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地下牢2

ギギギと嫌な音を立てて、その扉は開いた。恐らく気の遠くなるほどの長い間、開かれずに来たのだろう。ここまで来るほどの者なら、恐らくあの緑のサインも見えているはずで、わざわざこちらの扉を選んだりはしないだろうからだ。

そこには、真っ暗な階段が下まで真っ直ぐに続いていた。アークが、懐中電灯で下まで照らした。

「…なんの仕掛けもないな。ただの石の階段だ。行こう。」

「やっぱり行くのか。」

玲樹は、最後尾を圭悟にピッタリとくっついて歩いて降りて来る。圭悟は眉を寄せて言った。

「おい、玲樹、脚が絡まるだろうが。手すりもないのに落ちたらどうする。もっと離れろ。」

玲樹は言った。

「無理だよ!後ろからなんか来そうで怖くて仕方ないんだからよ!」

アークが呆れたように振り返った。

「仕方ないな。玲樹を真ん中に。まだ階段を降りておるだけであるぞ?」

圭悟は頷いて玲樹を前に出した。玲樹は、アークにはくっつく訳には行かず、それでもかなり近くを歩いて降りていた。アークはそんな玲樹を気にも留めず、階段を降り切った所、左側の石の扉を見た。

「ここからであるな。」

玲樹が息を飲んだ。圭悟もさすがに構えて硬くなりながら、アークがその石の扉に手を掛けて、開けるのを見守った。

「う…!」

玲樹が、口を押えた。中からは、何とも言えない生臭い臭いが流れ出て来たのだ。アークが、先にそこへ足を踏み入れた。

「…こうなっておったのか…。」

アークがつぶやく。そこは、とても高い天井がある広い空間だった。両脇には鉄格子がはめ込まれてあり、その中には幾つかの亡骸が転がっている。古いものから、アークが言った通り新しいものまであった。

懐中電灯に照らしだされたそれらを見て、玲樹が吐き気を押さえて横を向いた。

「…ずっとこんなのが続くのかよ。」

アークは険しい顔で頷いた。

「ここは要の間に近いゆえ、おそらく少ない。見よ。」と、天井に懐中電灯を向けた。「ああして螺旋状に上階を配置して、どこから罠に落ちてもここへ落ちるように設計されておる。もう少し奥へ行けば、恐らくもっと増えるだろうな。何しろ、入り口付近で罠に掛かるヤツの方が多かっただろうから。入り口はもっとずっと上であるから、落ちる高さも半端ないだろうし、命も無かったろうの。」

圭悟は、その鉄格子の前を歩きながら、鉄格子に必死で抱きついているような遺体も見た。もしかして…。

「…落ちても、生き残った者も居るのか。」

アークは重々しく頷いた。

「この状態を見ておったらそうよの。他の遺体の上に落ちたり、何らかのはずみで死に至らなかったのであろう。しかし…地獄よの。」

圭悟は、なるべく足元だけを見て歩いた。玲樹でなくても精神的に追い詰められるような光景だ。

アークは時に天井を照らして何かを確認し、そして時に現われる分かれ道を進んで行った。圭悟は言った。

「アーク、二人がどこに居るのか分かるのか?」

アークは、圭悟を振り返った。

「落ちたらしい場所は分かる。天井の形で、来た部屋や回廊などが分かるゆえ、それを逆にたどれば良いのだ。もう少しよ。」

玲樹は、ホッとしたような顔をした。圭悟がそれをたしなめた。

「玲樹、ホッとするのは二人の無事が確認されてからだ。」

玲樹は、タオルを顔に巻きながら言った。

「無事だろうよ。」圭悟が、怪訝な顔をするのに、玲樹が腕輪を振った。「二人の光りがまだある。」

そうだった、と圭悟が慌てて腕輪を開くと、アークが前で言った。

「圭悟!」圭悟はそちらを向く。「…ここだ。」

圭悟は、そこを懐中電灯で照らした。ここだけ、鉄格子が吹き飛ばされて歪んで落ちている。これだけの鉄格子を吹き飛ばす力?

