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復活

どういうことだ。

アークは、シャルディークを警戒気味に見た。

「確かに、オレには巫女と同じものが見える。だが、それがどうしたのですか。」

シャルディークは、答えた。

《我があの力を一旦己へ戻す。》皆が驚いた。そんなことをしたら、せっかく戻った命の気がまた拡散してしまうのではないのか。《そうして、我がそのアークの身を借りてナディアの封を解く。我の力であれば、デクスの封が解けても再び簡単に封じることも出来ようからの。》

圭悟が、慌てて横から言った。

「でも、命の気の流れは?また拡散してしまうのではありませんか?」

シャルディークは、腕の中のナディアを見た。

《主、もう正気を取り戻したの?我が解放するまでの間、こちらへ向けて気を送ることは出来るの?》

ナディアは、シャルディークを見上げて頷いた。

《はい、シャルディーク。あなたに会えたのだから、我はもう大丈夫です。一本だけ、石を残してください。それを目印に、我はこちらへ気を送りまする。》

シャルディークは頷いた。

《そういうことだ。解放してからのことは、また考えようぞ。アーク、主の遠い祖先の我らのこと、助けてくれぬか。》

アークは、戸惑うように皆を振り返った。圭悟も、玲樹やマーキス、キール、リークを見る。皆が一様に困惑している中、圭悟は言った。

「助けて差し上げたいのですが、我々にはまだ、問題が残っておるのです。」シャルディークは、驚いた顔をして圭悟を見た。圭悟は続けた。「今回この石を持ち去るようにと企んだ輩が、山の向こうのリーマサンデと呼ばれる地に居ります。何人かの仲間も捕えられています。その者達をどうにかしない限り、また同じようなことが起こり、我らの生活を脅かすことになる。戦になりそうなほど、切迫したことであるのです。」

シャルディークは、ナディアと顔を見合わせた。ナディアが、言った。

《我は構いませぬ。もう、シャルディークに会えたのです。この上解放まで数年かかろうと、待つことは出来まする。全て終えてからで良いのです。》

シャルディークも頷いた。

《我らはもう、死んでおるしの。これ以上何かなることはない。それよりも、また困難な道であるのだろう。我が、手を貸そうぞ。》と、アークを見た。《アークよ。我はもう身を持たぬ。どこなり呼べば良い。ここで力を手に、主が呼ぶのを待とうぞ。そうして我は主の身に宿り、宿った間我の力を存分に使えば良い。》

アークは、圭悟を見た。圭悟は、頷いた。アークはシャルディークに膝を付いて頭を下げた。

「では、そのように。この事態を終息させた後、必ずあなたのナディアの解放に向かうとお約束致します。」

シャルディークは満足げに頷いたが、不思議そうにアークに問うた。

《我のナディアと?》

アークは立ち上がって微笑んだ。

「我が妻も、ナディア。」アークは傍らのナディアを抱き寄せた。「この国の皇女で巫女です。」

《おお》シャルディークは自分の隣のナディアと目を合わせて微笑み合った。《そうであったか。我らは似ておるの…のう、ナディアよ。》

光りの中のナディアは、嬉しそうに微笑んだ。

《ええ、シャルディーク。数千年経っても、こうして確かにあなたの血は絶えずにおるのが分かって、我は嬉しいですわ。》

二人は幸せそうだった。まだ片方が囚われたままとはいえ、数千年ぶりにやっと会うことが出来たのだ。

シャルディークは、石板の前に進み出た。

《では、一つを残し、我が力の封を解く。》

皆が、急に緊張した。命の気の流れ…これで確かに大丈夫なのだろうか。

シャルディークは、光り輝いた。

気の放流が湧きあがり、皆その圧力に風に煽られるようによろめいた。必死に辺りの石像などに掴まって目を凝らしていると、はめ込まれた石のうち、中央の一つを除いて全てが激しく光ってそこから伸びた光の筋がシャルディークへと向かっていた。

「これ…半端ねぇ!」

玲樹が舞を庇って後ろで覆い被さるように石像に掴まっていたが、その圧力に踏ん張る足がとられそうで叫んだ。舞も、石像にしがみつくようになりながら必死に踏ん張った。

もう駄目かと思った時、その気流は不意にやんだ。七つの石は光を失って、無色の石となっていた。

「終わった…か…?」

圭悟が、つぶやくように言う。シャルディークが振り返った。

《おお、無事封は解いたぞ。》と、皆床に這いつくばったり、石像に抱きついたりしているのを見て、怪訝そうな顔をした。《何をしておる。我が大層なことをしておる時に。》

光りのナディアが、苦笑して言った。

《まあシャルディーク、数千年経って忘れてしまったの?あなたは気が強いから、大きな術を使っておる時は回りに気流が発生するでしょう。皆、それに飛ばされまいと必死であったのですわ。》

