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古の存在

「何だありゃあ?!」

玲樹が、突然に現れたまばゆい光に驚いてそちらを見た。この暗い地下牢全体を照らし出す勢いの光だ。

「マイ達の居るはずの方角だ!行こう!」

アークがそちらへ向かって走り出す。圭悟も玲樹もそれについて走った。

「これだけ明るいと、怖さもないな!」

玲樹は走りながら言う。圭悟は確かにそうだと思いながら、走り続けた。


一方マーキスは、目を見張っていた。目の前で、その光に包まれたその遺体が、みるみる若返るように見えたのだ。そして、起き上がったその姿は、アークのような風貌の、黒髪にガッチリした体型の男だった。瞳は赤かった。

《…まさかこんな日が来ようとはの。》その男は言った。《永久に解放される事はないと思うておった。まさかあの石を、ここへ揃えて持って参る者が居るとは。しかし、不完全よな。》

マーキスが言った。

「何も好きで持って参ったわけではないわ。主は死んでおったのではないのか。」

相手は頷いた。

《今も死んでおる。これは我の心、まあそうよの、霊魂とでも言うたほうが分かりやすいか。我は呪いのようなものを掛けられて、死してもここを離れられなんだ。我を助けようとする妻の力をここへ入れないために、こんな術で結界を張って…何しろ、我が妻は大変な力の持ち主であったから。これを破ろうと思うたら、我が力を封じた石をここに集めるよりなかった。しかし、それを出来る者はおらなんだ…何しろ、妻は我の居所すら、この結界のせいで探れなかったろうからの。》

舞は、呆然とそれを聞いていた。我が力を封じた石?この、女神の石が?

「あなたのお名前は?」

相手は頷いた。

《我はシャルディーク。妻はナディア。我らは、この地を良いようにしようと、力を合わせておったのだ。》

「舞!マーキス!」

そこへ、圭悟達が走り込んで来た。そして最後の数言は、アークも圭悟も玲樹も聞いていた。

「ああ、来てくれたの!」

舞は、三人を振り返って言った。圭悟は頷いて、光っているマーキスを見た。

「これは、マーキスがやっているのか?」

マーキスは首を振った。

「オレの背の女神の石がやっておる。」

シャルディークが、興味深げな顔をした。

《ほう、女神の石と。我は女神ではないがの。》

舞が言った。

「この石は、この人が自分の力を封じたものなんですって。」

三人は、驚いた顔をした。

「それって…では、神様なのか?」

玲樹が言うのに、シャルディークは笑って首を振った。

《そんな大したものではない。ただ、大きな力を持っておっただけよ。なので、それを地を助けるのに使おうと思った。しかし結果、こんなことになってしもうたがな。力をそれに自ら封じた我に、妻に危機を知らせる力は残っていなかった。》シャルディークはため息を付いた。《しかし、ようやく妻に会いに行ける。妻もとうに死しておるだろう。あれから時が過ぎ去っておるのは分かっておったが、我もここに封じられておる身。ただ留まるよりなかったのだ。残りの石はどうした?ここにはほとんどの石が集まっておるが、まだ欠けておるものがある。》

アークは、上を指した。

「要の間と言われる場所に。たった一つだけ残っており申す。」

シャルディークは頷いた。

《では、それを我が身に収めよう。それで、我は真に旅発つことが出来る。》

舞が、慌てて言った。

「待ってください!それでは、困るのです。」皆が、舞を見た。舞は続けた。「私達は、その石で命の気の流れをこちらへ戻すのです。そうしないと、それに依存して繁栄して来た生き物たちが困るのですわ。」

シャルディークは、眉を上げた。アークが、頷いて続けた。

「長くここに囚われていて、ご存知ないのかもしれないが、我らは命の気をこちらへ流して、その力の元、生活して参った。それが、人によってこの石を持ち去られたばかりに、命の気が拡散し、皆に行き届かなくなってしまった。そして生き物は人を襲い、人はそれに立ち向かう魔法技を出すことすら出来ず…。なので、それを正そうと、我ら分散していたこの石を集めて、ここへ持って来たのです。」

シャルディークは、考え込むような顔をした。

《…ここに篭められておる間、何があったか知らぬからの。では、この石を設置した場所へ共に参ろう。この上であろうが。》

シャルディークは、スーッと鉄格子を抜けて出て来た。玲樹が仰天して圭悟の後ろに隠れた。

「うわ、ガチで幽霊?!」

舞は、その言葉にシャルディークの足元を見た。亡骸はそのままだったが、シャルディークが離れると同時に霧散した。舞は、シャルディークを見上げた。

「…本当に何百年も前のことですのね。」

シャルディークは頷いた。

《そう。しかし桁が違うの。数千年だ。我がここに留まっておるゆえに、あの体も辛うじて形を残しておったまで。とっくに塵よ。ちなみに幽霊とか申すものではない。我の気の集まり…ま、命の源かの。さ、参ろう。》

アークは、回りの仲間に頷き掛けると、先導して出口へと歩き出した。

マーキスの背の女神の石はまだ光り続けていて、足元が見えないという心配はなかったが、スーッと飛んでついて来る男に皆が落ち着かない気持ちで足を急がせた。

もはや、回りの凄惨な状況も風景の一部と化してしまい、玲樹ですら何も言わなくなっていた。


やっと入って来た石の扉の前に到着してそこを抜けた時、圭悟はホッとした。来る時は、あれほどおどろおどろしく感じたこの階段が、今は明るく見える。実際に、石の光で明るいのは確かだったが、雰囲気が明るいのもまた確かだった。

