを見て取ると、シュレーは言った。

「舞はどこに?」

アディアは答えた。

「マーキスっていう恋人が迎えに来て、庭へ行ったわ。」

「恋人?」

シュレーは、開いたドアを振り返った。アディアは、そのドアの前に回り込んで閉めた。

「シュレー、どうしたの?」と、シュレーに身を寄せた。「そんなことより、ここには誰も居ないわ。その姿、とても似合ってる。」

アディアが唇を寄せて来るのに、シュレーは横を向いて首を振った。

「アディア、オレ達は離れ過ぎていた。オレはもう、愛してはいないんだ。お前が精神的に参っているようだったから、言い出せなかったが…。」

アディアは、驚いた顔をした。

「え…遅かったってこと?」

シュレーは、頷いた。

「すまない。オレを救ってくれたのは、お前じゃない。今はもう…愛していない。いや、あの瞬間に、オレ達はもう戻れなかったんだ。オレは苦しんで、元の姿に戻ろうとした。だが、問題はそんなことじゃなかったんだ。アディア…オレのことは忘れてくれ。お前は、戦友だ。それだけだ。」

アディアは、呆然とシュレーを見上げた。シュレーは、黙ってドアを開けると、舞を探して庭へと向かった。


「ここの月は二つよね。」舞は、空に現われた月を見上げながら言った。「私達の世界の月は、一つなの。もう二つの月にも、すっかり慣れたけれど。」

マーキスは微笑んだ。

「ほう。オレにはいつなり二つの月だ。主の世界へ行って、それを見てみたいものよ。」

舞は微笑み返した。

「一緒に行けたらいいのにね。でも、私が来るしかないのかなあ。私も、気が付いたらこっちに来ていて、それがどうしてなのか分からなかったんだもの。ハプニングだったの。」

マーキスは、舞を引き寄せた。

「レイキに聞いたぞ。主がこちらへ来た理由をの。レイキのあのいい加減な性格も、時に役に立つことよ。オレは、感謝しておるのだ。」

舞は、マーキスを見上げて微笑んだ。

「マーキス…。」

マーキスが舞に唇を寄せようと、伏し目がちに舞を見ると、シュレーの声が横から飛んだ。

「マイ。」

舞は、ハッとしてそちらを振り返った。人型になったシュレーが、そこに立っていた。

「シュレー…。」

マーキスは、無表情に、目を細めてシュレーを見た。シュレーは、こちらへ歩いて来た。

「マイ、話しがしたい。」と、マーキスを見た。「マイに話があるのだ。場を外してくれないか。」

マーキスは黙ってじっとシュレーを見ていたが、舞を見た。

「マイ?」

舞は、頷いた。

「マーキス、ごめんなさい。シュレーと話しをしなきゃ。」

マーキスは頷くと、舞の頬に触れて、少し不安そうな目をしたかと思うと、立ち去った。シュレーはそれを見送ってから、舞を振り返った。

「マイ…。」

シュレーは、舞に歩み寄った。舞は、少し緊張した…シュレー相手に、初めてのことだった。

「シュレー…人型、大丈夫?どこかおかしいことない?」

舞は、気になっていたので聞いた。シュレーは頷いた。

「大丈夫だ。元はきっとこんな感じだったろうし、もう慣れた。それより…すまなかった。」と、舞の手を取った。「命の危機があったと聞いた。そんな時に、オレは…お前の傍から離れて。守ると、約束したのに。」

舞は、下を向いて首を振った。

「いいの…シュレーには、大切な人が居るんだもの。私、勘違いしてて。私ったら子供だし、妹みたいだったでしょ?だから、シュレーにとっては、きっとそういう感じだったのかなって。」

シュレーは、首を振った。

「違う。オレは、確かにアディアを愛していたよ。だが、あの姿を理由に断られた。姿を戻さなければと思った…だが、もう、そんなことはどうでもいいと思うようになっていたんだ。」と、舞をじっと見つけた。「マイと出会ってから。マイは、オレを救ってくれた。あの姿のままのオレでいいと言ってくれた。なのに…アディアの命が危ないと思った時、オレは助けに行ったんだ。」

舞は悲しげに微笑んでシュレーを見た。

「それがシュレーの選択だもの。私は、気にしてないわ。」

シュレーは苦しげに舞を見た。

「そうじゃないんだ。オレは間違ってた。アディアは、とっくにオレの中で過去になっていた。オレが想って来たのは、マイだったんだ。アディアを助けたことは後悔していないが、マイを置いて行ったことは、心の底から後悔した…マイ、もう、オレを許してはくれないか?」

舞は、黙ってシュレーを見つめた。人型になっても変わらない、シュレーの瞳。いつもこの目に見つめられながら、安心して旅をしていた…。

「シュレー…。私は怒ってなんかいないわ。だから、許すとか、そんなことは関係ないのよ。」

シュレーは舞を引き寄せた。

「ケイゴは、もうオレには権利はないと言っていた。だが、オレはマイを愛してる。その権利を取り戻したいんだ。」

舞は、困って下を向いた。シュレー…。アディアさんを愛していて、そちらを選んで行ったのだと思っていたのに。私は…。

シュレーは、舞を抱き寄せた。舞はびっくりしてシュレーを見上げた。今まで、眠る時に寄り添ったりしかしなかったのに。

「シュ、シュレー?あの、私…」

シュレーは、舞に唇を寄せた。

「オレは…お前と一緒に居たいんだ。」

「シュ…」

シュレーは、舞に口付けた。舞は驚いて固まっていたが、慌ててシュレーから身を退いた。胸がどきどきしている…シュレーが!でも、私は、私は…!

舞は動転していたが、真っ赤な顔をして言った。

「シュレー…私、マーキスと旅をして、ずっと守ってもらっていたの。マーキスが私を支えてくれたわ。今は、マーキスを愛してる…この旅が終わったら、結婚しようと約束もしたの。だから…だからシュレーとは、一緒に居られないの!」

シュレーは、頷いた。

「やはり、マーキスか。だから、お前はマーキスと一緒に居るのか。」

舞は、頷いた。

「私の方から、マーキスを好きなったのよ。マーキスは、私を救ってくれたわ。だから…もう、無理なのよ。」

シュレーは、舞を見つめた。

「それでも、オレはお前を待ってる。」シュレーは、じっと舞の目を見つめた。「こうなったのは、オレが悪いんだ。だから、お前がオレに戻ってくれるのを、待ってる。」

舞は、どうしたらいいのか分からなくて、涙が浮かんで来た。

「シュレー…。」

舞は、思わずそちらを振り返った。シュレーは、舞をもう一度抱き締めて言った。

「マイ…!」

舞は、どうしたらいいのか、ただ混乱していた。もう、自分を捨てて行ったのだとばかり思っていたのに…。すっかり、思い切ったのに。どうしてこんなに、胸が騒ぐんだろう…。

ただただ戸惑う舞を、シュレーは抱きしめていた。

それを、マーキスはそっと見て、振り切るようにそこを離れて行った。

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