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山脈の洞窟

そこは、舞が想像したような、さも入口ですと目の前に口を開ける場所ではなく、岩の間に、まるでただの窪みであるかのようにある、大きさ一メートルほどの縦穴だった。しかも、ほぼ垂直の急な斜面の途中にある。アークが先に降りて行って、上の雪を足でさっさと除けると、中を覗いた。そして、上の少し平らになった狭い場所で待つ皆に合図した。

「来い。」

マーキスが、チュマを背にくくりつけた状態で、アークが張ったロープに掴まって足を踏み出した。

「オレが先に行く。」と、圭悟と玲樹、キールに言った。そして舞を見た。「マイ。オレの前に。」

舞は緊張気味に頷いて、マーキスに背を向ける形でロープに掴まった。マーキスは、舞を守るように後ろからロープを持ち、自分の腰の短いロープを舞の腰のベルトに金具でつないだ。

「オレが後ろに居る。滑っても、繋がっているから大丈夫だ。安心しろ。」

舞は頷いて、マーキスと一緒に下へと地面を蹴った。

心配したようなことは無く、二人は簡単に五メートル下の縦穴に辿り着いた。それを見た玲樹が、進み出た。

「じゃあ、オレが次に。」

玲樹は、身軽にすいすいと降りて行った。思えばこういうことは、玲樹は得意だった。圭悟は、縦穴までは五メートルほどだが、その下がかなりの切り立った高い崖なのを見て、正直足がすくんだ。キールが、足を進めた。

「次はオレが。」と、圭悟の様子を見て、行き掛けて振り返った。「…圭悟?」

圭悟は、慌てて首を振った。

「ああ、ごめん。いいよ、行ってくれ。」

キールはじっと圭悟を見たが、ちらりと下を見て、言った。

「我らは空を飛ぶので、高さには強いのだ。」と、顎を振った。「共に行こう。オレが先に降りる。金具で繋ぐゆえ、主もすぐ後に続け。」

キールはそう言うと、マーキスと同じように、自分の腰のロープについている金具を、圭悟の腰のベルトに繋いだ。圭悟はホッとして、キールに感謝しながらキールのすぐ後をついて、降りて行った。

実際に降り始めると、下にはキールがすぐに居るし、手元のロープばかり見て下は全く見えなかった。無事に下まで降り切って、圭悟はホッとしてキールを見た。

「ありがとう、キール。」

キールは微笑んだ。

「なんでもなかったであろう?」

金具を外しながら、キールは言った。圭悟は頷いて、縦穴を覗いた。縦穴自体は一メートルほどの深さしかないが、アークが横からひょこっと出て来た。

「こっちだ。横穴があるのだ。」

圭悟は頷いて、縦穴へ足から入ると、這うようにして横穴を進んで行くアークについて、屈んで狭い横穴を進んで行った。後ろからは、キールも付いて来る。そのまま三メートルほど進むと、開けた岩の空間が広がっている場所に出た。そこには、マーキスと舞、チュマ、玲樹が待っていた。

「おお、皆無事に入れたようだな。」

マーキスが、背にくくりつけていたチュマを、背中に背負った空のリュックのような鞄に入れ直しながら言った。険しい道ではどんなに揺れても落とさないようにくくりつけるが、他は鞄に入れて背負うつもりらしい。アークが頷いた。

「この入口は、オレの父が見つけたものでの。誰にも追われる心配はない。」

圭悟が、心持ち振り返りながら言った。

「だが…オレはあのアークが張ってくれたロープをそのままにして来たが。」

アークは圭悟を見た。

「大丈夫だ。この辺りは雪が吹き付けるから、すぐに埋まって探さなければ見つからなくなる。それより、これからは絶対にはぐれてはならぬぞ。腕輪が無いのだから、お互いの場所が分からぬし、ここの道の数は尋常ではない。そもそも、ここは道ではないのだ。自然に出来た網目状になった洞窟の中を、我らが調べて勝手に道として使っておるだけよ。ほとんどは行き止まりで、調べ終わった道を行かねば二度と出られなくなる。なので、道を知らぬ者は、絶対にここへは入り込んだりしない。彷徨って、死ぬしかないからだ。」

舞は、ゾッとした。こんな地中で、出口を求めて彷徨って死ぬなんて、嫌だわ。

アークが、舞を見た。

「マイ、光の魔法は出来るか?照らしてくれぬか。」

マイは、頷いて慌てて杖を出して大きくした。そして、先を光らせ、周囲を照らした。

それまで、ぼうっとしか見えなかった回りの状況が、はっきりと見えた。回りはゴツゴツと手触りの悪そうな岩肌で、所々下へ向かって突き刺さるように鍾乳洞が並んでいた。あっちこっちの上、下、横、斜め横とたくさんの穴が開いている。アークは迷いなくそのうちの一つへと歩き出した。

