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準備

アークが不在の間、(おさ)の代行を務めていたシンは、アークに留守の間のことを報告し、そしてアークも、事の次第を話した。この辺りも、魔物はついぞ現れなくなり、本来住んでいた場所へと戻ったようだとシンも言っていた。命の気が、ライアディータ全体を満たしているということだった。

アークはため息を付いた。

「此度は、石を無事に戻したから後は知らぬという訳にも行かぬのだ。」アークは、長の場所に胡坐を組みながら言った。「この国を脅かす輩の企みがあると知ってしまった以上、なんとかせねばなるまいて。また別の方面から密かに攻撃を仕掛けてきおったら、民達も安心して生活出来まい。オレも、妻をここに連れ帰ることが出来ぬ。」

シンは、パアッと明るい顔をした。

「兄上、妻を娶られたのですか?どこのおかたでしょう。」

アークは頷いた。

「ここへ参ったであろう。ナディアだ。今は危険であるので、オレがあちらへ行っている間王城に居る。」

後ろの方で控えていた、部族の年寄達がざわざわとざわめいた。それは大変に嬉しそうな様子だった。シンが、満足げに微笑んだ。

「王女であるなら、兄上に相応しいと思います。」

アークが苦笑している。舞はその様子を見ていた。シンも村人達も、アークが大事で誇らしくて仕方がないのだろう。そんなアークが妻にするのは、最高の女でなければと思っているのは、舞にでもわかった。確かに舞から見ても、アークは見た目が凛々しいだけでなく、勇敢で術にも長け、能力もずば抜けて高かった。だが、同じ巫女の血を引くからなのか、舞からは兄弟のような親しみしか感じられなかった。既にナディアの夫だからなのかもしれない。

マーキスが小さな声で舞に言った。

「娶るとは結婚のことか。アークは結婚しておったのだな。ちょうど良い、玲樹では心許ないと思うておったのよ。人の結婚のこと、アークに聞くことにするの。」

舞は、マーキスを振り返って同じく小さな声で答えた。

「マーキス、焦らなくていいわよ。私は逃げないわ。」

マーキスは小さく微笑んだ。

「わかっておるよ。だが、その時困るのは避けたいよの。知識は必要ぞ。」

その時ってどの時だろう…。

舞は思ったが、黙って頷いた。


シュレー達のことは気になったが、装備を整えて作戦を練る間、ライナンに留まることになった。ほんの数日のことなのだが、舞はその間のシュレーのことが気になって仕方がなかった。山なのだから、きっとこの時期寒いはず。装備は、皆の分を持って行っていたんだろうか。怪我をしていないだろうか…。

しかし、焦っても仕方のないことだった。与えられた家で皆と過ごすことになった舞は、マーキスとキールが裏の空き地で人型での戦いの指南をアークに受けると言うので、自分も行くことにした。魔法を使って戦ったことなど、本当に少ししかないからだ。

アークがマーキスとキールに掛かり切りなので、舞は与えられた小さな的に向けて、杖を振っていくつかの技を放った。間違いなく、命の気は戻っていて、自分でも驚くほどの炎が湧き上がる。チュマが、それを傍に浮いてじっと観察していた。

舞は、リーマサンデでは命の気が無いに等しいのを思い出し、皆に補充しながら戦うという、頭の混乱することを体得しようと必死になった。しかし、命の気の補充は巫女として気を使わずに行うこと、攻撃魔法は気を使って放つもので、どうやってもうまく行かない。しかし、これが出来ないと、どっちかしか出来なくなる。つまり、気を補充しなきゃならないから、戦えない。舞は、頭を抱えた。

『どうしたの?マイ。』

舞は、チュマを見た。

「チュマ…うまく行かないの。気の補充と、攻撃が出来ない。」

マーキスの方を見ると、キールと共にアークに対峙して、それは身軽に動いていた。アークが言う。

「すごいな、マーキス!教えた事をすんなりしおる。驚いたわ。」

キールがマーキスを見た。

「兄者は、昔から何でもすぐ出来る。我らは何でも兄者から教えてもらって来た。人の言葉もそうだ。人が何を言うておるのか、分からねばいざという時困ると言うて。それが、さらわれて別の地へ行った時役立った。兄者に間違いはない。」