玲樹が、鉄格子に寄って行ってペンライトで照らした。

「炎に焼かれた跡がある。魔法技か。」

アークが振り返った。

「マーキスがグーラに戻れたのだ。間に合ったのだろう。しかし、この牢は縦に長くて幅が狭いのに、よく飛べたものだ。」

アークは、鉄格子の取れた牢の中を調べている。玲樹は、どうしてあんなに平気なのだろうと思った。圭悟が、腕輪を見た。

「歩いてるな。あまり歩き回ったら危ないのに。」

アークは頷いた。

「出口を探しておるのだろう。オレは、天井の形で自分の場所が分かる。離れずについて来い。」と、自分も腕輪を開いた。「…オレは陛下から頂いた腕輪であるが、あの二人の位置も出ておるな。追って行こう。」

アークは早足に歩き出した。玲樹がそれに遅れてなるものかとついて行き、圭悟も足早にそれに続いた。


どれぐらい歩いただろう。

マーキスと舞は、完全に迷っていた。最初は分かっている場所までだったので天井の形を見ながらスムーズに行けたが、その先の道を知らない舞は、マーキスと二人、当てずっぽうで取った分かれ道に、場所が分からなくなっていた。こっちは危険地帯の下の方だったのかな…。舞は、マーキスを見た。

「マーキス、このままじゃ駄目だわ。一度、あの位置まで戻ろう。ほら、分かっていた場所よ。」

マーキスは頷いた。

「そうだな。こっちは行けば行くほど深い場所へ向かっているような気がする…恐らく、もっと地下深くまで潜るやもしれぬ。」

舞は身震いした。どんどんと迷い込んで、戻れなくなったりしたら…!

マーキスは、舞の肩を抱いた。

「大丈夫だ。気を強く持たねばならぬぞ。主は今一人ではないではないか。オレも、チビも居る。」

舞は、頷いた。そう、こんな所でへこたれてしまっては駄目…。

また来た道を、舞は天井を見て間違えないように確認しながら、歩いて戻っていた。すると、天井の方ばかりを見ていた舞は、ふと隅の方にある脇の牢の所を目に留めた。何かが気になる…なんだろう。

見ると、そこにはかなり古い亡骸が一体、取り乱すような形ではなく綺麗に整った形で横になっていた。皆が必死に出ようとしたような跡があったり、転落した状態であったりするのに、その亡骸だけは綺麗に横になって、胸の上で手を組んでいる。明らかに、落ち着いて死を迎えたような感じだ。マーキスが言った。

「どうした、知り合いか?」

舞は首を振った。

「違うと思うわ。でも、この人は落ち着いているわ。しかも、この上には床がないのに、牢に入っている。つまりは落ちて来たのではないのよ。しかも、この人だけ牢の中で一人っきりなの。」

マーキスは頷いた。

「つまり、こやつはどこかからここへ連れて来られて、入れられたということか。何も、こんな牢に繋がずとも良いのに。人とは残酷なものよの。」

舞が、その鉄格子に手を触れようとした時、何かに弾かれたようにバシッと音が鳴った。マーキスが慌てて手を引いて舞をそこから離した。

「なんだ?!何かの結界か?」

舞は頷いた。

「そうみたい…どうして、こんな所に?この人、一体何をしてこんな所へ繋がれたの…?」

舞のウェストポーチの奥へと引っ込んでいたチュマが、おずおずと顔を覗かせた。

『…それ、巫女を避ける結界だよ。』舞が驚いてチュマを見た。チュマは続けた。『巫女っていうか、巫女みたいな気を持つものを近づけないための結界。ボクはそう感じる。どうしてこんなものがあるんだろうね。』

舞は、ますます気になった。今にも崩れそうな、服が無ければ恐らく形も分からないかもしれないその遺体の主は、どうしてここに繋がれたのか。

「確かに、気になるの。」マーキスは、その鉄格子に手を触れた。「オレは何ともない。どうしたら…、」

マーキスがそう言い掛けた時、突然激しい光がマーキスの体から立ち昇った。白いような緑のようなその光は、真っ暗な牢を明るく照らして尚光った。

「な…!!」

マーキスは慌てて鉄格子から手を離す。それでも光は収まらなかった。チュマが、叫んだ。

『マーキス!女神の石だよ!石が光ってるんだ!』

「どうしたらいいの?!」

舞がチュマに叫ぶ。しかし、チュマは困ったように顔をしかめた。

『ボクにも分からないよ!』

目の前で、その光は激しくその遺体を照らし始めていた。

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