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違和感

結局、その時は策を練るために、その洞窟の空間に留まった。今までとは違い、出ようと思えばすぐそこをちょっと登れば見えている所に居るのだ。なので、安全を考えて、ここで話をしていた。シュレーには現状のことを、いくらか話した。バーク遺跡の物語を話そうと思ったら、かなり長くなるので、ここでは止めにした。アディアの好奇心が半端なく、少し話したら根掘り葉掘り聞かれるので、本当にかいつまんで、命の気の流れを戻したこと、シーマが無事なこと、腕輪は置いてきたこと、チュマの変身のことなどを話しただけだった。

チュマのことも、そこまで話した時にアディアは抱っこしようと側に呼んだ。

「まあ、そんな不思議な子なの?本当にかわいいわ。こちらへ来て。」

しかしチュマは、その時膝に乗せてもらっていたマーキスに抱き付いて、離れようとしない。

マーキスが、面倒そうに口を開いた。

「人見知りはせぬのだが、気が向かぬようよ。」

アディアはしかし、側に寄って来た。

「見てみたいだけ。あなたは、その大きな気は?」

マーキスは、あからさまに嫌な顔をした。舞が慌てて横から言った。

「あの、ごめんなさい。マーキスは人と話すのは、あまり好きじゃないの。」

アディアは、舞を見た。

「まあ。では、人ではない何かなの?」

舞が困っていると、シュレーがたしなめた。

「こら、アディア。やめないか。さっきから見ていたらいちいち細かい事を。今はそれどころではないだろうが。」

アディアは、少し膨れっ面になったが、頷いてシュレーの横に戻った。それを見て、チュマが小声で言う。

「…マイ…ボクやだな。何か気持ち悪いの。べっとりした感じに思うの。」

マーキスも、小さく頷いて舞を見た。

「チビは言いえておるの。まさにそんな感じの気よ。主とは対称的よな。」と、チュマを抱いているのと反対側の手で舞を引き寄せた。「側に寄れ。主の気でスッキリしたい気持ちよ。」

チュマも、舞に抱き付いた。

「マイ~。やっぱりマイは気持ちいい~。」

舞は苦笑してチュマを抱っこした。マーキスが、ガッツリ肩を抱いている。シュレーが、それをじっと見ている…舞は心中穏やかではなかったが、何も言わなかった。ふと見ると、キールもアークもこちらへ寄って座っていた。舞は驚いた。

「キール?」

キールは、ばつが悪そうな顔をした。

「すまぬの。気分が悪くなるので、ここに居させてくれ。兄者には悪いと思うが。」

マーキスは、眉を寄せながらも言った。

「仕方のない。気持ちはわかるゆえの。」

アークは、黙っている。舞はアークも同じなのかと、もうそれ以上何も言わなかった。


それから、策を練るにもアークが口を開かず、気のない返事しかしないので、先に進まなかった。途中経過の事を詳しく話そうとした圭悟に、遮るように話に割って入った他は、全く黙っていた。舞は、アークが理由もなくこんな態度を取る男ではないことを知っていた。それがなぜなのか、しかしここで聞くべきでないのは舞にもわかった。

それは皆も同じなようで、圭悟も玲樹も話さず、マーキスがじっとシュレーを見ていたが、立ち上がった。

「ここに居っても仕方があるまい。先へ進むしかないのだ。外へ出ようぞ。」

圭悟が、頷いた。

「そうだな。いつまでもここに居る訳にはいかないんだし。シュレーも怪我がないなら、一緒に行動しよう。」

そこで、やっとアークが言った。

「しかし、シュレーは目立つぞ。銀の毛皮に黒い模様のヒョウはあまり居ない。」

チュマが、舞にしがみついたまま言った。

「ボク、やってみようか…?元の姿は知らないから無理だけど、その形から人型にしたいって、念じたらなるかも。」

舞は、驚いてチュマを見た。

「そんな、出来るの?」

チュマは、頷いた。

「たぶん…マーキス達でも出来たんだもん。わからないけど。」

シュレーは、チュマを見つめた。

「オレを、人型に?」

チュマは、シュレーを見つめた。

「うん。でも、本当の姿じゃないかも。シュレー、人だったでしょ?その形じゃないけど、いい?」

シュレーは、頷いた。

「ああ。何でもいい。人型なら目立たなくて済む。やってくれ。」

チュマは、舞を見上げた。舞は、緊張気味に頷いて、チュマを下ろした。チュマは、シュレーに向けて手を上げた。

小さな手がパーに開いて可愛らしい。なのにそこからは、驚くほど大きな光が沸き上がり、シュレーを包んだ。シュレーはその中で形を失い、次の瞬間には、すらりとした体型の、銀色に黒いメッシュの髪の、ブルーの瞳の端正な顔立ちの男に変わっていた。シュレーは、自分の手を見た。

