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バーク遺跡へ、再び

圭悟が、中庭の所で舞に追い付いた。

「待つんだ、舞!」

舞は、掴まれた腕を振りほどいた。

「ほっといて!いいのよ、私、大丈夫だから…!」

圭悟は、ため息を付いた。

「泣いてるくせに。自転車であんなに派手に転んでも泣かなかった舞が。」

舞は、圭悟を見た。

「圭悟…。」

圭悟は、苦笑した。

「あのな、舞。別にシュレーに他意はないと思うぞ?舞は、オレ達も、グーラ達も居る。それに、巫女だ。だから、命の危険はそれほど大きくないが、あっちはほんとに切実だ。誰も守ってくれる者が居なくて、しかもシーマの話だと気が狂ってる状態だろう。なら、殺すのなんか呆気ないもんだ。しかも、シーマがこっちのスパイだって知られたかもしれない状態で、命の保証なんてない。もう殺されててもおかしくないんだからな。シュレーも、それが言いたかっただけだろう。」

舞は、何度も頷いた。

「わかってる!わかってるけど…それが皆男の人だったらこんなに想わなかったと思うのに、女の人も居るでしょう?シーマが言ってた、唯一仲良くしていた人…。シュレーの様子がおかしくなったのも、その女の人が混じってると分かった時からよ。きっと、その人がとても大切なのよ!私なんて、シュレーに世話を掛けてばっかりで、それで、それで妹みたいに思っていただけなのよ!きっとそれに気付いたんだわ!」

圭悟は、泣きながら叫ぶ舞の頭を撫でた。

「舞…自分をそんなに卑下するんじゃない。シュレーの気持ちはオレにもはっきりとは分からないが、そんな簡単な気持ちじゃないと思うぞ?とにかく、シュレーを信じてみよう。シュレーは、仲間思いのヤツなんだ。だから、命の危険に晒されている仲間を見殺しに出来ないだけなんだ。早とちりしたら、後悔するぞ?」

「圭悟…!」

舞は、圭悟の胸に飛び込んだ。圭悟はびっくりした顔をしたが、黙って舞を抱き締めて、頭を撫でて居てくれた。

信じられたらいいのに。私が、信じてみようって思えるほど、余裕がある女だったら良かったのに…!

そんな二人を、遠い王宮の部屋の窓から見ていたシュレーは、そのまま踵を返して王宮を出て行った。


そうして、三体のグーラに分乗した圭悟、舞、玲樹、アーク、ナディアは、ダンキスとメグに見送られて一路バーク遺跡へと向かった。バーク遺跡までは、グーラで一日の距離だった。しかし、マーキスいわく、気流に乗れば、一体に二人ずつしか乗って居ない今なら、もっと早くに着けるだろうとのことだった。どれぐらいの高さを飛ぶつもりなのかも分からなかったので、皆は一応コートを着込んでいた。

『リークなどレイキしか乗せておらぬし楽なものだろう。我でも、ケイゴとマイであるからな。これまでを考えると、まるで羽のようよ。』

キールが、言った。

『アークが重いのだ。』少し憮然とした声だ。『こやつ、無駄に肉が硬くてがっつりしておるゆえ。』

アークが苦笑した。

「それはすまぬな。しかし戦うには、この体は重宝するのだぞ?」

キールはふんと鼻を鳴らした。

『それは知っておる。この中では主が一番力を持っておるわ。何しろ、人型の兄者と体型がそっくりであるからな。』

マーキスが笑った。

『文句を言うでない、キール。ダンキスを思えば軽いもんであろうが。』

キールは、口ごもった。

『まあ…それはそうであるが。』

マーキスは、笑いながら皆を先導して飛んで行った。

圭悟が、舞に言った。

「着いたら舞に先導してもらわなきゃな。巫女でないと、あの道は見えないし。」

舞は、気を遣って何か話そうとしてくれている圭悟に、無理して微笑んで言った。

「あら、ナディアもアークも見えるのよ?ほんと、巫女だらけ。あ、でもアークは巫女じゃないっけ。男の人ってなんていうんだろ。」

圭悟は、首を傾げた。

「なんだろうな?ああいう神様に仕えるのって、昔から女の人ばっかりだから。しかも、仕えるのが女神だしな。」

マーキスが口を挟んだ。

『どうも神というのが良く分からぬ。しかし、神の場所であるのに、あのようにたくさんの罠が仕掛けてあるなど…どうも我らには分からぬの。』

圭悟が答えた。

「だから、人にはいろいろ居るんだよ。良い心を持っている人、悪い心を持っている人とね。悪い心を持っている人に力が渡ってしまったら、世の中めちゃくちゃになるじゃないか…今だって、言ってみればそんな感じだからな。」

マーキスは、考え込むような顔をした。

『ふーん。難しいものよ。しかし、良い悪いとはいったいどう決めるのであろうな?あちらが立てばこちらが立たぬということを聞いたことがある。もちろん気を元に戻さねば我らは困るが、戻したら困る輩も居るのだろう。そういう奴らにとっては、我らは悪者でしかないのではないか。』

圭悟と舞は、顔を見合わせた。あまりにも、マーキスが言っていることが的を得ていたからだ。前回のパーティが必死に成し遂げた気の振り分け。リーマサンデは命の気が無くても困らないと思っていたが、もしかして、困るのだろうか。あれが間違っていたと思っているのは、ライアディータだけではないのか。もしかしてリーマサンデでは、あのパーティは英雄なのではないのか…。