マーキスはキールに、たしなめるように言った。

「キール、オレを全てだと思うてはならぬと言うたであろうが。主には主のやり方がある。己の頭で考えよ。あくまでオレのことは、参考にする程度にせよ。」

アークが、マーキスに感嘆のため息をついて言った。

「主は、ほんに頭の良いことよ。それともグーラという種族は、それほどに優秀であるのか。そう思うと驚異よの。」

舞は、それを見ながら息をついた。マーキスは優秀なのに。私は巫女なのに、何も出来ない…こんなでマーキスと結婚なんて…。

舞は、チュマに言った。

「チュマ…チュマは、何が出来るのかな。私を助けてもらえそう?」

チュマは、驚いた顔をしたあと、急に真面目な顔をした。

『うん!マイ、ボクにそう言ってくれるの、初めてだよね。ボク、がんばる!何をすればいいかな。』

舞は、首をかしげた。

「うーん、私が混乱しないで補充と戦いが出来るように、何か術を掛けてくれるとか、私を二人に増やす分身の術を掛けてくれるとか…。」

チュマは困ったような顔をしたが、頷いた。

『何が出来るか分からないけど、やってみる!うーん!』

チュマは、目をつぶって何やら唸り出した。舞は気遣わしげにチュマを見た。

「チュマ、無理はしなくていいからね。」

チュマはそれでも、力を入れて唸っている。そのうちに、光出した。

「…何ぞ?」

マーキスが、あちらでそれに気付いてこちらを向く。舞は、ますます強くなる光にチュマの姿を見失いつつあった。

「チュマ?!ちょっと大丈夫?!光が強すぎて、見えないわ!」

光は、さらに強くなった。舞は、正視出来なくなって、思わず目を押さえた。マーキスが、慌てて走って来て舞を抱き締め、光から庇った。

「どうなっておる。チビはあの中か?」

舞は、頷いた。

「私を手伝ってくれようとして…何が起こるか分からないの!」

キールとアークも走って来る。ついにカッと閃光が走り、光がおさまった。

「…マイ、ボクね、きっと代わりにマイを通して皆に力を送れそう。」

そこには、五歳になるかならないかぐらいの大きさの、アッシュ系の柔らかい色の茶髪にブルーの瞳の小さな男の子が立っていた。舞は、その子を見て叫んだ。

「チュマ?!」

男の子は、駆けて来た。

「うん。マイ~ボクもこんな形になれた~!」

チュマは、舞に抱き付いた。舞は抱き留めながら、マーキスを見た。マーキスは言った。

「まあ、我らをこんな風にしてしまえるのだから、己のことなど朝飯前やもの。」

チュマはマーキスを見上げた。

「自分は出来ないと思ってたのに、出来たみたい。マーキス、これからもよろしくね。」

マーキスは苦笑した。

「ああ。こちらこそであるな。主に何とかしてもらわねば、我はこの姿にはなれぬからの。」

アークが、それを見て手を上げた。

「試してみようぞ。マイ、小さく気を遮断する結界を張るんだ。その中でも、我らが術を使えるのかみよう。」

舞は、頷いてチュマを下ろした。チュマはてくてく歩いて舞から離れると、舞が結界を張るのを見守った。舞が無事に結界を張り終えると、アークは言った。

「あの的に術を放つ。」と、チュマを見た。「オレに力を送ってみよ。」

チュマは頷いて、小さな両手を上げた。光がチュマの体に集束していき、アークに向けて流れ込んだ。

「おお!」

アークは叫んだ。アークから放たれた術は、的を捉えて物凄い勢いでそれを粉砕した。その勢いで舞の結界もフッと消えた。アークは、茫然としてチュマを見た。

「なんとの。思うた以上の気が流れ込んだので、力の調整がきかなんだ。どうなっておるのよ。」

チュマは、首をかしげた。

「うーん、わからない。ただ、力をアークにって思って頑張っただけ。」

マーキスが言った。

「実際は一人に補充するのではないぞ。人数を増やそう。マイ、もう一度結界を。」

舞は頷いて、また結界を張った。そうして、玲樹と圭悟も加えて、戦闘訓練は日暮れまで続いたのだった。

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