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女神の真実2

ナディアは、狂ったようにシャルディークを探し求めた。しかし、一向に気配が掴めないことに、もはや命がないのかと絶望しながらも、ただどこかへ籠められているだけかもしれないと気持ちを奮い立たせて、必死に探した。

娘のシャリーナも、急に無くなった父の気配を探っていたが、母があまりにも嘆いて命の気の調整もままならないので、自分がそれをするよりなかった。

デクスは、毎日のように訪ねて来ては、母に話し掛けていたが、母のナディアはシャルディークを案じるあまりに回りが見えていなかった。デクスの言う事など全く耳に入らない状態で、じっと自分の結界の中に入って、シャリーナを共に、他は聞く耳を持たなかった。

デクスは、そんなナディアに言った。

「ナディア、あなたの大切なかたの消息が分かり申したぞ。」

ナディアは、初めてその声に反応した。

「シャルディークが、見付かったのですか。」

憔悴しきったナディアは、シャリーナに支えられて立ち上がった。何も食べず飲まず、もうひと月近くシャルディークを探し続けていたのだ。

デクスは、頷いた。

「どうも何者かに連れ去られておった様子。山の頂上にある建物に、籠められて居るのが見付かりました。だが、我の力ではとても破れぬ結界が張られていて…ナディア、あなたにお出まし願わねば。」

ナディアは、シャリーナを抱えてすぐに外へ飛び出した。山…命の気の源があると、我らはあの近くへ人が住む里を作った。里人達がそこへ石造りの建物を建てようと言い出して、皆で建てた。あの建物に、シャルディークが…!

あまりに素早い動きに、さすがのデクスも驚いた。

「ナディア!あの建物は何者かに変えられておる!我が共でなければ、シャルディークと同じ罠にかかりまするぞ!」

ナディアはちらとデクスを振り返ると、気でデクスを掴み、そのまま山へと飛んだ。宙に吊り下げられたまま、物凄いスピードで飛ぶ間、デクスは思った…やはり大きな力。かつてシャルディークはこれ以上の力だったという。ならばこやつも、このままにはして置けぬ!

瞬く間に、ナディアはその山の頂上を見下ろす位置に到着した。シャリーナは自分の気で包んで寒さから守っていたが、デクスは吹きさらしの空で身震いした。

「早く下へ!」

デクスは叫んだ。ナディアは地上へ降り立つ。そしてシャリーナの肩を抱いて、すっかり大きく様変わりしていたその建物の中を探った。シャルディークの気は感じられない…しかし地下深くに、何かの術の力を感じた。シャルディークは、その力に籠められて居るのね!

ナディアは、一目散にそこを目指した。シャルディーク…!無事で居る…?!

その場所は、本当に地下深くにあった。デクスが必死について来ているのを感じていたが、どうでも良かった。怯えるシャリーナを、ナディアは勇気づけた。

「大丈夫よ、シャリーナ。二人でお父様を助け出すの。でも、もしもお母様がその力に倒されてしまったら、あなたはお父様の力の元へ戻りなさい。そして、その力を借りてあの神殿を守るの。あの8つの力は、何者にも負けないわ。分かった?」

シャリーナは、幼いながら覚悟を決めた顔で頷いた。

そして、ナディアは最後の扉を開けて、術の気配のする部屋へ飛び込んだ。

そこは、広く天井の高い場所で、命の気が充満していた。

「シャルディーク!シャルディーク、どこ?!」

ナディアは、その部屋の奥の、激しく光る場所へと飛んだ。やっと追い付いて来たデクスが、息を切らせながら不敵に笑った。

「…ほんに…愚かなことよ。こうも簡単に引っ掛かるとは。」

ナディアはデクスを振り返った。

「どういうこと?!」

デクスは手を上げた。

「思い通りにならぬ大きな力の持ち主など、驚異でしかない。ならば我がこの地を支配するために、役に立てば良いわ!」

途端に、激しく光っていた光がナディアを捕らえた。ナディアは、全身をその力に押さえ付けられて、身動き出来ずに光の中へ落ちた。体がきしむよう…!何かに取り込まれようとしている!

「ハハハハ!永遠に大地の気を集める存在になれば良いわ!その力、戴こうぞ!」

ナディアは、歯を食いしばった。

「デクス…!お前がシャルディークを…!」

デクスは笑った。

「ああ、今頃は死んでおるだろう。主の力は通らぬ結界に籠めて、すぐ近くに放って置いたのだ。あんな男は忘れて、おとなしく我の言う事を聞いておったら良かったのに。」

ナディアは必死に抗った。こんな…こんな男に利用されるなんて!