二人が黙ったので、マーキスは言った。

『ま、我らは我らの正義の元に行えば良いのよ。でなければ状況は良くならぬだろう。元々は、こちらにあったもの。ならば、取り返すまでよ。』

圭悟と舞は、頷いた。そう、今は、失われた命の気を元に戻すことだけを考えよう。

日がかなり傾いた頃、バーク遺跡は眼下に現われた。


そこに降り立った一行は、入り口を見た。ルクシエムから戻った時と変わらない。点々と崩れた巨石があり、その中央にその入り口はあった。かなりの年月を経てもまだ残る形に、舞は感慨ひとしおだった。前に見た時は、ここまで思わなかったのに。この世界を知るにつれて、何もかもが意味があるものに見えて来る。

そして、前は居なかったこの遺跡を守る駐屯兵が進み出て敬礼した。

「陛下からお聞きしております。我らは危険なので中へ入ることは許可されておりませんが、皆さんはどうぞお入りください。何かあった時は、お知らせを。」

圭悟が頷いて振り返ると、マーキス達が、もう慣れたように人型になった。そして、圭悟に言った。

「ケイゴ、飯にしようぞ。我らここまで一気に飛んだので、腹が減ったわ。」

圭悟は頷いて入口を示した。

「じゃあ、中へ。入ってすぐの部屋は、なんの仕掛けも無いのが分かっているんだ。」そして、兵士を見た。「じゃあ、我々は中へ入ります。引き続き、外の警備をお願いします。」

兵士は、グーラ達が見る見る屈強な男に変わったのに目を丸くしていたが、頷いた。圭悟は、そんな兵士に苦笑しながら皆と共に中へと入って行った。

狭い階段を下りた所にある、あの広い部屋は変わっていなかった。相変わらず、たくさんの入り口がある。あの時は意識して見ていなかったので見えていなかった緑の文字のサインが、舞にははっきりと見えた。ほとんどが危険地帯の中、奥の二つが並んで別々の場所へといざなっていた。一つは、「女神の間へ」一つは、「(かなめ)の間」だった。

舞が、首を傾げた。

「要の間って何かしら?」

アークが、進み出て言った。

「石があったのは、要の間であった。我ら、前回間違って女神の間に行きついてしもうての。恐らく隣り合っているのはわかったが、なんのサインもなかったので危なくて一度引き返してもう一度この要の間の通路を降りて行った。そこに、この石を差し込む場所がある。一見同じように見える石も、それぞれの位置に合ったものがあるようで…しかも、差し込む順も決まっておるようであったの。傍の石版に、他の奴らには見えなんだが我には緑の文字が見えた。なので、マイにもナディアにも見えよう。」

舞は、緊張気味に頷いた。そうか、ただ戻したらいいだけじゃないのね。でも、ここにはシュレーはいない。私と、ナディアとアークの力だけで流れを戻せるのかしら…。

舞が、また沈むように表情を暗くすると、背後から圭悟の声が飛んだ。

「おーい、飯にしよう!缶詰を温めただけだが、腹の足しにはなるぞ。」

振り返ると、マーキス達はもう食べていた。玲樹が、その食欲に自分の缶詰を守るようにしながら見ている。マーキスは言った。

「結構いけるぞ。腹が減っておるしの。別に我らは何でもいいのよ。」

そして、口を大きく開けると上を向き、缶をひっくり返して中身を一気に口に入れた。隣りでは、ダッカで作り方を教わって舞とナディアが作った命の気の玉を手に取り、それにストローを挿して吸っているキールがいた。

「やっと一息ついたの。腹が減って来て途中落ちるかと思うたわ。」

舞は、苦笑しながらマーキスに歩み寄って、口の端に盛大に着いた汁を、タオルで拭ってやった。

「マーキス…人型になったら、人らしくしなきゃ。せっかく綺麗な顔なんだから。」

マーキスは、座ったまま舞を見上げた。

「…確かにの。世話を掛けるな。」

舞は頷いて、命の気の玉にストローを挿して渡した。

「はい。またあの罠のある道を降りなきゃならないかもだもの。」

マーキスはそれを受け取って、命の気を補充した。そうやっていると、沈んでいてはいけないと舞は思った。こうして、グーラのマーキス達だって、慣れない人の体でついて来てくれているんだ。だから、巫女の自分はしっかりしなきゃ。

舞がそう決心していると、マーキスとキールとリークが、じっと自分を見ているのに気が付いた。舞は、どうしたのかと戸惑いながら聞いた。

「なに?どうかした?」

キールが、ハッとしたように首を振った。

「いや…主、変わっておるの。」

舞は、驚いた。

「変わってる?何が?」

マーキスが答えた。

「今、気の色が変化したのよ。良い色…清々しいが、暖かいような。」

舞はびっくりした。もしかして自分の心境が変わったから?

「…今、巫女なんだからしっかりしなきゃと思ったの。それでかな?」

マーキスは頷いた。

「そうやって成長するとは、人はおもしろい。オレは主のその色、気に入った。前よりさらに心地よいわ。」

マーキスは、舞に頬を擦り寄せた。舞はびっくりして真っ赤になった。

「マ、マーキス!?」

マーキスはきょとんとした。

「なんだどうした?グーラであった時、主もメグもようこうしてオレに顔を摺り寄せておったであろうが。」

舞は思った。そうか、人型になったら、こういうことなのか。

「ご、ごめん、でも、今は人型だから!」

マーキスは尚も不思議そうだった。

「人は、理解に苦しむ。」

玲樹がそれを見ながらため息を付いた。

「まあなあ、形はそうだが、まだ中途半端だからな。人を理解するまでは時間も掛かるだろうよ。」

舞は熱くなった頬を覚ます為に手で仰ぎながら、そんな玲樹に、何を言ったかも聞き取れなかったのに、ただただ頷いていた。

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