《ああ》シャルディークは合点がいったという顔をした。《そうか、すまぬの。力を封じてから、ついぞ術など使わなんだゆえ。》

圭悟達は思った…つまりは、アークがこの力を使う時、きっと同じ状態になるんだ。気を付けよう。

そんな気持ちも知らず、シャルディークはアークを見た。

《では、行くが良い。そしていつなり我を呼ぶが良いぞ。我はどこへでも参る…解放されたゆえな。》

アークは、頷いた。圭悟達が、入って来た扉へ向かって歩いて行こうとすると、光りのナディアが言った。

《そちらは、侵入者除けの罠があって、戻るのも大変でしょう。》

舞が、振り返った。

「はい。でも、私や、こちらのナディア、それにアークは緑の文字のサインが見えるので…。」

光りのナディアは微笑んだ。

《こちらへ。》ナディアは、石板の裏側へとふんわりと飛んだ。そして、その裏にある、床の敷板を指した。《我の血筋の者が共で、その間に信頼関係があるならば、ここを通って外へ出ることが出来まする。もちろん、入って来ることも。ここには、入り口でそれを調べる術が発動するだけで、他は起こりませぬ。さあ我の血筋の者を先頭に、ここへ。》

ためらいがちに、アークとナディアがそこを通った。続いて圭悟、そして玲樹、キール、リークと飛び込んだ。

「さあ、参るぞ、マイ。」

マーキスに促されて、そこの淵に腰掛けた舞は、目の前に隠れるようにもう一つ扉があるのを見て取った。上に、忘却の間と書いてある。舞は光のナディアを見上げた。

「ナディア様、あれはなんでしょう。」

光のナディアは、そちらを見た。そして、答えた。

《あれは、心の病を得て治療も出来ぬ者達を通す門のようなもの。》ナディアの声は、憂いを帯びていた。《あまりにも、辛い出来事や、恐ろしい出来事を体験してしまうと、人は精神を閉じたり、狂うてしもうたりしまする。あそこへ入れば、それが起こる以前の状態へ帰ることが出来まする。》

舞は、首を傾げた。

「つまり…つらい出来事を忘れさせてくれる門?」

ナディアは、困ったような顔をした。

《いいえ、マイといいましたか?マイ、時をさかのぼるのです。記憶だけがさかのぼり、良いことも悪いことも全て、その人の中ではなかったことになりまする。あそこを通れば、どこまで記憶がさかのぼるのか分からない…時に赤子のようになってしまう者もありました。なので、滅多に使わぬのですが。》

舞は、その扉を見た。そんな扉だったのだ…忘却の間…。

マーキスが、再び促した。

「マイ?降りぬのか。」

舞はハッとして首を振ると、シャルディークとナディアに頭を下げて、そこへ飛び降りた。そして、それにはマーキスも続いた。

下では、皆が待っていた。玲樹が言った。

「なんだ舞、遅かったな。尻がつっかえたのかと思ったぞ。」

舞ははあ?!という顔をした。

「ちょっと玲樹、失礼ね!私のお尻はそんなに大きくないわ!」

すると横から、マーキスも頷いて言った。

「そうだ。マイの尻はそんなに大きくはないぞ。背に乗っておっても、時に乗っておるのかと思うぐらいよ。」

玲樹が目を丸くした。舞は真っ赤になった。

「マーキス!恥ずかしいから!」

マーキスは眉を寄せた。

「なんだって?恥ずかしいならばどうして話題になるのだ。オレは答えただけではないか。」舞が、たまらず足早に歩き出した。マーキスはそれを追った。「マイ?何も言わなければ分からぬと申すに。」

玲樹はその背を見送りながらため息をついた。

「あの姿がお馴染みになったけど、マーキスは困ったやつだよなあ。」

圭悟が、片眉を上げた。

「そうか?積極的に人を知ろうとしているんだから、いいじゃないか。むしろお前がそんな冗談を言うのをやめろよな。」

圭悟も歩いて行く。玲樹は面白く無さそうな顔をした。

「なんだよ。結局オレが悪いのかよ。」

そして一行は、無事にバーク遺跡の神殿から抜け出した。

外は、もう夜が明けて日が高かった。

どこからが突然に現れたように見えた圭悟達に、兵士達は慌てて駆け寄って来た。

「ああ!任務を無事に遂行なされたこと、おめでとうございます!見てください、命の気が復活しました!」

そこには、殺風景なのは変わりないが、どんどんと草が芽吹いて行くのが見えた。そして、ラグー達も遥か向こうで、じっと大地に立っている…恐らく、命の気を自分の中へ取り込んでいるのだろう。

「魔法が使える!」兵士の一人が、向こうで仲間と喜んで話している。「見ろ、今まで通りだ!」

事の次第はリーディスに伝えなければならないが、もう八人はもうふらふらだった。結局寝ずに居たのだ。圭悟は、ため息を付いた。

「もうホッとしたら、力が抜けたよ。ここからならラクルスが近い。マーキス、連れて行ってくれるか?」

マーキスは頷いた。

「ああ。我らも早よう休みたいゆえ。参ろうぞ。」

マーキス、キール、リークは、すぐにグーラに戻ると、皆を乗せてすぐ近くの港町ラクルスまで飛んだのだった。

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