アークが、全員がそれを抜けたのを見てその扉を閉じ、そして上に向かって登り始めた。

「この上の、すぐ脇に罠があるゆえ。決して無駄にあちら側へ参らぬようにの。」

アークは、舞とマーキスに言う。二人は頷いた。罠に落ちて、こうしてここから生還した者など、今までに居たのだろうか…。

ドンドンと急な階段を上がって行く。すると、上の方に扉が見えて来た。開けっ放しになっている。

「閉めて、次に出た時違う場所へ繋がっておってはならぬと思うてな。」アークが言って、扉の外を確認した。「大丈夫ぞ。さあ、隣りの部屋へ。」

舞は、その扉の上を見た。「要の間」と書いてある。舞は、その扉に手を掛けて開いた。

「ああ、マイ!」

開けた扉の向こうでは、ナディアがこちらを見て椅子から飛び上がるように立ち上がったところだった。キールも、リークも立ち上がった。

「兄者!やはりご無事か!」

そこへ入ると、石は一層激しい光を放って光った。正面の壁にある石で作った大きな彫刻のようなものには、穴が点々と開いている。そのうちの一つには、緑の丸い光があった。それは、マーキスが持つ他の女神の石と共鳴するように光を放った。

「何が起こっておるの?!」

ナディアが驚いてアークに駆け寄って来る。アークは、ナディアに言った。

「この力の持ち主が来たので、共鳴しておるのだ。」

アークは言って、ナディアを抱き寄せた。何が起こるか分からない…ナディアを守らねば。

シャルディークが懐かしげにスーッと宙を移動してその石板へ向かった。そしてそれに触れると、言った。

《…昔のままぞ。我らが、人々を助けようと命の気の流れを変えようとした、あの時…。大きな力で引き付けなければ、それは叶わなんだ。なので、我の力を八本の石に分けて封じ、その力で引き付けようと考えた。己の力など、この身に残らなくとも良いと考えて…。》

そうして、何があったのか知らないが、力を失ったシャルディークはあんな場所に封じ込められた。舞は思った。このまま、全ての力を取り込んで、行くべき場所へ逝ってしまったらどうしたらいいんだろう。

しかし、シャルディークは振り返った。

《石をこれへ。ここへ納めねばならぬのだろう?主らの願いは、我らが願ったそれなのだろうからの。》

マーキスは、圭悟を見た。圭悟は皆と目を合わせ、同意を確かめるとマーキスに頷き掛けた。マーキスは背の鞄を下ろして、中にある一見同じ、しかし少しずつ大きさの違う石を並べた。シャルディークは手を上げた。

《では納めよう。あの時と同じように。》

はまっていた石も抜け、8つの石はまばゆく光ながら浮き上がった。そして、それぞれの位置をまるで覚えてでもいるようにその前に浮かび、一本ずつ順に並んでそこへ吸い込まれるように入って行った。

シャルディークは言った。

《よし、来い!命の気よ!》

石のはまった石板が激しく光った。皆、直視出来ずに目を庇って手を翳す。遠く、何かの唸るような、しかし歌うようにも聴こえる音がするのが分かる。シャルディークが、驚いたように目を見張った。

《そんな…まさかそんな事になっておったとは!》

皆は、シャルディークの視線の先を振り返った。

そこには、光の中に溶け込むように、目を見張るほどに美しい髪の長い女が、両手を広げてシャルディーク目掛けて飛んで来ていた。

《ああシャルディーク…!》

鈴を振るようなその声は、確かにそう言った。そして愛おしそうにシャルディークにその腕を絡めて抱き付いた。シャルディークは、その姿を抱き締めた。

《おおナディア…!ナディア、まさか主まで囚われておろうとは…!》

皆は、絶句した。では、あれは女神ナディア。皆が信仰し、大地の母と崇める女神ナディアの姿…!

「囚われる…?どういう事なのですか。」

アークが、先に我にかえって問うた。シャルディークは答えた。

《ナディアは、遠く山の頂上にある建物に囚われておる。》

シャルディークの腕に抱かれたナディアは、頷いた。

《そう、我はシャルディークを失い、ただシャルディークの気を探して過ごしておりました。そして力を手にしようとする者に騙され、命の気を生み出す者としてあの地に籠められた。我の気はそうなっても、シャルディークの気を求めてこの神殿へ向けて飛ぶ。そう、この力の石はシャルディークの気がするのですわ。最近は、分散したようなシャルディークの気に混乱して、ずっと探しておりました。それが、今ここに。》

ナディアは、またシャルディークに抱き付いた。シャルディークは、それを抱き留めて頬を寄せた。

《ああナディア…しかしこのままでは、我らは永劫に離れて居らねばならぬ。安住の地へ旅立つには、主も解放されねばならぬ。何があった…こやつらは、我を見付け、解放してくれた。話すが良いぞ。》

ナディアは、頷いた。そして、皆を見た。

《我が夫を助けてくださり、感謝しまする。どうか我と、我の夫の話を聞いてくださいませ。》

皆は、固唾を飲んだ。女神ナディアが目の前に居る。

ナディアは、その美しい声で話し始めた。

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