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行方

リーディスの居間へ通された後、座るように促され、皆手近な椅子へ座った。リーディスは、すぐに話し始めた。

「まず、シュレーが強く望んだので先にリーマサンデへ入っている。一人で参るのは危険だと諭して、やっとシーマを連れて行った。だが、あの二人は目立つからの。海から夜に貸しきりの高速船で秘かに入ったはず。」

圭悟が眉を寄せた。

「はず?」

リーディスは頷いた。

「主らが神殿に向かった夜なのだから、もうまる一日以上になるが、まだどちらからも報告はない。女神信仰とは便利なものでな。神殿に仕える男は、頭から大きな布で覆わねばならぬのだが、あの二人はその衣装で入ったし、見付かったということはないはずなのだが。」

圭悟は、玲樹と顔を見合わせた。

「…何か障害があって、通信が出来ないのでは。」

リーディスは頷いた。

「そうかもしれぬ。とにかく真っ直ぐに王宮へ向かっておるはずなのだ。シーマが言うには、そこの地下に囚われておるはずだからの。あやつの目的は、仲間の救出だと申しておったゆえ。」

舞は、拳を握り締めた。シュレーは、アディアさんを探して行ったのだ。隣りのマーキスが、ソッと舞の手を握った。舞は驚いたが、その手を握り返した。

するとそこに、執事らしき初老の男が飛び込んで来た。

「陛下!ただ今これが…!なんと伝書マーリを使って来たのでございます!」

皆が一様に驚いた顔をした。舞は、こそっと隣のメグに聞いた。

「伝書マーリって?」

メグは答えた。

「伝書鳩。」

舞も遅れて驚いた。伝書鳩って!

リーディスは慌ててその小さな紙を開いた。

「…シアから代理の者が書いている。シアに我の兵が数人、秘かに待機しておるからの。通信出来ぬのか。」と、リーディスは眉を寄せた。「捕らえられ、腕輪を取り上げられた。隙を見て敵の腕輪から送る。シュレーは救い出した数人と逃げたが、行方不明。シーマからだ。」

舞は、口を押さえた。では…他の人は助けたのに、シーマは捕まったの?!シュレーは…シュレーは、正気でない人達と、どうやって逃げたの?!逃げ切れないのでは…。

リーディスは、眉を寄せた。

「…厳しいの。先に救い出すことに、だから我は反対だったのだ。これであちらは警戒するだろう。王宮へ入り込むのが、これで難しくなった。リシマの狙いは何なのか、暴くのが先であったのに。シュレーは言い出したら聞かぬゆえ…我が間違いであったわ。」

圭悟が立ち上がった。

「とにかく今はシュレー達を無事にこちらへ連れ戻らなくては!シーマは…」

リーディスは首を振った。

「諦めよ。罠に掛かるだけよ。シーマを生かしておるとしたら、おびき寄せるためでしかないであろう。しかし、敵の腕輪を奪うほどだ。それにあやつは王宮にも詳しい。逃げ切れるやもしれぬ。」と、立ち上がった。「問題はシュレーぞ。他の者は赤子のような状態だと聞いておる。そんな者達を何人も連れて、あの目立つなりで山も海も越えられぬ。あやつこそ、時間の問題よ。」