「…人の手だ。」

圭悟と玲樹が、感心してその姿を見た。

「まったく…いい男じゃねぇか。実際も、そんな感じじゃねぇのか?」

玲樹が言う。すると、アディアが口を押えてシュレーの手を握った。

「シュレー…まあ、驚いたわ。とても綺麗な顔…。」

シュレーは、近付いて来るアディアから、咄嗟に顔を逸らして手を振り払った。アディアは、びっくりしたようだったが、皆に見つめられて、決まりが悪そうにシュレーから身を退く。シュレーは、自分が咄嗟にそんなことをしたことに驚いたが、顔を上げて皆を見た。

「…これで、誰にバレることもないな。行こう。マイの結界もあるし、気を気取られる心配もないだろう。」

圭悟が驚いたように言った。

「え、そんな技を持つヤツが居るのか?」

シュレーは、首を振った。

「忘れてないか。リーマサンデには魔法はない。一部の者が使えるのは確かだが、命の気がないからな。ここは山岳地帯だから、例外的にまだ魔法が使えるんだ。あっちには、代わりに気が発する僅かな電磁波とかいうやつを測定して位置を特定する機械というものが存在する。オレ達も、それにやられたんだ。オレも最初は腕輪かと思ってそれを捨てたんだが、そうじゃなかった。アディアが、教えてくれたんだがな。」

アディアは、まだ少しショックを受けているようだったが、顔を上げて言った。

「そうなの…確かに、腕輪の電波を探知する機械もあるんだけれど、それはもう古くて。最新式の物が、その気が発する電磁波を調べる機械なのよ。でも、広範囲を調べる時は、だいたいの場所は分かるけど、細かい場所まで特定できないようで…特に命の気のあるこの辺りとかだと、その命の気が邪魔をして人の僅かな気は探知出来ないみたい。」

圭悟は頷いた。

「つまり、リーマサンデ限定の機械な訳だ。ライアディータは命の気が豊富で、全くそれが役に立たないからな。」と言ってしまってから、ハッとしたような顔をした。「え…ちょっと待て。じゃああれか、命の気が拡散してた時は、ライアディータでもその機械は使えた訳か。今は、オレ達が流れを戻したから、それは出来ないが。」

玲樹が、目を見開いた。

「そうだ!だとしたら、リーマサンデの機械ってのは、もしかして命の気があると役に立たないものが結構あるんじゃないのか。」

シュレーは頷いた。

「そうだ。命の気は強い波動を持ってるらしくて、精密機器とかいうやつを狂わせるらしい。ライアディータのような場所で開発された物ならいざ知らず、リーマサンデから輸入された機械は、ほとんどライアディータでは使えなかったからな。」

圭悟は、考え込むような顔をした。

「もしかしたら、その辺りに今度の騒動は関わっているのかもしれないな。とにかく、調べに行かないと。こっちには舞が居る。気を遮断することが出来るんだ。チュマの能力も、こうして変化だけでなく、いろいろあるようだし。」と、決意をしたような顔をした。「王宮に潜入して、何か知ることが出来たら…。」

アディアが、下を向いた。シュレーが、ためらったような顔をした。

「しかし…オレはいいが、アディアはあそこで精神的に追い詰められる拷問を受けた。アディアを連れてはいけない。」

玲樹が、困ったような顔をした。

「だが…王宮の内部を良く知ってるのは、その人だろう。だったら、一緒に来てもらった方が、助かるんだがな。」

舞は、少しマーキスが眉を寄せたのを見て取った。しかし何も言わなかった。アディアは、思い切ったように顔を上げた。

「いいわ。私も、何も陛下に持って帰れないのが不甲斐ないと思っていたの。一応兵隊なんだもの。一緒に行くわ。」

シュレーは、気遣わしげにアディアを見た。

「アディア…大丈夫なのか。」

アディアは頷いた。

「平気よ。今度は皆が一緒だし。」

アークが、やっと立ち上がった。

「行こう。シュレーの姿も変わったし、マイの結界もある。ベイクはヤバイが、その近くに小さな町が点在している。そこへ行こう。宿に泊まれるだろう。」

そういうと、皆の同意を得ることもなく、先に立って横の道を登って行く。マーキスが、チュマを抱き上げて舞に頷き掛けると、黙ってそれに従った。すぐにキールもそれに続き、圭悟がシュレーに合図して、促して歩き始める。アディアは、そのシュレーにぴったりついて歩いて行った。必然的に一番後ろになった玲樹は、登って行く皆の後姿を見ながら、何か違和感を感じたが、それがなんなのかは分からなかった。

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