「…お前などに…っ、」ナディアは手を上げた。「負けぬ!」

シャリーナがナディアに突き飛ばされて光から飛んで出た。デクスは、そのシャリーナに手を向けた。

「逃がさぬわ!」

すると、一瞬反れた術の合間にナディアはデクスに襲い掛かった。

「お前も封じてやる!」

もはや光に変化し始めていたナディアは、その光でデクスを捕らえた。デクスは突然のことに必死にもがいた。

「何をする!この…化け物め!」

ナディアは叫んだ。

《シャリーナ!逃げなさい!母と父のために!早よう!》

シャリーナは躊躇した。

「お母様…!」

ナディアは、首を振った。

《母はもう死んでおるのです!身は消失した。あなたはお父様の意思を継ぐのです!民達を、このような輩から守るのです!行きなさい!》

シャリーナは、ナディアに頭を下げて駆け出した。デクスが叫んだ。

《やめよ…!ナディア…!うおおおお!》

ナディアは、術に吸い込まれるのを必死に留まってデクスを締め付けた。

《お前もここに封じられる!二度と世に出ぬように!》

《あああ!死にたくない!やめろー!》

その声を最後に、デクスは封じられた。ナディアは力を失い、術に吸い込まれて行く。

《シャル…ディーク…》

ナディアはそうして、光の中へ消えた。


舞とナディアが、溢れ出す涙を拭いもせずにその話を聞いていた。横で、シャルディークがひたすらに光のナディアの肩を抱いて、気遣わしげに見ている。話している最中、時にその時の自分の状況の説明をした以外、シャルディークは黙っていた。ナディアは、続けた。

《それからの記憶は、あまり定かではありませぬ。》ナディアは首を傾げた。《ひたすらにシャルディークの気を追っていた気がする…そして時にシャリーナが気に掛かってハッと我に返り、あの子が時の王城をシャルディークの力を封じた石を使って見事に陥落させたのを知り申した。そして、シャリーナは子をなし、その子、またその子と我らの子は繁栄して皆、力は薄まったものの、我らの力を継いで繁栄して行くのを目の当たりにし申した。神殿はその子達によって守られ、その血筋の者でなければ決して入れぬように、デクスが作らせた罠をうまく利用して石を守っておったのです。血筋の子らは、いつしか巫女と呼ばれており申した。》

アークが、思わず腕の中の皇女のナディアを見た。ナディアは、言った。

「では、この力を持って生まれた我ら巫女は、あなた達の血筋であるのですか。」

光りの中のナディアが答えた。

《そう。おそらく遠い祖先が繋がっておるのでしょう。我らは数千年前に生きた人であるのです。それが、何かの弾みで現れる。それが、現在の巫女であると思いまする。なので、主と、そちらの黒髪の子も、我らの遠い孫であるのですわ。》

光りのナディアは、少し嬉しそうに微笑んだ。その表情があまりに美しくて、舞は我に返って涙を拭った。

「あなたは、では囚われておるのですね。ここにこうして来ているのは…」

ナディアは悲しげにした。

《我の気の一部。これもあの地に湧き上る命の気の流れに乗ってしか動けませぬ。シャルディークが呼ぶのが聞こえたので、此度は意識のほとんどがこちらへ来ておりまするが、それでも、全て解放されることはありませぬ。》

シャルディークが、ナディアの背を抱き締めた。

《我があのような輩に捕えられたばかりに、主には辛い想いをさせてしもうた。何とかして主を解放してやりたい…きっとシャリーナも、あの世で待ちくたびれておるだろうしの。》

ナディアは、シャルディークの胸に頬を寄せた。

《シャルディーク…ですがあれは、恐らくあなたの力でなければ解放するのは無理でありまする。それに、我が解放されて旅立てば、封じたデクスの術が解けてしまうやも…。》

シャルディークの力が、どれほどに強かったのかは舞達も実感していた。おそらく、自分達の力ではナディアを解放することは出来ないのだろう。シャルディークは、ナディアを抱き締めながら考え込んでいたようだったが、不意にこちらを見た。そして、一人ずつ順番に視線を移していたが、ふと、アークに視線を止めた。そして、言った。

《…主、名は?》

アークは、ためらいがちに答えた。

「アーク。アーク・ライネシア。山岳民族の、ライナンの長です。」

シャルディークはじっとアークを見た。

《…主の気、我に似ておる。ナディアにも似ておるがな。恐らく子孫であろうの。主の身ならば、我の気の大きさにも耐えられよう。》

アークは、身を強張らせた。

皆も、固唾を飲んだ。

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