やっぱり…と、舞は下を向いた。マーキスが、それを気遣わしげに見た。そして、リーディスに言った。

「オレが、行こう。」皆が驚いてマーキスを見た。「オレはグーラだ。行きは目立たぬように人型で参って、帰りは山を越えて飛べば良い。人質は何人ぞ。」

リーディスは答えた。

「恐らく五人。シュレーを入れれば六人。グーラ一体には荷が重い。不可能だ。」

マーキスはフッと笑った。

「女も混ざっておるだろう。シュレーも軽い。オレならば山ぐらい越えられる。」

舞は首を振った。

「ダメよ、マーキス!あちらは魔法を使わない分、変な機械をたくさん持ってるもの!撃たれたらどうするの!ましてたくさん乗せていたら、思うように飛べないわ!」

マーキスは笑った。

「何を知った風なことを。長距離でなくば大丈夫ぞ。案じるでないわ。」

リーディスは頷いた。

「ならば早い方が良い。シュレーの居場所は腕輪の反応をたどって調べさせよう。恐らく損傷しておるのだろう。連絡を寄越せないのだからの。」

マーキスは頷いた。リーディスが出て行く。舞は必死に言った。

「やめてマーキス!お願いよ!」

マーキスは微笑んで舞の頬に触れた。

「そんな顔をするでない。大丈夫よ。必ずシュレーは連れて戻るゆえ。」

舞は、ハッとした。マーキスは、私がシュレーを心配しているから、だからシュレーを助けようとして…。

「マーキス…!」

舞は涙を流した。シュレーは助けたい。でも、マーキスをそれで失うなんて耐えられない…!

圭悟がそれに割って入った。

「どちらにせよ、マーキス一人に行かせるつもりはない。これ以上誰かを失う訳には行かないんだ。シュレーの居場所が特定出来たら、まず合流することを考えよう。こちらにはグーラが三体、だが、飛ぶのが危険だと判断したら人型のままで脱出する。」マーキスが、抗議しようと口を開いたのを、圭悟は手を上げて制した。「いや、待て。マーキス、舞にこれ以上心労を掛けるな。シュレーが離脱した時より辛そうな顔をしているぞ?気付かないのか。」

マーキスは、舞を見た。舞は、涙を流して声もない。マーキスは頷いた。

「…分かった。主に任せる、ケイゴ。」

圭悟は頷いた。


それから、リーディスからの報告を待つ間、皆は部屋へと戻った。王宮にはナディアの部屋があるのでアークはそちらへ戻り、圭悟は玲樹と、グーラ達はグーラ達の部屋、メグとダンキスは病室へ、舞は一人で部屋を割り当てられていた。そこで座ってボーッと放心しながら庭を見ていると、マーキスが部屋へ入って来た。

「マイ。」

舞は振り返って、マーキスを見上げた。

「マーキス…。」

するとマーキスは、ためらいがちに言った。

「主はシュレーを特別に想うておるのではないのか。オレが行けば、確かに救える自信があるのに。」

舞はまた涙が浮かんで来るのを感じた。

「マーキス…私は、確かにシュレーを助けたいわ。でも、あなたを危険にさらしてまでとは思えないの…薄情と言われるかもしれない。でも、あなたが行くなら、私も行こうと思ってた。どのみちチュマが居ないと、あなたは姿を変えられないでしょう。」

マーキスは慌てたように足を踏み出した。

「主まで危険にさらせぬ。ならばチビだけ借りて参るゆえ!」

舞はマーキスに歩み寄った。

「同じよ!」舞は叫んだ。「私も同じ気持ち。マーキス、あなたを失いたくない。シュレーは好きだったわ。でも、私達何の約束もなく、ただ共に居たの。でも、シュレーは去った。マーキスが側に居て、私を守ってくれたじゃない。私達、もう特別な関係よね?マーキス、そうでしょう?だからキスしてくれたんでしょう?」

マーキスは、戸惑ったような顔をした。

「だが…主はオレなど…グーラなのに。」

舞は首を振った。

「そんなこと、関係ないわ。マーキスは本当に私を大切にしてくれる。あなたが好きよ、マーキス。だからこそ、キスしたんだもの。」

マーキスは、舞をじっと見た。

「主の気…偽りのない色ぞ。人は嘘をつく時、気の色が変わる。主は変わらない…。」

「マーキス…。」

マーキスは、舞に歩み寄って、抱き寄せた。

「そうか…なので主はあれほどに反対したのか。」と、舞の顔を見た。「オレがいいと言うのか。」

舞は頷いた。

「マーキスがいいの。いつも側に居て、私のことを考えてくれるあなたが。」

マーキスは、微笑んで舞に唇を寄せた。舞は、自分からその首に抱きついて口付けた。マーキスはそれを受けて、二人はしばらくずっとそうやって抱き合っていた。

舞は思った。マーキスが好き…そう、肉親のような情ではなく、本当に好き。離れたくない…。

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