「こっちぞ。さあ、遅れずについて参れ。ここには、実は厄介な魔物が住んでおってな…普段はおとなしいが、光に敏感で、光が目に入ると攻撃して来る。それから、魔法技を使うと、その命の気に反応して命の気を食らおうと寄って来る。この道は、巣から遠く離れておる道であるから大事ないとは思うが、オレの合図ですぐに光は消すようにして欲しい。」

舞が頷き、皆は、急いでアークについて歩いて行く。足場はゴツゴツと良くないが、外で雪に足を取られていたことを考えると歩きやすくなった。

そして、七人は洞窟の奥へと進んで行った。


舞達が自分の救出に向かっているなど知らず、シュレーは洞窟の奥深く、恐らくまだベイクに近いと思われる所に、助け出した五人のうち一人と共に居た。残りの四人は、絶えず何かに怯えていて、眠っている時以外は体を固くして震えて動かなかったのだが、ここへ飛び込んで逃げて行く時に、あちこちの横穴へと闇雲に駆け出して行ってしまい、追う事が出来ずにそのままになっていた。腕輪もない今は、後を追う事も出来ず、探そうにも途中までは知っている道に居たシュレーも、追われるうちに敵兵を避けて横道に入る内に、完全に道を見失ってしまって、道がわからなくなっていた。そうするうちに、見慣れない広い空間に出て、そこで暖を取るために火を起こしてあたっていた。シュレーは、自分の知る洞窟の道が、何人かのキャラバンや兵隊が使う一般に知られている道だけだったことを後悔した。追う方も、道を知っているのでその道上を逃げることは不可能だったからだ。

横に居た、救出したアディアが言った。

「あまり動かない方がいいわね。ここはまだ、少し命の気がある場所だから、落ち着いたら私の術で人の気配を探ってみるわ。何人かが固まっていてくれたら、きっと気取れるはずだから、そちらへ向かって歩けば、その人達に助けてもらえるわよ。今は、まだ追っ手も居るだろうし。」

シュレーは頷いて、アディアを見た。アディアは、シーマが死んだ方がましな状態だと言っていたにも関わらず、助け出す時にははっきりとして、とても錯乱しているようには見えなかった。他の四人の状態を見ていたシュレーは、アディアに言った。

「アディア、どうしてお前は無事だった?他の四人は、シーマが言うには部屋に入れられて戻ったら錯乱状態だったと言っていたぞ。あの部屋の中で、何があった。」

アディアの顔から、フッと余裕が消えた。そして、固い表情で言った。

「…思い出したくないわ…精神攻撃よ。」アディアは、ガクガクと震えた。「私は、内向的な技に長けていたから、こうして無事だったけれど。他の四人は、無理だったのね。」

シュレーは、アディアにさらに聞いた。

「精神攻撃?それは…」

アディアは、頭を抱えて叫んだ。

「やめて!」アディアは、もっと震えた。「思い出したくないの!もう、嫌よ!あんな思いをするのは…!」

シュレーは、激しく震えるアディアの肩を抱いた。

「すまない。いったい何が起こってるのか、陛下にもわからない状態で…つい、問い詰めるように。」

アディアは、シュレーを見上げた。

「シュレー…。」アディアは、潤んだ目でシュレーを見た。「ごめんなさい。あんなことを言った私を、敵だらけの場所に、あんな危険を冒してまで助けに来てくれて…私…。」

シュレーは、首を振った。

「もう、いい。仲間を助けに行っただけだ。」

アディアは、シュレーを見つめて言った。

「私は、間違っていたわ。シュレー…愛しているなら、姿の違いなんて関係ないのね。私は、後のことを考えたの…子供はどうなるのかとか、そんなことを…。でも、あなたが去って、わかったわ。そんなことではないの…心の問題なのだって。」

シュレーは、アディアを見つめた。

「アディア…。」

アディアは、涙を流しながら、言った。

「愛してるわ。シュレー…もう、姿が違うからなんて、言わないわ。そのままのあなたを、私は愛してる。」

シュレーは、まだ震えているアディアを抱き締めた。

「アディア…!」

そして、二人はソッと口付けあった。アディアは、シュレーの腕の中で微笑んだ。

「あれからどうしていたの…?どこかのパーティに入ったと聞いて、探していたの。」

シュレーは、頷いた。

「ああ。外から来たもの達のパーティで…」

シュレーは、ハッとしたようにアディアから身を離した。アディアは、驚いたようにシュレーに身を寄せた。

「シュレー?どうしたの?」

シュレーは、身を微かに震わせた。このままのオレが好きだと、オレを救ってくれた舞。オレは、確かに舞を愛して…。

アディアが、シュレーに唇を寄せて来る。シュレーは、心の中の葛藤に戸惑いながら、その唇を受けていた。


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